自己PR不要論

2019年03月14日 06:00

「それを見極めるのがお前の仕事だろう!」

ある企業の人事責任者から伺った、自戒の言葉である。彼は、自分にそう言い聞かせながら面接室に入るそうである。何の話かと言えば、採用における面接の話である。

「自己PRをどうぞ」

誰もが一度は受けたことのある問い掛けではないだろうか。人によっては面接室に入室して着席後、間もなく面接官からこの設問が発せられたことすらあるかも知れない。

別段、面接なのだからルール違反ではない。だが、「自己PRをどうぞ」「はい、私の強みは…」という一連のやり取りで、本当にPRの受け渡しが完了するのか、面接官の狙い通り良い採用に繋がるのか、疑問に思う方も少なくないのではないか。

冒頭の人事責任者のように、受験者の強みを見つけることこそ自らの役目だと捉えて面接に向き合ってくださる個人や組織はそう多くはない。

PR≠アピール

私は大学生のキャリア支援に従事しているため、彼らから就職活動での面接の話を日々耳にしているが、特に新卒採用においては、「自己PRをどうぞ」式の面接が今なお健在である。

PRとはPublic Relationsの略。つまり「公との関係」であり、それを構築することを目指すものだ。面接におけるPRとは、面接室という空間において「イイ感じ」の関係性や空気を作り出すことを意味する。したがって、個人面接ならば面接官との間に、グループ面接ならば横に座っている他の受験者との間にも、限られた時間で良好な関係性を築かねばならない。

それは、一方的に「私の強み」をダラダラと宣伝することと同義ではない。
そんな自分勝手な自己アピールをしても良好な関係は築けないだろう。暗記してきた文言を録音再生機のようにスラスラと語れたところで意味はない。

面接=インタビュー

それほど、PRは高難度の営みである。どんな状況でも自己PRできる人物といえば、漫画『ONE PIECE』の主人公・ルフィなどは、その場にいる敵さえ味方にしてしまうという意味でPR力が最高峰だと思われるが、誰しもが真似できるわけではない。

「自己PRをどうぞ」と要求して強みを引き出すのは乱暴である。実際、学生の強みをうまく引き出しておられると感じる企業の方々に面接方法を伺うと、実にナチュラルな会話の中から、当該学生の魅力を抽出し、評価して下さっている。決して、本人に自身の強みや自己PRを宣言させるという非日常的なオーディションではなく、日常的なやり取りを通じて自分達が相手の良さを見つけるのだという気概に溢れている。インタビューの訳語としての「面接」を体現しておられる印象である。仕事は日常的に行うものであるから、「非日常力」ではなく「日常力」を問うことは理にかなっている。

「過剰」の三大疾病

しかし、社会の流れは、非日常のための準備に力が注がれている。大学生の就職活動は、年々煩雑になっているのだ。紙の求人票、webの求人サイト、スマホの求人アプリなどを使いこなさねば情報弱者となり、企業説明会や選考フローに乗り遅れる。また、就職活動の手前にはインターンシップもあり、「やった方が良さそうなこと」は目白押しである。

一橋大学・名誉教授の野中郁次郎氏は、講演や雑誌で日本企業の「三つの過剰」を取り上げ、「三大疾病」と称している。「三つの過剰」とは、オーバー・プランニング(過剰計画)オーバー・アナリシス(過剰分析)オーバー・ガバナンス(過剰統治)である。

これは、大学生の就職活動にも当てはまる。早くから人生やキャリアや就職について「過剰に計画」させ、自己分析や企業分析などを煽り「過剰に分析」させ、子ども達を「過剰に統治」しているからだ。

答え合わせの作業

過剰な準備を経て練りに練られた自己PRの受け渡しにどこまで意味があるだろう。面接官が究極的に知りたいことは、「自社で活躍してくれそうか否か」であり、その構成要素には「受験者自身が気づいていない強み」も含まれる。

「自己PRをどうぞ」と聞いて強みを自己規定させ、「ああそうですか」と早合点できるものではないし、「なぜそう思うの?」と深掘ったところで、論理的思考力や言語力などは推し量れるだろうが、彼彼女たちの自社に対する強みはなかなか分かるものではない。

企業の方々から「学生の自己PRが弱いねぇ。暗記してたり、他の学生と同じようだったり。」という嘆きもお聞きするが、
仮に「自己PRをどうぞ」へのリアクションで評価が左右されるならば、それこそ正解の決まった答え合わせの作業である。だから、「●●社の内定者が使った自己PR」などが市場で取引され、幸か不幸か面接を突破したりしている。

解説本より原著を

日常的にパフォーマンスを発揮できる人物をお求めなのであれば、面接室を「自己PRをどうぞ」の一言で非日常空間になどせず、皆様の鋭き目利き力で、日常空間から見定められてはいかがか。

雑な喩えだが、面接で学生に話させる事柄は基本的に「解説本」のようなものである。自身のこれまでの歩みのなかから適当なエピソードを取捨選択し、強みなどを抽出して分かり易く言語化したものである。解説本は分かり易い反面、加工と捨象により「原著」ほど味わい深くはない。是非、彼ら自身をまるごと堪能していただきたい。

ボランティアではない採用という大仕事。決して、「それを見極めるのがお前の仕事だろう!」などとは言えないが、答え合わせ型の人材をお求めでないならば、急がば回れで、まずは自己PRをやめてみてはどうだろうか。

高部 大問

高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。1年間の育休を経て、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を活発化。

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