バロンズ:米貿易赤字が過去最大、不気味な1987年との符号

2019年03月11日 06:00

バロンズ誌、今週はファンド別パフォーマンス・ランキングをカバーに取り上げた。トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーのデータを元にマネージド・ファンド(複数の商品を組み合わせたファンド・オブ・ファンズ)を対象とした年次ランキングで2018年に堂々首位に躍り出たのは昨年36位だったアメリカン・ファンズで、総資産は1兆5,892億ドルに及ぶ。米株を主体に世界の株式、さらに非課税の債券などを含めて運用するファンドだ。その他、ランキングの詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は貿易赤字を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

過去最大の貿易赤字が問題にならない理由—Why the Record Trade Gap Is No Big Deal.

足元で、米国の貿易赤字は大きな話題を振り撒いている。ニューヨーク・タイムズ紙などは米12月貿易赤字が過去最大に膨らんだとのヘッドラインを流し、ダウは8日までに5日続落し年初来で最悪の週を迎えた。

トランプ大統領就任後、好景気を追い風に米貿易赤字は拡大傾向。

tb

作成:米経済分析局よりMy Big Apple NY

思い起こせば、過去に米国の貿易赤字が市場を動かすドライバーだった年は1987年だ。米貿易赤字の拡大は、世界の株式市場や債券市場にとってネガティブな材料となった。米国経済の過熱抑制とドル高を促す狙いで、Fedが利上げに動くと考えられたためだ。米10年債利回りは一時10%を超え、米株の株価収益率(PER)は20倍を超え、遂には同年10月19日にブラック・マンデーを引き起こし、ダウは僅か1日で22%も急落することになる。

現在に時計の針を戻せば、財の貿易赤字は2018年に8,913億ドルと、過去最大を更新した。サービスを加えれば、6,210億ドルの赤字に縮小するとはいえ2008年以来で最大となる。米国のエネルギー自給率がシェール革命によって劇的に改善しているにも関わらず、である。

1980年代半ばに米国経済が過熱した当時、インフレ上昇と輸入拡大に直面していたが、現状はむしろ米経済は鈍化しつつあり、世界経済は減速の兆しを見せている。世界の中央銀行が金融政策の引き締めに動いた当時と異なり、足元の中銀は世界経済の減速に瀕し選択肢をほとんど有しておらず、それにより市場関係者が懸念を募らせるほどだ。

特に、欧州中央銀行(ECB)で顕著に現れている。ドラギECB総裁は7日、定例理事会後の記者会見で少なくとも年末まで利上げを行わない方針を打ち出し、夏の終わりにかけて利上げに踏み切る見通しを示していたこれまでの姿勢を巻き戻した。さらに的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO、これまで2014年発表分、2016年発表分の2回実施)を今年9月に再開し2021年3月まで続け、期間2年の資金を供給すると発表。ECBが2018年12月に量的緩和を終了させたばかりだというのに、である。

しかし、ECBが差し伸べた手を、金融市場は振り払った。銀行株はマイナス金利継続を嫌気し急落し、独国債利回りは2016年以降で最低の0.072%まで沈み、ユーロドルは2017年半ばの水準まで下落した。こうした金融市場の反応は、ECBスタッフが2019年の成長見通しを2018年12月の1.7%から今回1.1%に引き下げた分、金融市場を下支えしようとしたECB陣営の期待を裏切るものだったに違いない。

中国の貿易統計も、2月に急速な悪化をみせた。同国の輸出は前年同月比20.7%減少し、輸入も同5.2%減と、それぞれ市場予想を大幅に下回った。春節のタイミングを考慮する必要はあるものの、1月と2月を合わせても、輸出は同4.6%減、輸入も3.1%減で、世界第2位の経済大国が減速に直面していることは明らかだ。米中間の貿易戦争、さらに中国当局によるこれまでの引き締め策が中国経済の打撃になったことは想像に難くない。

中信証券は珍しく国営の人民保険集団に売り推奨を出したが、中国政府の承認なしではできなかっただろう。これは、中国当局が株式市場を通じてではなく、信用拡大による経済支援を念頭に入れた動きと一致する。上海総合は8日に4.4%安となり、年初来で最悪の週を終えた。

一方で、ドル高は米国への資本流入を促す。結果、世界の過剰な貯蓄が米経済への投資に向かうと考えられよう。

メディアは米貿易赤字拡大を受け、赤字縮小を目指すトランプ政権の狙いと正反対の結果を招いたと報じた。RDQエコノミクスは、貿易赤字を縮小するには国内の貯蓄率を引き上げ、投資を削減し、財政赤字を縮小すべきと主張する。米国民によって支払われる関税は貯蓄率を引き下げ、財政赤字を縮小するかもしれないが、消費者から政府への収支移転を進めず、結局は貿易赤字には殆ど影響を与えない。

いずれにしても、RDQエコノミクスは、1778年にアダム・スミスが説いたように「通商政策は、サプライチェーンの効率性と世界経済の改善を促す上で重要だ」と指摘する。つまり、米中通商協議の成功が米貿易赤字を縮小しなくとも、世界全体の成長に必要というわけだ。米国が主張する知的財産権や安全保障の確保は、米中通商協議以上に重要な優先事項であり、付け加えられべきとも語る。

米中通商協議が妥結に向かうかは別として、頼みの綱はやはりFedだ。パウエルFRB議長は10日、TV局CBSの有名インタビュー番組”60ミニッツ”に出演する予定だ。ダウが5日続落した後の番組出演とあって、市場を沈静化させる言葉を放つに違いない。

少なくとも、米2月雇用統計はパウエルFRB議長率いるFOMCに据え置きを正当化させる材料を提供したと解釈できよう。T.S. ロンバードのスティーブ・ブリッツ首席エコノミストは据え置きどころか、夏頃までに25bpの利下げを見込む。CMEによれば、FF先物市場では2019年末までの利下げ織り込み度が19.8%へ上昇しており、市場関係者の間では利下げシナリオに傾きつつあることは確かなようだ。


最近、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリートのコラム内容がタイトルに沿っていないケースが多いと感じるのは、筆者だけでしょうか。それはともかく1987年と現状の比較で言えば、筆者が隔週で出演するラジオNIKKEI「北野誠のトコトン投資やりまっせ。」でも指摘させて頂きましたが、3つの類似点があると考えられます。

つまり①貿易赤字と財政赤字の双子の赤字の状況②Fedの利上げ期③(1987年は西ドイツによるルーブル合意破棄による、現状は米中通商協議などを始めとする)不確実性の高まり——など。米2月雇用統計後、FF先物市場で利下げ織り込み度がにわかに高まるなか、逆に利下げなど緩和策に踏み切らなかった場合の反動により、米国の金融市場が一時的に大きな調整に入るリスクにも、留意したい。筆者はこちらでお伝えしたように、米国の賃上げペース加速にFedが反応し、年内1回の利上げに動くシナリオを捨てていません。

(カバー写真:Louis Vest/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年3月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑