農業と生産者の過度期:頭を使わねば稼げない時代へ --- 倉持 信宏

2019年03月26日 06:00

先日、全国農業系サークル・OBOGネットワーク(以下、GOBO)さんの「Agri-Career Seminar」にてトークセッションに登壇させていただきました。これを終えて感じたこと、常々思っていたことをざっと書いてまいります。

多くの経験豊富な生産者の先輩に混ざってお話しする機会を頂き、緊張しながらも楽しみにしておりました。
これからの人生と向き合う若い方々の前でお話しするというのは些か責任は重いなと感じながらも、自分なりに感じたことや学んだことをお伝えすることで、「若手」農家目線を知ってもらえたらと。

僕自身、大学生時代如何しようも無いぐうたらだったので就活はやめる、研究室もやめるというエクストリームポンコツっぷりを発揮して逃げ帰るように実家就職してしまったのですが。。

当日、3度のトークセッションをプログラムに含めた長丁場でも、参加した皆がダレることもなく真剣に自身のこれからの人生を見据え、考え、向き合われていました。この姿勢を受けて本気で伝えねばと思って重く冗長気味になってしまったことは反省してます。笑

トークセッションは生産者からみた農業周辺事業の盛り上がりについてという部分が大きかったので、実際に参加者の皆さんにお伺いするとやはり生産者志望:周辺事業志望で1:9~2:8 くらいの割合。

勿論こういった場所に足を運ばれるくらいなので周辺事業に興味ある方の方が多いのはわかってはいたんですが、これを縮図としてみれば1人の生産者を4,5人で支えるような構図なのかなと思いました。

以前、GOBO合宿のピッチで農業従事者が自身の暮らしを十分に全うできる賃金や勤務体系無くして農業の発展はない事を趣旨にお話ししました。

その流れで阿部梨園の佐川さんが同セミナーでの登壇を通しての記事をシェアくださり、拝読しました。そこには周辺事業を志望する学生とのやりとりから、「農家の右腕業」についての考察がありました(リンクが見つかりませんでした、、)

端的に言えば現状、同じように大部分は周辺事業を志望されていたわけですが、1人の参加者の方がなぜ現場を志望しないのか、理由や懸念点を述べてくださいました。

低賃金(収入)
不安定
きつい・しんどい

これぞ。というくらい的を射たご指摘。

これを踏まえて周辺事業についてと、上記の問題点に触れて思う事を書いてみます。

よく僕が「農家」の特徴としてあげている事ですが
有形物への支払いは躊躇なく、無形の投資は嫌う」風潮は根強いと思います。
つまり、トラクターなどの機材や物資の購入はバンバンできるのにコンサルティングやデザイン・PRなど、リターンが明確ではないものを信用しない・嫌うということです。

周辺事業として、農家を支援する・応援する仕事をしようとしている人にはこの壁があるのです。人を選べばいいという考え方もありますが、農家が減少し、周辺事業がこれだけ盛り上がる中で自分のパイを広げるのはそう簡単ではないと考えています。5,60代の後継の予定のない農家もいるし後継者だけど変わらずクローズ主義の方もいる中で飛び込んで関係を構築し、信用を創造し、信頼に変えるこれはある種、現場職よりもタフだと思います。

彼らの視点まで降りて立ち、同じ方向を向きながら苦悩を吸い出し、共に迷路の中で狼狽えながら苦汁を嘗める。
そういうものではないかと僕は思っています。

佐川さんの輝かしい活躍もあり「農家の右腕業」を志す人も多いかもしれません。
ただこの背景にも忘れていけないのはこの提案を受け入れる決意に至るまでの信頼関係と、経営者の決断です。
成果をみれば勿論輝かしいのですが、自身の身を投げて外資系企業から農業従事者(被雇用者という意味で)になるという「リスクテイク」を行なったことこそ偉大だと思っています。
そして、それを受けて経営を任せるという大きな決断を社長は踏みきったことも凄いことです。

踏みきったのか踏みきらせたのか

とは言え、自分の人生を考える上で「リスク」を考えるのは必須通過点です。
この点でシビアに現場の不安定さや低収入である点を見て避けたというのは賢明なことで。
自業界ながら既存のシステムでの生産者としての生き方がギャンブラーに近いのは事実です。

生産規模が一定な中で毎日・毎月・毎年の相場に揺られながら、天候や疾病などの要因と戦うのは十分にリスキー。それ故に博打のような仕事を主業にしたくない人やそこに入りたい人が少ないのも無理はありません。

では、生産者側はここをどうクリアしていくのか、考えました。
何故不安定なのか、と言えば「依存要因が大きく多い」から。市場に出荷している以上は市場が出す建値で自分たちの生産物の価格は決まるし、これが変動するからこそ「不安定」です。

ならば、自分たちで価格を決めて売ればいい。いわゆる直売。
昨今の生産直売ムーブメントはこうした過程で生まれ、ネットの力で急成長を遂げてきたのかと。
楽天、メルカリ、ヤフオク、食べチョク、ポケマルetc..
こうした多くのプラットフォームが開発・整備・向上され、それを活用し、生活の安定化に向かって動く農家は少なくありません。そうしているうちにそんな農家は多くなり、先行参入者として目立つ要因も減ってきた。

ここに加えて自身の生産品をどう見せるか、目立たせるかという面で生産者をブランディングや広告PR、そしてコンサルティングの力でサポートしようという会社が力を発揮する。

現在の「農業の周辺事業」には安定を目指す農家の独り立ちへのサポートにつながるものが多く見受けられます。

山西牧場の人気商品「山西牧場豚角煮カレー」:同社サイトより=編集部

生産者として特別視されることが多いですが、ビジネス的に考えれば生産のみを行い、出荷でクローズしている生産者というのは構造的には「下請け」に過ぎないと僕は考えています。

1つのメーカーとして捉えると、1つのものが作られ、消費者に届くまでには生産の先に加工、包装、流通、販売があり、その周りには営業、PR、マーケティング、ブランディング…そういった様々な重要な要素がある。

ここをやらずして「生産」部分に従事する自身の立場だけを主張して「生産者が儲からないのは良くない、納得できない」ということには疑問を持っているのです。実際、色々取り組んでわかることはモノを売ることは何よりも難しいということ。

どんな人が、どんな理由でそれを欲しいと思うのか
大きさは?分量は?形状は?価格は?味は?
そしてその要素が毎日のように変化しています。

生産者なんていうけれど商売を意識しない生産は仕事なのか?
きっと自分で生産品を売り始めた生産者は自慢の生産品が簡単に売れないことに驚き、失望したかもしれません。(というか僕はそうでした)だけどそこが消費者を意識するファーストステップでもあると思います。

今、6次化だ6次化だと叫ばれる中でいざ自分も、と考えている方は多いと思います。
皆、様々な加工品を委託など含め製作していますが、自分もやってみた中で、やるのであればなおさら消費者として学ぶ必要があるのだと感じました。

とにかく作って…と闇雲に鉄砲玉を飛ばしてもコストばかりが嵩んで売れなかったり、赤字を作ってしまったり。。
やはりコスト・リスク・ターゲットを学んで知るのは大原則です。

自身の生産品のターゲットがどんな層でその層の人々のライフスタイルから求められる形を考え、そのために生産品の良さを知ってもらえるベストな形を模索して小さな形から広げていくこと。

もちろん「虎穴に入らずんば虎児を得ず」で、リスクテイクをしなければ得るものはありませんが重要なのはなんども失敗できる形でトライすることです。

ウインナー1つ、がっつり作るとなれば

・冷蔵庫
・チョッパー
・カッター
・スタッファー
・スモークハウス
・包装機材
・ラベラー

などなど、大量の機材が必要で投資額は下手すると軽くウン千万となってしまう。
これで失敗してはたまったものではないので、小さく委託先を探して、小さなトライ&エラーを繰り返す。

販売だって、今はBASEをはじめとして様々な販売プラットフォームが無料で開設できるので、スタートには本当に恵まれた環境が揃っています。

こうしてサイクルを雪だるまの様に回して積み上げていくことが今の中小農家の生存戦略としては良いのではないかなと思います。

改めて、各業者のポイントや消費者のニーズは食い違っているものだと感じました。
養豚業でいうと消費者は食べる側として値段を除けば「美味しいもの」を求める。
中間の食肉卸業者は「歩留まりの良いもの」を求める。
(歩留まりは一頭から取れる肉量のことです)
生産者は効率的に多くの頭数を出荷できる「生産性」を追っている。

1つの要素でも三者三様にバラバラに異なる部分にフォーカスしています。
自分ではない商売相手が何を求めているかより強く意識した時、より良いモノ作りの時代が来ると思っています。
嘗ては消費者に直接売っていたからこそ「美味しさ」を追い求めていたかもしれません。

そこから大きな商売になるにつれて如何に安く、多くを生み、売るのか、こういった時代にシフトしてきました。
そして技術の進歩がそれを一周させて新たに「個人商店時代」を少しずつ作り上げている部分はあるのではないかと思うのです。

安いものを求める人はスーパーに行くし、多少根が張っても良いものやオンリーワンを求める人は直売やセレクトショップ・マーケットへ。選択肢が増えた事や多くの事例が生まれている事は自分はどこに立ちたいのか、そういったポジショニングを考えるきっかけをくれたのではないでしょうか。

こうして自分のネーム(ブランド)が認知され、ファンが増えていくことで相場が大きく動き、いわゆる豊作貧乏の状態になった際も、生産者ブランドがあることで変わりない小売価格で販売できれば、救命ボートとしての役割だって果たせるでしょう。

とりあえず豚肉だから買うのか
美味しい豚肉だから買うのか
あの人が作る豚肉だから買うのか

自分の生産品はどう言った理由で買われているか、考えると同じ販売においても上記の3つは大きく異なります。
生産者の顔が見えるというワードがありますが逆も然り。
僕らは食べてくれる人の顔を見ることはできませんでした。
というより、見ようと思っていなかったという方が正しいかもしれません。

自分たちの製品を手に取り(又は閲覧し)、購入してくれる人たちが、なぜ買ったのかという理由は作り手に大きな学びをくれます。

前にもどこかに書いたんですが
スーパーとかの生産者の写真載せて「生産者の顔が見える」と言ってるのは正直ナンセンスだと思ってはいます。「いやいや、、このおっさんニコニコしてるけどどう作ったとかどんな考えかなんてわからんやん」と。大事なのはその人がどう作ったか、です。

そしてこういった発信は双方向で関われることにより価値があると思っています。
とは言え、消費者としては作物を作った人の名前とか、他で言えばiPhone作ってる工場の人とかは興味ないわけですから生産者が自意識過剰になるのも疑問がありますが。。

こうして生産者がより一層「商売」を意識して生産品に付加価値をつけて販売する、営業する。そうして育っていくことによって収入が増えれば自ずと低賃金という問題を解消できる環境までは辿り着けるでしょう。

生産から加工、販売、発信ときて、これから多くの農家が外に出回って営業したり、PRに一層力を入れるようになったら大きく時代が革新されるんじゃないかなぁと考えています。そしてその流れは始まっています。

「農業」にはしばしば清貧であったりとか長閑だとか、一定のイメージ(固定概念)が付きまとっています。職に貴賎はないと言いますが

・大手IT企業や商社、外資系に勤める
・農家に勤める

この2つに印象の差があるのは明白です。
農家という職に貧乏して汚れたツナギであくせく働くイメージを持たれるのは勝手ですが、実際それじゃ面白くない。

ブルーワークは免れないとて、頭を使って農業をすれば事業者はもちろん従事者だって大いに稼げる。
そう言った形を事業者一人一人が持てば多少なりとも空気は変わるはず。

僕自身、農業界をどうこうしたいとかそう言った考えはありませんが農業者以前に事業者として如何に健全に立ち上げ、サバイブしていくか。そして豊かにしていくかは本気で考え続けなくてはなりません。農家、という言葉を捨ててビジネスマンや事業者としての視点を持ってトライしていくことを意識するところから始まるのかと思います。

農業が儲からないのではなく、既存の農家マインドでは稼げない時代になっている、と自分には言い聞かせています。

これからビジネス目線を提げて農業に参入する人たちは自分含め「後継ぎ」に比べると強いでしょう。これから数年で大きく変わるであろう業界の中しっかりと自身の足で立ち上がる経営をしていくにはこうした目線で学び続けるのは必須だと、登壇させていただいたことで大きく学びになりました。

考えを書き出すとまとめるのが大変なのですが、登壇してから頭の中で考えが止まらなかったので、一度思ったことをつらつらと考えを吐き出してみました。

とにかく、やってみる。ダメなら学んで考える。ひたすらこれに尽きる。

右往左往
五里霧中
暗中模索
試行錯誤

今はそんな感じなのですが、、

こう書いているとネガティブな印象を持たれてしまうかもしれませんが未来は明るいと思っています。
まだまだやってみたい事が沢山あります。今は自分の思いを形に変える様々な方法が転がっています。それも簡単に。

Twitter/Facebook/Instagramが無料の商売道具になり、店を出さずとも無料で出店でき、銀行や補助金以外にもクラウドファンディングを始め、資金を調達する方法が生まれている。Howの障壁はほぼなくなりつつある中で自分がどんな動き方をするかで多くの可能性があるのだから使わない手はない!(前にこんなものを書いてみたのでご参考までに)

いざ比較!「結局どこで売ればいいの?」実際使ってみたネットショップ5選+α

多くの人の美味しいを作りたいという思いは変わりません。
明日は何をしよう。

倉持 信宏(くらもち のぶひろ)山西牧場 代表取締役
1990年茨城県生まれ。明治大学農学部卒業。茨城県坂東市で、豚総頭数7000頭を飼養する養豚場の3代目。ウェブを活用したマーケティングやブランディングに力を入れるなど、新しい農業経営を実践している。山西牧場公式サイトツイッター@yamanishifarm 

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