「同一労働同一賃金」の課題を深掘りする!真の改革とは? --- 前川 孝雄

2019年03月09日 06:00

働き方改革の一環として、正社員といわゆる非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間の待遇差是正を図るため、「同一労働同一賃金」への関係法令の改正がなされました。同法施行は2020年4月(中小企業は2021年4月)ですが、すでに多くの企業が移行に向けた取り組みや模索を始めています。

同改革をめぐっては、企業経営に与える負担や、「同一労働」を特定・評価する困難さ、また安易な均一処遇化による労働者間の不満やモチベーション低下への懸念など様々な問題が指摘されています。同法施行を前にどのように考え対応することが望まれるか、人材育成のあり方の観点も含めて考えてみましょう。

動き始めた正社員の処遇引き下げ

平成の30年間に、企業は非常に厳しい経営環境の中で苦しみながらも、自社の経営を維持しつつ正社員の労働条件引き下げを避けるために、いわゆる非正規社員の雇用で凌いできました。その結果、非正規社員の低処遇や不安定雇用などの状況を生み出す結果にもつながりました。そして、今、アベノミクスによってあたかも景気が上昇しているように喧伝されていますが、厚生労働省の不適切な統計問題を取り上げるまでもなく、決して実体経済が強くなっているとは考えられません。

そうしたなかで「同一労働同一賃金」が導入されましたが、企業が収益の中から捻出できる人件費の上限は自ずと決まってきます。ですから、非正規社員の処遇が不合理だとしてこれを引き上げるには、一方で正社員の賃金や福利厚生を引き下げざるをえません。この流れの一環で、日本郵政グループが正社員の住宅手当を廃止する措置が報じられ話題になりましたが、起こるべくして起きた動きと言えるでしょう。

労働集約型でかつ高収益のビジネスモデルになりにくい仕事・企業ほど、表面的に「同一労働同一賃金」を実行しようとすれば、今後同様の動きにつながることが想定されます。企業活動・仕事自体の生産性が向上しなければ、当然の帰結です。

年功型の人事・給与体系見直しへの息の長い改革が必要

それでは、正社員と非正規社員の現状から「同一労働同一賃金」に向けてはどのような取り組みが求められるのでしょうか。

非正規社員は労働者全体の約4割とも言われ、また飲食・旅館・ホテル等のサービス業などでは7〜8割を非正規社員に頼っているのが実状です。この非正規社員の仕事はいわゆる「ジョブ型」で、主にオペレーティブな仕事を担いながら「このエリアの、この仕事を、この期間・時間なら、いくらで」という「即時払い型」です。

これに対し、正社員は「メンバーシップ型」で、主に年功序列の職能給です。若い時は働きながら教育訓練を受けられるため総じて給与が低く、勤続年数を重ねるにつれて給与が増していく「後払い型」です。

この現状から本格的な「同一労働同一賃金」を目指すなら、単に非正規社員の処遇を正社員の水準に合わせるのではなく、伝統的な年功型の人事・給与体系自体を壊さなければなりません。しかし、これはそう簡単ではありません。これまで「メンバーシップ型」の職場を信じて長らく仕事をしてきた40〜50歳世代は、若い時には安い給与で過酷な仕事をこなしてきた人たちであり、今後の生活設計もあります。いきなりこれをリセットすることには納得が得られません。

こうしたなかで根本的な人事・給与制度の改革を行うためには、10年から20年の計として、段階的なマイルストーンを描き、社員の理解・納得を得ながら息長く取り組むことが必要でしょう。

なお、当面は、各企業の実状に応じた現実的・段階的な対応が考えられます。2020年の待ったなしの対応として考えられるのは、政府が「多様な正社員」と謳っているもので、現在の非正規社員を短時間勤務型や地域限定勤務型の正社員に位置づけ直す対応です。

一方、長らく「メンバーシップ型」で働いてきた世代が60歳に差しかかるところで、65歳までの雇用保障が求められます。そこで、シニア社員にも職務・地域限定型や短時間勤務型の正社員制度に合流してもらうのです。こうした当面の対策を講じながら、最終段階として本格的な人事・給与制度の改革を目指していくことが必要になると思われます。

働く一人ひとりが自律的なプロフェッショナル人材になる覚悟が必要

前述のとおり、日本の非正規社員の仕事は「ジョブ型」とは言っても、オペレーション業務が多く、専門的・安定的な内容とは言えません。もちろん、非正規社員の人たちの処遇を向上させること自体は悪いことではありません。しかし、実は、その点だけがクローズアップされることで、ある意味で本人たちの「ぬか喜び」に終わらせてしまうのではないかと心配しています。

実は、今後、働く人一人ひとりにとって本当に大切なことは、各自が「自律的なプロ」となり、自分の力で「稼げる力」をもつことです。ですから、処遇改善だけを先行させるのではなく、そうした大事なメッセージを同時に伝え自覚を促すのでなければ、かえって酷なことになります。これからは、各自が自分の強みを活かし、自律的に仕事をして、顧客や社会に貢献し続けられるプロフェッショナルとなって、会社とも対等の関係で契約できることが強烈に求められる時代になります。

これは、正社員についても全く同じです。産業・経済のグローバル化のなかで、従来の終身雇用・年功序列の「メンバーシップ型」をそのまま享受し続けることは難しいことを自覚し、一人ひとりが自分自身のプロとして働く力と将来のキャリアを自律的に切り拓いていく覚悟をもたなければなりません。

若手を育て上げ自律型人材へと応援する「ハイブリッド型」雇用に

それでは、今後、どのような雇用・人事制度や人材育成のあり方が求められるのでしょうか。

私が推奨するのは、日本型人材育成の良さを活かしながらも、社員が自律型人材として自ら働きがいを創造しながら成長し活躍できる「ハイブリッド型」雇用です。日本特有の新卒・若手社員の一括採用と、一人前になるまで社内で大切に育て活かす仕組みは貴重であり、若年失業者が溢れている世界の中で、誇るべき優れた人材育成システムです。

各企業は「人が育つ現場」づくりを目指し、時代にマッチしたOJTによって一人ひとりの若手社員に働く人としての基礎をじっくりと身につけさせながら、仕事と職場へのエンゲージメントをしっかり育てていく。一人前の仕事力を身につけさせるためには、業種や職種によって3年、5年、10年などと異なりますが、この一定期間を経た社員は「ジョブ型」の人事制度に移行する。

そして、ここからは、各社員の能力、希望、生活条件等に応じた働き方を柔軟に選びながら、自ら自律型人材として生涯にわたって学びつつ成長・活躍できる仕組みを整える。そのなかで、各社員が仕事に応じた処遇を得ていく形とするのです。

こうした方向こそが、あるべき「同一労働同一賃金」を目指し、働く人を活かし企業の生産性向上を図るための真の働き方改革だと考えます。

前川 孝雄  FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師、働きがい創造研究所代表取締役会長
リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志にFeelWorks設立し、「人が育つ現場」づくりを支援。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』他多数。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑