戦略無き東京:小池知事は原点に帰れ --- 筒井 和人

東京は日本が抱える問題の縮図である。

日本が抱える内政上の問題は、継続する、少子化と消費停滞である。これらは社会システムの公平性劣化がもたらしたもので、具体的には、地価、塾依存教育、年金等世代間格差、非正規賃金等が原因である。公平性劣化が将来不安となり、少子化、消費停滞をもたらしている。

そして、この公平性劣化が最も顕著なのが東京である。特に、地価、塾依存教育は日本の問題の先端にある。

さらに、それ以外にも東京には、固有の問題がある。それは木密問題、さらには、電力の他地域からの依存の問題である。

東京の木造住宅の密集地(写真AC:編集部)

木密問題とは木造住宅密集地域のことで、東京に広がり、地震の時に消防車が入れないほど、道が狭く、大きな被害が予想されている。地震より、むしろ、地震による火事の方が東京は怖いのである。電力の他地域依存とは、福島、新潟に東京の電気が依存している構造である。東京はこれらの問題に、日本の先頭に立って、解決に当たらなければならない

地価、木密、電力の他地域依存の解決ついては関連する面がある。これらの解決のためには、地価抑制に努め、具体的には、首都移転や、大学等の福島、新潟移転を検討すべきである。

木密については、首都移転に連動し、空いた土地に住居移転を進め、木密地域の道路の拡幅を進める。電力の他地域依存については、東京が得ている便益を電力立地地域と共有することにより、電力立地地域の理解を求めるべきであり、大学等の福島、新潟への移転を進めるべきである。これは、地価抑制にもつながる。

地価高騰は少子化等の原因であり、東京の出生率は日本一低い。また、木密不作為は第二の原発である。首都直下地震の予想確率の高さから木密対策は急務である。電力の問題、原発の問題も先延ばしには出来ない。電力立地地域との共通の理解を醸成することが急務である。

また、塾依存教育の是正も重要である。塾依存教育は、少子化の原因であるとともに、教育機会均等を崩壊させ、貧困の連鎖につながる。教育機会均等は戦後改革の柱である。失うことの許されない価値である。公教育を復活させ、塾へ行けないことが不利にならない、教育システムに戻すべきである。これは教育費負担軽減になり少子化解決にも資する

このように東京は、我が国が抱える、少子化や消費停滞という問題の最前線にある。また、木密や電力の他地域依存といった、東京固有の大きな問題も抱えている。東京が日本の先頭に立って、大改革をする必要があり、政府と協力して、改革を急ぐ必要がある。少子化も消費停滞も首都直下地震もエネルギー問題も待った無しの状況である。戦略無き東京、戦略無き日本から脱却し、社会経済、エネルギー、防災等の戦略の再構築を東京が先導しなければならない状況、立場にある。

写真AC:編集部

また、小池知事に関しては、都民ファーストや希望の党など、新たな政治の動きをリードしたことは評価されるべきものと思う。特に、希望の党は、新党結成時の理念は、憲法改正を掲げ、民進党のような、左右混合の混乱を避けるという問題意識も適切であった。

これに、国民が選挙で反応し、希望の党は比例で1000万票獲得した。私は、日本の民主主義が起動したと、嬉しく思った。しかし、その後の展開は、周知の通りである。小池知事には、都知事としての制約もあろうが、原点に立ち返り、憲法改正等、我が国が安全保障面で抱える大きな課題の是正にも、再度、取り組んでもらいたいと思う。

我が国は、社会経済と安全保障の戦略が空洞化している。社会経済は公平性劣化により、少子化と消費停滞が継続し、安全保障は、中国の弾道ミサイル増強により、米抑止が空白化している。平成とは、我が国の戦略が空洞化した時代である。小池知事を擁する東京が、安全保障においても、社会経済においても、国の先頭に立って戦略の再構築を主導してもらいたい。


筒井 和人 防衛省OB
1980年3月東大経済学部卒業後、防衛庁入庁。在米日本大使館一等書記官、防衛研究所企画官、北関東防衛局長、装備施設本部副本部長、技術研究本部副本部長などを歴任。2014年7月退職。

おしらせ:「小池都政迷走」の原稿を募集中です

都知事Instagramより

アゴラでは、2019年3月、「小池都政迷走」をテーマに皆様のご意見を募集中です。都議会空転の原因となった市場問題への対応など、小池知事の政治手法そのものへの評価はもちろんのこと、都議会議員の対応、さらには小池ブームを主導したマスコミの都政報道や、小池氏を選んだ都民の判断などについて、みなさまの忌憚のないお考えをお尋ねします。東京以外の地域の皆様のご意見も歓迎です。

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