ビールを飲まないトレンド

岡本 裕明

写真AC

アメリカでビールの消費量が落ちてきています。と言っても世界第二位の市場なのですが、統計的には毎年じわっと下がってきています。日本や世界最大の市場、中国でも同じ傾向が見て取れるのですが、その背景に何があるのでしょうか?

アメリカの場合、いわゆるナショナルブランドのビールの売れ行きが落ちている一方で地ビール(クラフトビール)については高い成長率を維持しています。つまり、飲み方が変わってきているように見受けられます。アメリカの場合、地ビールの中でもIPAなど高アルコール度で上面発酵のちびちびやるビールが圧倒的シェアとなっています。日本のラガー系でぐいぐい飲む時代ではありません。

また、大量飲酒ではなく、たしなむ程度になってきている一つの理由は飲酒運転の取り締まりの厳しさと酒類の嗜好の変化があるようです。最近は北米では蒸留酒系(ウォッカやラムベース)の缶入りドリンクが好まれています。日本でも高アルコールドリンクの売れ行きが伸びていますが、それこそ150円で酔えるともいえるのでしょう。

ブルームバーグでは若者が飲酒することで時間を潰してしまうことに興味を持たないこと、また飲酒の代わりに合法大麻にとって代わってきていることを指摘しています。合法大麻はカナダが全土でOKになっているほか、アメリカでも州ごとに緩和が進んでおり、全く新しい市場が生まれつつあります。

日本の場合、もっとショッキングなデータもあります。

「厚生労働省の調査によると、飲酒習慣のある男性は『20~29歳』ではわずか10.9%しかない。」(AERAより)

つまり酒なんてなくても全然困らないのであります。

カナダの日系居酒屋に入り、カウンターに座ると面白いことに気が付きます。多くの客がお茶を飲みながら食事をしているのです。孤独のグルメの五郎さんではあるまいし、なぜだろうと思うのですが、これがトレンドなので仕方がありません。

考えてみれば日本の居酒屋も最近はすいている店が多い気がします。財布の問題もありますが、酔っ払ってその日の夜の時間を楽しめないことに罪悪感すら感じるのでしょう。ましては二日酔いなど論外です。ご承知の通り、日本の外食産業は日本経済の大きな部分を占めますがその中でも「飲み屋」と称されるアルコール提供を主体とするビジネスが今後、急速な縮小となる公算は高いと思います。つまり、繁華街の飲み屋ビルに空室が目立つようになり、大家はテナントの業種転換を図る必要に迫られると思います。

若者のアルコール離れは我々の世代の麻雀離れ、ゴルフ離れと同じ流れかと思います。つまり、時間であります。私などは仲間と飲みに行けば3時間4時間は当たり前のように飲み続けています。ただ、明らかに途中からは大した話などしておらず、多くの場合、その内容すら翌日にはすっかり忘れ去っていることも多いと思います。言ってみれば無為な時間なのでしょう。

例えばスポーツバーでゲームを見たりチームを応援するといった飲み方は今後、更に若者に受けると思うのですが、会社と上司を酒の肴にするのは昭和のスタイルとして消えるとみています。(昭和生まれの人が「それは明治大正の話でしょ、というのと同じです。)

我々の世代からすれば考えにくいのかもしれませんが、今はそれだけ楽しいこと溢れているということかと思います。そしてより自分の時間を大切にする流れになっているとも言えます。

アルコールと距離を置き、合法大麻(最近は大手各社大麻入り飲料の開発競争が激しくなっています。)に接近するなど、日本の方には想像の域を飛び出してしまっていると思いますが、それが潮流としてひたひたとやってきていることは確かなようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月10日の記事より転載させていただきました。