ゲノム医療入門④日本に足りない遺伝子リテラシー

2019年03月04日 11:30

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ゲノム医療入門① 異同識別と親子鑑定
ゲノム医療入門② 解析で感染症も丸わかり
ゲノム医療入門③ 出生前診断は社会的なテーマ

米朝関係は、メディアの予想がほぼ総外れになる結果となった。予測不能のトランプ大統領の面目躍如とも言えるが、これでまた先の見えない国際情勢となった。「トランプはやはりトランプだ」という評価で傷は浅いように思うが(ロシア疑惑は別だが)、北朝鮮の金委員長にとっては、陸路で何十時間もかけて何をするためにベトナムまで行ったのか、との批判に晒されるのは必至で、意外に国内政治における傷は大きいものとなったのかもしれない。北朝鮮から目を離せない状況だ。ここまで計算していたのなら、トランプ大統領のディール政治は相当大したものだ。もちろん、そこまで計算できるとは思わないが!

そしてゲノムに戻るが、ゲノムを医療現場に応用するための最大の壁は、知識ギャップではないかと考えている。ゲノムや遺伝子と病気の関係についての教育をほとんど受けていない日本人には、ゲノムや遺伝子は「怖いもの」と捉える人から、「何となく面白いかも」と捉える人まで多種多様だ。

たとえば、遺伝子多型を調べる遺伝子解析によって、自分の祖先(祖先はどの地域の出身化などの情報)を推測することが、まるでゲーム感覚のように行われている。米国ではクリスマスプレゼントとして、遺伝子検査を贈るような時代だ。日本人の中にも、面白いと祖先探しゲームに挑戦した人もいるようだ。米国のように多様な人種が存在している国では、祖先がヨーロッパ・アフリカ・アジア、あるいは、南米のどの地域の出身と多様であり、祖先を知ることは興味の対象となりうる。しかし、日本人のように単一民族であればほとんど違いがない。

しかし、耳垢に代表されるように、乾燥したうすい黄色の耳垢(これは死んだ皮膚細胞)と焦げ茶色のべとっとした耳垢(分泌された液)に日本人は大別される。お酒を全く飲めない人、飲むと顔が赤くなる人、かなり飲んでも平気な人などにも大別することができる。

耳垢に関しては、この違いを説明できる遺伝子多型が見つかっている。北海道や沖縄には、本州に比べて分泌型が多いこともよく知られている。かつて、理化学研究所のゲノム医科学センターで大規模な全ゲノム関連解析をしていた時にも、北海道、東北、関西、九州在住の人などで比較すると、遺伝子多型のタイプには微妙な差があることを報告した。

こんな当たり前のことを今頃話題にしている、ある地方のバイオバンク研究者がいるが、これも知識が10年以上遅れている。研究者のリテラシーの低下も著しい。

そして、遺伝子多型を見つけて、疾患リスクを計算しても意味がないと言っていた大御所たちがいたが、生物学研究的な観点と、病気に取り組む研究的観点の違いである。糖尿病患者とその予備軍は、国内で数千万人に及ぶと考えられている。高齢化社会を考えると糖尿病予防と重症化予防は、国全体の医療費・介護費に大きな影響を与える。生物学者にとってはどうでもいいことかもしれないが、医療従事者や国家財政を考える者にとっては非常に重要な課題である。

糖尿病をどのように防ぐのか、遺伝的な危険因子と肥満の観点から簡単に単純化した図を示して説明したい。

仮に、糖尿病の遺伝的要因がゲノム(染色体)上に5か所あるとする。両親から個別に遺伝子を受け継ぐので、リスク要因は最小でゼロ、最多で10になる。したがって、遺伝的なリスクは、AからKまで11段階(0から11)に分けることができる。一般的に肥満は糖尿病のリスクを増す因子であるが、リスク要因が0-4の人は体重が100kgを超えても糖尿病は発症しないが、リスク(赤の点)が9-10個ある人は80㎏を超えると、7-8個の人は90kgを超えると、5-6個持っている人は100㎏を超えると糖尿病を発症するといったように、遺伝的要因と生活要因は大きく関連する。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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