聖職者の性犯罪は撲滅できるか

2019年02月26日 11:30

聖職者の未成年者への性的虐待への対策をテーマにフランシスコ法王の掛け声でバチカンで開催されていた「世界司教会議議長会議」(通称「アンチ性犯罪会議」)は24日、ローマ法王フランシスコの閉幕の演説で4日間の全日程を終えた。

バチカンで開催された聖職者の性犯罪に関する「世界司教会議議長会議」風景(バチカン法王庁の公式サイトから)

同会議には世界から114人の司教会議議長のほか、修道院や教会関係者約70人が参加した。会議を総括した最終文書は作成されず、フランシスコ法王は、「聖職者の性犯罪予防」と「加害者の処罰」に関する司教への指針の見直しなどを約束して幕を閉じた。

聖職者の未成年者への性的虐待は今始まった問題ではない。アイルランド教会、ドイツ教会、米国教会、オーストラリア教会、ポーランド教会など欧米教会等で発覚した聖職者の性犯罪件数は数万件といわれているが、その多くは既に時効となっている。しかし、21世紀に入っても聖職者の性犯罪は起きている。ただ、教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を人事という形で隠蔽してきたこともあって、教会法に基づく公式の裁きを受けた件数は少ない(「バチカンの『積弊清算』の行方」2019年2月19日参考)。

フランシスコ法王は会議の開催前、司教会議議長に聖職者の性犯罪の犠牲者と会い、その苦境を聞いてくるようにと課題を与え、会議初日の21日には協議のために21項目の枠組みを明らかにし、「世界は聖職者の性犯罪を糾弾するだけではなく、その犯罪に対する具体的な対応を求めている」と警告を発してきた。

法王は最終日の演説では、「われわれは教会を守ることを最優先するメンタリティから脱皮し、犠牲者をまず考えなければならない。教会は聖職者の性犯罪に対し厳しく対応し、聖職者の性犯罪を隠蔽することに終止符を打つ」と約束したが、具体的にどのような対応をするのかについて、何も語らなかった。

その一方、フランシスコ法王は、「性犯罪は教会だけの問題ではなく、社会が直面している深刻な問題だ。家庭やスポーツの世界でも発生している」と述べ、聖職者による性犯罪に対する批判を弁明することも忘れなかった。ただし、法王は、「性犯罪を犯す聖職者は悪魔の手先だ。教会での性犯罪はもっと悪い」と付け加えている。

聖職者の性犯罪に抗議する犠牲者団体(Ending Clergy Abuse(ECA)のHPから(2019年2月24日、バチカンで)

「アンチ性犯罪会議」の動向を追うためにバチカン入りした犠牲者団体は連日、サン・ピエトロ広場でデモを行った。聖職者による犠牲者団体は、バチカン会議が性犯罪を犯した聖職者やそれを隠蔽した聖職者の名前を公表し、彼らを教会から追放することを期待していたが、具体的な決定もなく会議が終わったことに失望し、「法王の演説は空言だ」といった怒りの声すら聞かれた。

フランシスコン法王の閉幕の演説に対し、ドイツのミュンスター大学教会法研究所のトーマス・シュラー所長は「失敗だ」と断言している。「フランシスコ法王はチャンスを逸した。法王は教会歴史で改革者としてではなく、既成権力の保護者として名を残すことになった。法王は性犯罪をグローバルな社会現象と評し、聖職者の性犯罪への教会の責任について何も言及しなかった」と総括している。

ドイツの犠牲者保護団体のマティアス・カチュ氏は、「法王は性犯罪対策では先頭に立って戦うと表明しながら、責任や過ちがどこにあるのかを明示せず、具体的な対応策を提示せず終わった。法王の演説は恥ずかしい」と酷評している。

また、イタリアの聖職者による性犯罪の犠牲者ネットワークは、「バチカンの会議が未成年者への性的虐待問題で明確な戦略を打ち出すものと期待していたが、司教議長たちは何も決めなかった。彼らへの信頼はもはやゼロだ」と述べている。

聖職者から性的虐待を受けた元修道女と会談したオーストリアのカトリック教会司教会議議長、シエーンボルン枢機卿は会議開催前、「会議にはあまり期待していない。聖職者の性犯罪が教会内で行われたという事実に対し、司教たちが共通認識を持つことができれば成功だ」と述べていた。なぜならば、聖職者の性犯罪について、アフリカ教会やアジア教会では、「それは欧米教会の問題に過ぎない」といった声が支配的だったからだ。

ちなみに、ドイツのカタリナ・バーリー法相は世界的に聖職者の性犯罪が起きているカトリック教会に対し、「個々の性犯罪に対し司法と密接に協調すべきだ」と求めている。

バチカンは16日、「世界司教会議議長会議」開催5日前、カトリック教理の番人・バチカン教理省(前身・異端裁判所)が米ワシントン大司教区のテオドール・マカーリック前枢機卿(88)に対し、未成年者への性的虐待容疑が明確になったとして、教会法に基づき還俗させる除名処分を決定した。枢機卿だった聖職者が性的虐待の罪で還俗の処分を受けるのは初めてだ。そして今回、世界の司教会議議長を招集して「アンチ性犯罪会議」を開催したわけだ。

バチカンは聖職者の未成年者への性的虐待問題を深刻に受け止めていることを内外にアピールしたが、「バチカン主催の『アンチ性犯罪会議』はバチカンが真剣に性犯罪問題に取り組んでいることを示すアリバイ工作に過ぎなかった」という辛辣な批判も聞こえる。

聖職者による性犯罪の犠牲者にとって、フランシスコ法王との会合も実現できず、不満足な会議に終わったが、今回の司教会議議長会議の開催が聖職者の性犯罪対策で成果をもたらすか否かは教会の今後の歩み次第だろう。バチカン放送によると、バチカンは近い将来、「未成年者の保護のための法」の施行、聖職者の性犯罪対策で苦慮する司教区へ「支援グループの派遣」、「未成年者の保護に関するパンフレット配布」などを実施するという。

いずれにしても、聖職者の未成年者への性的虐待問題の対応を協議する「アンチ性犯罪会議」が第2回、第3回と今後も開催され、会議が定期化されることだけはご免こうむりたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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