日本の中小企業の新陳代謝

小規模事業者の後継者問題が改めて注目されつつあります。日経によると245万の中小企業のうち127万社で後継者が決まっていないとあります。なぜ、いまなのか、といえば戦後から高度成長期に起業した方々が70歳代となり、いよいよ誰かにバトンタッチしたいと思っても子供たちは見向きしないという話であります。

その一方でブルームバーグには「日本企業のスタートアップ投資熱再び」とあります。若い起業家に対して日本の大企業、例えばJAL、日本たばこ、JTB、日本郵政、松竹といった名だたる企業がファンドを設立するなどしてインキュベーター(起業、間もない会社)に出資をするというのです。

東京 風景(写真AC:編集部)

東京 風景(写真AC:編集部)

ちょっと前でしたが、たまたま同じ日に載ったこの日経とブルームバーグの記事の対比が意味するものとは何でしょうか?

70歳代に乗った親の子供たちはすでに40代後半となっているでしょう。1960年代後半から70年代生まれが見た世界は社会人になった途端のバブル崩壊でした。ボーナスが上がった経験がない、というのは私が以前勤めていた会社の社員が言った言葉ですが、敢えて言うなら「会社にしがみつく」という雰囲気が醸成された世代でもあります。

バブル崩壊後、親たちは土日も休まず、厳しい労働環境の中で汗をかきながら仕事をしました。子供たちは空調が効いて華やかなオフィス環境でそこから親を見ていると「あの世界には行きたくない」気持ちは当然生まれてきます。昨年、私も参加するNPOを通じてコンペ用の4分間映画を作ったのですが、そのストーリーは鮮魚を取り扱う父とスーツを着こなし高層オフィスビルで個室をあてがわれている娘の話でした。

私の年代から一回りぐらい下の人たちを見ると仕事に対する「食いつき」が悪いのです。あっさりしているというか、たんぱくというか、熱くならないのです。また、リスクを取らない傾向も強く、危ない橋を渡るならサラリーマンのままの方がいい、と思うのは本人以上に奥様が「あなた、住宅ローンも子供の教育費もあるのに…」の一言で起業なんて、ということになるのでしょう。

また、要領よくビジネスを立ち上げて、ある程度まで行った人たちも会社を売却し、多額の資金を手にするパタンをよく耳にします。これは会社を長くやる中で荒波にもまれる経験なく右上がりの絶頂の時に手放すことで「労せずして大金」を当たり前のように思ってしまうこともあるのでしょう。

それに反するようなブルームバーグの記事は起業家が一部で増えているとも言えます。東大生の価値が最近、企業内で問われるようになってきていますが、その一方で起業する東大生や東大出身者も多く、その中には優秀なものもずいぶんあるようです。つまり、親の会社の事業継承には目もくれず、全く違う業種で新世界を作っていくことが一種のトレンドとなってきているのでしょう。

私が一番気になるのは起業家が何を求めているのか、であります。ある程度の規模になって大手企業に高値で売ることによる「稼ぎ」を目的とするならば決して良いことはないでしょう。そういうのを「腰掛け起業」と言いたいです。そうではなく、ビジネスの本質を追求し、誰にも負けないビジネスモデルを作り上げる信念を育てていってもらいたいと思います。

では日経が取り上げる既存事業の継承はどうなるのか、であります。ポイントは245万社の中小企業のうち、事業として成り立っているのがどれぐらいあるのかであります。将来性のない事業、赤字で回復の見込みのない企業、償却しきった資産を使い倒し、利益=年老いた自分の食い扶持となっている会社などいくらでもあるでしょう。私の想像では半分ぐらいはそんなものだろうと思います。

そういう意味では中小企業をリフレッシュをする時期に来たのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月15日の記事より転載させていただきました。