オルバン対策に悩む「欧州人民党」

2019年03月08日 11:30

欧州議会選挙は5月23~26日、加盟国で実施される。今回の欧州議会選(任期5年)では反欧州連合(EU)政党が議席の3分の1を獲得し、EUの立法手続きを阻むことができる勢力となる可能性があると予想されるだけに、欧州議会選の行方がこれまで以上に注目されている。なお、英国のEU離脱(ブレグジット)を受け、27加盟国が選挙を実施。議会定数は751議席から706議席となる。

▲ハンガリーの与党フィデスの党首、オルバン首相(フィデス公式サイトから)

▲ハンガリーの与党フィデスの党首、オルバン首相(フィデス公式サイトから)

欧州議会の選挙戦は加盟国で既に始まっているが、欧州議会は中道派政党の政治グループ「欧州人民党」(EPP)と「社会民主進歩同盟](S&D)の2大会派を中心に複数のグループから構成されている。ところで、最大会派のEPPは目下、ビクトア・オルバン首相が率いるハンガリーの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」(Fidesz)をEPPから追放するかどうかで対立が表面化している。引退を表明したユンケル委員長の後任委員長選で目下、EPP代表として最有力候補者、「キリスト教社会同盟」(CSU)出身のマンフレード・ヴェーバー代表はオルバン首相の説得工作に乗り出しているところだ。

オルバン首相は難民対策でも強硬路線を実施し、難民歓迎政策を実施したメルケル独首相とはこれまで激しく対立してきた。それだけではなく、EU批判を高める一方、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」を支援するなど、オルバン首相はEU内でも独自路線を進めてきている。

オルバン首相は欧州議会選の選挙戦ではユンケル委員長と世界的投資家でハンガリー出身のジョージ・ソロス氏を選挙ポスターに載せ、反EUと反ソロスを選挙争点にして選挙戦を進めている。EPP内では、オルバン首相のフィデスは反EU政策を施行、EPPの会派規約に反しているとして会派から追放を求める声が高まっている。

ヴェーバー代表は5日、オルバン首相に、①反EU路線を止める、②反ソロス政策を中止し、ソロス氏が創設した「中央ヨーロッパ大学」(CEU)を認める、③各国のEPP所属政党に謝罪を表明する、という3点の条件をあげ、今月末までにそれらを実行するように求めている。

EPPは49政党が加盟しているが、そのうち、ベルギー、ギリシャ、ブルガリアなど13政党がフィデスの追放を要求している。EPPは今月20日、幹部会で最終決定を下すことになっている。

ちなみに、EPPに所属するユンケル委員長自身は5日、ドイツZDFとのインタビューの中で、「オルバン氏はEPPの一員ではないと考える」とフィデスの追放を支持していることを明らかにしている。同委員長は「5月の欧州議会選で最大の問題はオルバン氏だ」と何度も主張してきた。

それに対し、フィデスの報道官は、「EPPとの問題は難民問題だ。われわれは欧州のキリスト教価値観を擁護することを願っている。難民対策は党益よりも重要だ」と説明、EPPの説得工作を一蹴。ヴェーバー氏も6日、「オルバン氏から返答はまだない」と述べている。

興味深い点は、オーストリアの与党で極右政党自由党のシュトラ―ヒェ党首(副首相)は、「フィデスがEPPから脱退して我々の会派に所属してもいいが、EPPの意向次第だ」と主張。一方、自由党と政権を作る国民党のクルツ首相は、「わが党はヴェーバー氏と意見は一致している。最終決定はオルバン氏が決めることだ」と強調、オルバン問題では政権パートナーの自由党とは異なったスタンスをとっている。なお、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のイェルク・モイテン党首は、「我々はフィデスを赤絨毯を敷いて大歓迎する。オルバン首相は久しくEPPではない」と述べている。

ブリュッセルからの情報によると、フィデスはフランスの極右政党「国民連合」(前身・国民戦線)のマリーヌ・ル・ペン党首が率いる「国家と自由の欧州」(ENL)と接触しているという。フィデスが加われば、ENLは欧州議会で大会派になる。ただし、フィデス側はENL接触情報を否定している。

ユンケル委員長の後任選挙は欧州議会選の結果によって変わる。フィデスがEPPから脱退した場合、EPPは欧州議会の議席を失う。すなわち、EPPが推すヴェーバー氏の委員長選出が難しくなる可能性が考えられる。選挙結果次第ではフィデスは現在の11議員から13議員に増え、ドイツの「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いでEPP内で第2の政党になる可能性があるだけに、フィデス追放はEPPにとって大きなダメージだ。

また、反移民政策で会派を創設する動きも出てきた。イタリア与党「同盟」のマッテオ・サルビーニ書記長(副首相)はポーランドのカチンスキ元首相やオルバン首相らと連携して、EUの難民・移民政策を妨害するというのだ。

いずれにしても、欧州議会選の主要争点は難民・移民問題だけに、反移民を掲げる極右政党の躍進が予想される。欧州議会選後、新しい会派、グループが誕生するなど、欧州議会の勢力図が大きく変わることが十分に考えられる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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