EテレのAKB発言に疑問:日本は無条件降伏したのか

2019年03月07日 06:01

先日Eテレにチャンネルを合わせたTVを点けたままボーッと本に目を落としていたら、「無条件降伏だったんですよね」との聞き捨てならない発言が耳に入ってきた。高校講座らしい。ネットで検索すると日本史の「第38回第5章 占領と国内改革」という回だ。

Eテレ「NHK高校講座・日本史」より:編集部

その場面の遣り取りはこうだ。

館長(演・高橋英樹)「前回は、日本はポツダム宣言を受諾して、太平洋戦争が終わりましたね。」

生徒(演・向井地美音)「無条件降伏だったんですよね。

AKB48の向井地が演じる生徒役の発言は肯定も否定もされないままに番組は進行した。この場合の無言は肯定を意味する。が、筆者もこの件には一家言ある。面倒だがNHKに「無条件降伏」とする根拠を問い合わせ、「NHKふれあいセンター」から次のような回答メールを頂戴した。

「NHK高校講座」は、文部科学省の「高等学校学習指導要領」および文部科学省検定済みの教科書の内容に準拠して制作しております。どうぞご理解ください。

予想された回答だ。が、「どうぞご理解ください」と言われて簡単にウンと首を縦には振れない。教科書全部を買う訳にもいかないので、文科省サイトで「教科書編修趣意書」高等学校日本史を見てみた。AとBそれぞれ7種ずつ14種ある。が、趣意書はどれも異曲同工で記述内容までは判らない。

ミズーリ艦上で降伏文書調印に調印する重光外相(Wikipedia:編集部)

次に「学習指導要領」に当ってみた。そこには「目標」として以下が掲げられている。

我が国の歴史の展開に関わる諸事象について,地理的条件や世界の歴史と関連付けながら総合的に捉えて理解するとともに,諸資料から我が国の歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。((2) (3)にも「多面的・多角的」の文字が躍るが省略)

「様々な情報」や「多面的・多角的」の文字が空しい。まさか「様々な情報」を「調べ」させるための意図的な偏向?…。いずれにせよ諸説ある場合には、例えばコラムでも良いから「一方こういう説がある」ということを載せるべきだし、NHK教育講座もそうあってこその指導要領準拠でではあるまいか。

そこで日本は「無条件降伏」したのかどうか筆者が調べたところを述べる。難しい論文や論争が星の数ほどあると思う。が、筆者の論は「ポツダム宣言」と「バーンズ回答」とドイツ降伏時の「ベルリン宣言」の前文を読み込むだけだから至ってシンプルだ。

先ずポツダム宣言を見る。全部で十三ヵ条だがここでは以下の三ヵ条を掲げ他は省略する。(太字は筆者)

五 我らの条件は次のごとくである。我らがこれらの条件から離脱することはない。またこれに代わるべき条件もない。我らは遅延を認めることは出来ない。

十二 前記の諸目的か達成されて、かつ日本国国民の自由に表明された意思に従って、平和的傾向を持ち責任ある政府が樹立されたならば、連合国の占領軍は直ちに日本国から撤収されるであろう。

十三 我らは、日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつその行動における同政府の誠意について適当かつ充分な保障を提供するよう同政府に対して要求する。それ以外の日本国の選択は、迅速かつ完全なる壊滅があるのみである。

注目は十三条だ。そこでは「軍隊の無条件降伏」を日本国政府が宣言することを要求しているだけであって、日本国の無条件降伏を要求しているのではない。他方、後で検証するベルリン宣言の前文にはドイツ軍の降伏と並べて「ドイツ国は無条件降伏した」とはっきり記されている。

次に五条。六条~十三条を降伏条件とし「これに代わるべき条件もない」とあるので確かにこの限りでは無条件降伏を要求している。が、日本はめげずに十二条の「日本国国民の自由に表明された意思に従って」…「責任ある政府が樹立されたならば」の解釈を巡り、スイス政府を介して米国と次の通り条件交渉し、回答を引き出した。(Wikisourceの原文から筆者訳出)

日本側(抜粋)

「日本国政府は、・・その宣言が統治者としての天皇陛下の大権を損なういかなる要求も含んでいないと了解して、受け入れる用意がある。」

米国側バーンズ回答(抜粋)

「降伏の時点から、天皇および国を治める日本国政府の権限は、…連合国最高司令官に従属する。

「最終的な日本の形態は、ポツダム宣言に従って、日本国民により自由に表明された意志によって確立される。」

日本側は「陛下の大権」が損なわれないことを条件に宣言を受け入れる旨表明し、米国は「天皇・・の権限は・・連合国最高司令官に従属する」と回答した。つまり、「従属する」形ではあるもののポツダム宣言では触れられていない「国体が護持される」ことを意味する前提条件が容認されたに相違ない。

この「従属する」を外務次官松本俊一が「制限の下に置かれる」と意訳し、軍部や平沼騏一郎らを抑え込んだ話は知られている。が、後段に関連して陛下が「(国体護持を)連合国が認めても、国民が認めなければ意味がない。それで良いと思う」との趣旨を述べられことの方がより重要だ。そしてポツダム宣言受諾のご聖断は下された。

当初は確かに「従属」したかも知れぬ。が、マッカーサーの日本での2000日は、「最上のジェントルマン」と彼を驚嘆させた天皇陛下との面会を経て、後に米国議会で日本の戦争は防衛だったと述べるまでに、マッカーサーの陛下と日本に対する認識を変えさせた。そして象徴天皇の日本は立派に独立した。日本国の降伏は断じて無条件ではなかったのだ。

最後に国家として無条件降伏したドイツの例を見てみる。ドイツはヒトラーが1945年4月30日に自殺してナチ党が倒れ、首都ベルリンは連合軍に占領された。連合軍の発したベルリン宣言の前文はこう言う。(エール大学サイトから筆者訳出)

「ドイツ軍は陸海空において完全に敗北したことで無条件に降伏し、戦争責任を負う。それによってドイツ国は無条件降伏した。ドイツには戦勝国の要求を履行し、管理できる中央政府は存在していない。米ソ英仏政府はドイツ国中央政府が持っていたドイツに対する最高指揮権と権威を掌握する。」

ドイツは降伏の主体となるべき国家自体が崩壊していた。政府が整然と機能し、国内外に350万の軍を残していた日本とは比べるべくもない惨状だ。こうして消滅したドイツは米英仏ソ四ヵ国による連合軍軍政期を経て、1949年にドイツ連邦共和国(西ドイツ)とドイツ民主共和国(東ドイツ)とに分かれて改めて建国された。各国との平和条約締結はベルリンの壁が崩壊して後のことだ。

以上、NHK高校講座を契機に筆者が(学習指導要領が目標としている通り)諸資料から調べたところを、いつものことながら少々牽強付会を承知で披歴した次第。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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