北朝鮮への経済制裁についておさらいしてみた

2019年03月25日 06:00

米財務省外貨管理局(OFAC)が3月21日(現地時間)に、北朝鮮が制裁を回避するのを手助けした海運会社2社を指定し公表したとの報道があったので、この機会に国連と米国による北朝鮮への制裁についておさらいしてみた。

OFACの報告書に目を通して驚くのは、その微に入り細を穿った懇切な中身だ。米国務省が先般公表した世界各国の人権報告書の(ある意味余計なお世話ともいえる程の)詳細さには及ばないものの、少なくとも米国がこの件に並々ならぬ意気込みで臨んでいることが十二分に窺える。

Caitlin Jones/flickr:編集部

今回の海運会社2社の公表についてOFACは「米国務省および米沿岸警備隊と共に、北朝鮮の船舶輸送報告書を更新し、北朝鮮との瀬取り(STS:Ship-To-Ship transfers)に従事していると考えられる数十の船舶を追加している」と冒頭に述べている(「経済制裁」だから外貨管理局が統括しているのだろう)。

この報告書は「制裁を回避するために北朝鮮によって行われている詐欺的は海運行為について世界中の人々に警告し、これらの詐欺的行為に関連するリスクを軽減するための指針を業界に提供」することが目的なので、ムニューシン財務長官のいう「米国と志を同じくするパートナー」にその気になって貰わないことにはきっと空回りしてしまうだろう。

そこで報告書はこう述べている(筆者拙訳)。

米国は豪・加・仏・伊・日・英と共に、国際海事機関(IMO)においてこれらの詐欺的輸送行為に対するIMOの全加盟国の注意を喚起するためにこれらの詐欺的行為を強調し、全加盟国に関連するIMO規則に含まれる要件とガイダンスの念押しをした。その結果IMOは北朝鮮の詐欺的行為に対する全ての加盟国及びその他の海運利害関係者の注意を喚起するため、2019年3月5日に回覧状MSC.1 / Circ.1602を発行した。米国は国連加盟国、港湾管理監督当局及び旗国登録簿が管轄区域内の全関係者にこの報告書を提供するよう要請する。

報告書には2018年に263回瀬取りが行われたと思しき海域と港の地図2枚の他に別紙5枚が付してある。別紙1.はOFACによって制裁を受ける可能性のある拠点リストと米国および国連の制裁の概要、別紙2.は瀬取り携わる能力があると思しき28隻の北朝鮮タンカーの最新リスト、別紙3.は不正行為に巻き込まれないためのガイダンス、別紙4.は北朝鮮タンカーによる瀬取りに従事していると思しき18隻のリスト、別紙5.は北朝鮮産の石炭を輸出したと思しき49隻のリストだ。極めて具体的かつ詳細だ。

ムニューシン長官は「北朝鮮関連の国連安全保障理事会決議の完全な実施は重要である」とも述べているので、2017年12月22日に決議された国連安保理決議(UNSCR)2397もお復習いした。

2397決議の全部を要約するには紙幅が足りない。そこで、北朝鮮への経済制裁については、米・英・仏・露・中の国連常任安保理国やインドなどの核保有が問題にされないのになぜ北朝鮮だけが経済制裁を受けるのか、との疑問を持つ向きがあるので、それに答えていると思われる次の一文を引いてみる。

Underlining once again the importance that the DPRK respond to other security and humanitarian concerns of the international community including the necessity of the DPRK respecting and ensuring the welfare, inherent dignity, and rights of people in the DPRK, and expressing great concern that the DPRK continues to develop nuclear weapons and ballistic missiles by diverting critically needed resources away from the people in the DPRK at tremendous cost when they have great unmet needs,

北朝鮮人民の福祉、固有の尊厳と権利を尊重し確保する必要性を含む、国際社会の他国の安全保障と人道的懸念に北朝鮮が責任を果たすことの重要性をもう一度強調し、そして満たされない多くの困窮を抱えているのに、深刻に必要とされる資源を北朝鮮人民から転用し、北朝鮮が多大な費用をかけて核兵器や弾道ミサイルを開発し続けることに大きな懸念を表明し、-(筆者拙訳)

つまり、国民を餓えに晒しながら、金王朝とその独裁体制を維持するために核とミサイルの開発に血道を上げている、と国連に認定され、それらを止めて国民の人権を尊重する対応をとるまで経済制裁を続けることを国連が決議をしている。従い、核やミサイルの開発を止めても、非人道的な独裁体制が続く限り制裁が続くとも読める。人権問題に拉致被害者全員の解放が含まれるのは言うまでもない。

加えて、国内法によって米国務省から北朝鮮が「テロ支援国家」に指定されている事実もある。大韓航空機爆破事件を受けて1988年に初めて指定された後、6カ国合意で一旦は解除されたが、2017年の金正男暗殺事件やワームビア事件を受けて、同年11月にトランプ大統領の指示により再指定された。要するに○○に刃物という訳だ。

北朝鮮問題に関して日本置き去り論やトランプの妥協論(上下両院の捻じれや諸々のスキャンダルを受けての)が口の端に上る中、筆者は国連制裁決議と日米安保条約の2つの理由からトランプ大統領が安易な妥協をすることなどあり得ないと考えてきた。

また制裁が継続する限り一番しんどいのは北朝鮮であって、米国は失うものはないのだし、日本も拉致問題解決が長引くのは辛いがむしろその先にこそ解決の途が開けると考え、その旨を2月13日の「米朝首脳会談で日本が置き去りにならない理由」以降何回か投稿した。

今回改めて米国と国連の北朝鮮制裁への取り組みをおさらいし、それを再確認した思いがする。何とかそのように事が進んで、一刻も早く北朝鮮が白旗を揚げるよう祈りたい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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