「負動産時代」を叫ぶときに知っていてほしいこと

2019年03月06日 06:00

3月1日付の東洋経済オンラインには、「家や土地が『売るに売れない』負動産地獄の恐怖」という記事タイトルが躍った。記事によると、すでにマイホームは「悪夢」らしい。また、マイホームが資産という認識は「思い込み」とのことだ。

写真AC:編集部

最近、負動産時代という言葉が頻繁に聞かれるようになった。負動産とは、「価値の低下により売るに売れない不動産」、「使い道のない不動産」、「ランニングコストばかり膨らむ不動産」等を揶揄した俗語だが、そのアナウンスの中身に少し違和感を覚えてしまう

冒頭の記事のような主張には一定のコンセンサスが得られるだろう。実際、空き家の数は増えているし、複合的な理由で管理不全の不動産も増えている。さらに、人口減少が進行しているとなれば需給バランスの観点からも将来的にさらなる不動産価値の低下が進み、「負動産」が増え続けるというアナウンスは一見合理的だ。

しかし、このようなアナウンスに共通しているのは「長期住宅ローンの危険性」、「人口減少に伴う住宅余剰」、「将来の地価下落の可能性」、そして「管理不全に陥った不動産問題」などが同次元で論じられていることだ。実はこれが「負動産」が一律で語られることに違和感を覚える理由である。

先述した記事によれば、「家賃並みの支払いでマイホームが手に入る」という考えをもつことで「負動産地獄」への道を歩むことになると解説している。その理由は「住宅ローン破綻」や「将来的な物件価格の値下がり」にあるとし、不動産競売の事例が示されてはいるが、なぜ家賃並みの支払いが住宅ローンの破たんにつながるのかのロジックには言及がない。

以前、アゴラに寄稿させていただいた「延滞率から考える『住宅ローンの危険度』」でも触れたが、住宅ローンの延滞率は0.43%と推定される。この数字が高いか低いかは意見が分かれるところだが、さらにデフォルト率はこれよりも低いとされている。

長期の住宅ローンについては「終身雇用が期待できない」とか、「35年ローンは長すぎる」という支払い原資に対する危険負担は確かに存在するが、ならば逆説的に、家賃を「永年間」支払っていける保証はどこにあるのだろう。

そもそも今マイホームを持ちたい人たちがすべて「値上がり」を期待しているわけではない。「土地神話」を妄信してマイホームを購入する人など、皆無とは言わないが極々稀である。

独立行政法人 住宅金融支援機構が民間住宅ローン利用予定者に対して行ったアンケート(2018年6月5日公表)によると、住宅取得動機のうち最も多いのは、20歳代・30歳代で「子どもや家族のため」であり、40歳代・50歳代で「老後の安心のため」である。

※参考:2017年度民間住宅ローン利用者の実態調査

このアンケートのなかでは「不動産としての資産を持ちたい」という項目もある。それを見ると唯一50歳代でこの動機が若干高めであることが分かるが、これは「周りに気兼ねせず使える住宅に住みたい」という項目よりも数段下の動機である事も分かる。

つまり、住宅購入の動機となるものは、将来に向けた資産形成という理由より、ライフステージの変化に伴って発生する住宅ニーズや、生活・環境の質向上を求める理由が上回っているのだ。

もちろん「子どもや家族のため」という動機のなかには、広義で「家族に資産を残してあげたい」という意味も含まれるかもしれない。しかしそれは不動産という物的財産の特徴である「経済的側面」でしかない。不動産をマイホームとして所有することは、客観的な経済的評価が求められることとは切り離せない。

冒頭でご紹介した記事中でも指摘しているとおり、別荘のような住宅には高額な維持費がかかる場合が多いし、用途が限定され自己利用も収益性も期待できない不動産も確かに数多く存在しているのも事実だ。また、今後は都市圏・地方圏問わずマンションの管理費や修繕積立金の使われ方やその在り方についてシビアな議論が必要なのも間違いない。

だが、だからといって「長期住宅ローンの危険性」、「人口減少に伴う住宅余剰」、「将来の地価下落の可能性」、そして「管理不全に陥った不動産問題」すべてを繋げて論じると問題の本質がぼやけてしまわないだろうか。

あまり知られていないが、現在、国は「引き取り手のない不動産」に対する検討を始めている。

※参考:2018年11月28日「引き取り手のない不動産への対応につい」 財務省理財局HP

その中でも特に興味深いのは以下の点だ。

財務局が、引き取り手のない不動産を引き受ける場合としては、1.所有権放棄、2.寄附、3.相続人不存在の場合における清算後の残余財産の国庫帰属といった場合が考えられる。
(上記 同HPより)

具体的な検討に入っているのはこれまでも限定的に運用されていた2と3だが、1の所有権放棄についても「政府内で検討中」としている。実際に実現するかどうかは分からないが、もしこれらが将来に向かって柔軟に運用されるなら不動産所有者の経済的課題は別として、要らない「負動産」を所有・管理し続けるという負担からは解放される。

負動産という表現を使って、様ざまな住宅問題や地価問題などを論じるのは社会に対する問題提起としての意義は深い。ただ、不動産を取り巻く諸問題には複合的な要因があることも併せてアナウンスされるならさらにその意義が深まるだろう。

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