医療分野での人工知能の可能性

2019年03月14日 06:00

病院に人工知能を導入する必要があると言うと、多くの人が無機質で冷たい診療現場になることを危惧する。しかし、私は医療現場に人間らしさを維持するためには、人工知能の補助が不可欠だと考えている。

患者さんの観点で医療現場を見た場合、ストレスと感ずることはたくさんある。例えば、診察の待ち時間だ。10時に予約を取っていても、確実に10時に診察室に案内されるとは限らない。予定していた時間よりも長い時間が必要となる患者さんがいるので遅れても仕方がないとわかっていても、何分遅れるのかわからないままに待っているのは、私のような短気な人間にはストレスだ。

遅れが20分、30分となり、トイレに行きたくなるとなおさらだ。病院によってはバイブレーターで案内しているところもあるが、どの程度遅れているかわからず待たされるとイライラが募ってくる。近いうちにリアルタイムで情報が送られるようになると思う。そうなれば、トイレに行くのも喫茶に行くことも自由にできる。

と書いている時に、機内食のサービスが前の席で止まった。パソコンを片付けて待っているのに、前列の客がワインのことで質問して会話が止まらず、私の前でサービスが止まってしまったのだ。診察現場でも同じだ。患者さんや家族から質問・疑問を投げかけられれば、「お時間ですので、退室してください」とは言えない。誠実に対応するのが医療従事者の責任だ。

キャビンアテンダントも同じで、質問を打ち切って、次の客に移るとは言えない。患者さんは自分の健康・命にかかわるので仕方がないと思うが、3-4分も話しかけ続ける前列席の空気を読めない乗客には少しイラッとした。まだ、私の心の修行は足りない。

そして、罰があたったのか、イライラしながら、インターネット接続をしようとして、クレジット番号を打ち込んでいる時に、クレジットカードが手を滑り落ち、座席の隙間にスルッと落ちてしまった。自力では何ともできず、キャビンアテンダントを呼んで回収を平身低頭でお願いする。しばらくして、2人がかりでようやく手元に戻った。前列の客を呪った罰としか思えない。「短気は損気だ」を実感する。

話が大きくそれたが、韓国のキャッシュレス化が日本よりはるかに進んでいるのは知っていたが、他の電子化も進んでいる。日本のレストランでは、用事がある時にボタンを押して呼び出すところはあるが、韓国ではテーブルに置いたセンサーの向きを変えるとマネージャーに「客がどんな要件で呼んでいるか」を知らせることができるようになっている。「お水を持ってきて欲しい」「デザートを持ってきて欲しい」「お会計をして欲しい」などの要件別にセンサーが客の要望を送ることができるようになっている。

このようなセンサーシステムは、医療の分野でも必要だ。たとえば、高齢化社会の日本では、要介護人口を減らすことが、非常に重要だ。要介護になる危険因子の一つが、心房細動を起因とする脳梗塞である。脳梗塞になると医療費・介護費負担だけでなく、家族の精神的・肉体的・経済的負担が生ずる。

脳梗塞は、早期発見、早期治療を行うと、後遺症を残さない形で治癒することが可能だ。一般的に血栓を溶かす、取り除く治療が2時間以内に行われれば、後遺症を残さない可能性が高くなる。医療過疎地では、早く発見されても必要とされる治療へのアクセスが難しいので、時間的な制約はもっと厳しくなる。しかし、大きな病院がたくさんある都会でも、一人住まいの状態であれば、患者本人が連絡するのは困難だ。

心房細動の頻度は報告によってばらつきがあるものの、70歳以上の人口では20-30人に1人と推測されている。心房細動が起きると、心臓内に血栓が生じやすくなり、それが脳に飛んでしまうと脳梗塞を起こす。血栓ができにくいような治療が行われているが、一定の割合で脳梗塞につながってしまう。

心房細動の患者さんに、センサーのついたウエアラブルな装置(スマートウオッチなど)をつけて呼吸・脈拍数などのバイタルサインをモニターすることは可能だ。センサーが危険な兆候を察知して、救急搬送システムに自動的に連絡し、救急車を送り、患者さんを病院に搬送することができれば、タイムリーな処置が可能となる。

理屈の上では簡単だが、色々な縄張り、縦割りがあり、実現には大きな障壁が多数存在する。しかし、これを乗り越えなければ日本の未来はない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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