国際通商ルールからみた国内外企業間のイコールフッティングの整備

2019年03月28日 06:00

国内外企業間のイコールフッティングをめぐる日本の検討状況

2019年2月18日、経済産業省、公正取引委員会、総務省合同の「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」は、巨大IT企業に対する規制について、2019年6月までに取りまとめ、政府の成長戦略に盛り込む方針を発表しました。

また、直前の2月13日に開催された「未来投資会議」における「デジタル市場のルール整備」に関する議論を受け、「透明性・公正性確保等に向けたワーキング・グループ(WG1)」と「データの移転・開放等の在り方に関するワーキング・グループ(WG2)」の2つのワーキング・グループを設置し、検討を進めていくことも発表しました。なお、上記「未来投資会議」では、内閣官房にデジタル市場の競争状況の評価等を行う専門組織を設置することも発表されました。

この他、自民党の競争政策調査会(会長:伊藤達也衆議院議員)が、3月15日にAppleとAmazon、3月20日にGoogle、3月22日にFacebookに対してそれぞれヒアリングを行ったと報道されています。

昨今、巨大IT企業の取引慣行を問題視し、それを規制しようとする動きが、日本でも広まっています。実際、以下の図に見られるように、日本政府内でも各省庁が、さまざまな観点から巨大IT企業に対する規制を検討しているところです。

巨大IT企業の規制についてはさまざまな論点がありますが、特に関心が高いものの一つに、「国内外企業間の法適用・法執行の平等」があります。これは、例えば、日本企業と外国企業が、日本の消費者に向けて同様のサービスを提供していたとしても、外国からサービス提供を行った場合は日本法が適用されなかったり、外国企業が法令違反を犯した場合でもその外国企業に執行できない場合があることがあります。これを踏まえ、競争環境の整備や消費者保護の観点から、日本企業であっても外国企業であっても、別け隔てなく日本法が適用されるよう、また必要に応じ別け隔てなく日本法が執行されるよう確保するものです。

「国内外企業間の法適用・法執行の平等」については、遡ってみますと、2018年4月の新経済連盟の提言「Japan Ahead 2」や、2018年5月の日本経済団体連合会の提言「デジタルエコノミー推進に向けた統合的な国際戦略の確立を」の中でも述べられており、実際、その後2018年6月に発表された政府の「未来投資戦略2018」の中にも盛り込まれています。

最近の事例を挙げれば、2018年12月に経済産業省が「Connected Industries における共通商取引ルール検討小委員会」にて取りまとめた「中間整理」や、上記「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」が取りまとめた「中間論点整理」及び「基本原則」、そして、2019年2月に総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」が取りまとめた「中間報告書(案)」にも盛り込まれています。

もっとも、「国内外企業間の法適用・法執行の平等」を確保するための具体的な方法については、いずれもまだ確定していない状況です。そのような中、具体的な方法の一例として提案されているものに、「外国事業者に対し、日本国内に拠点や代理人といった物理的な適用・執行対象を設置することを法令で求める」というものがあります。

この提案は、EUの一般データ保護規則(GDPR)といった外国法から示唆を得たものでもあるようですが、今後どのように検討が進められるのか注目されるところです。この点、

上記政府が取りまとめている文書のいずれにも入っていない考慮要素として、「国際通商ルールとの整合性」があります。ここでは、上記「外国事業者に対し、拠点や代理人といった物理的な適用・執行対象を設置することを法令で求める」際に、国際通商ルールとの関係から追加的に留意しておく必要がありそうな点についてご紹介します。

【参考例】納税管理人制度

平成27年度税制改正において、国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税方式が見直されましたが、その中で、消費者向け取引に係る課税方式については、国外事業者が日本の税務署に申告納税を行うこととなっています(国外事業者申告納税方式)。

この点、国税通則法117条は、法律の施行地内に住居所等を有しない納税者等に対し、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理させるため、納税管理人を選任すべきことを規定するとともに、納税管理人の資格及び選任、解任の手続を明らかにしています(納税管理人制度)。

もっとも、税務大学校研究部教授・宮川博行氏の論叢「非居住者の消費税の納税義務に関する一考察ー国内に事業所等を有しない事業者の資産の譲渡等を中心としてー」によれば、納税管理人に連帯納税義務を課して納付を確保するような制度になっている訳でもなければ、納税管理人を選任しなかった場合の罰則もなく、そもそも日本において納税義務を履行する意思のない者が納税管理人を選任するインセンティブもないため、効果は限定的と言われています。

実際、2019年2月24日の読売新聞オンラインの記事「海外配信業者の消費税課税に苦戦、『逃げ得』も : 国内」によれば、東京国税局が海外企業のスマートフォン向けのゲームアプリ業界に着目、消費税未納の海外配信・開発業者数百社をリストアップし、その中から日本で高額の売り上げが見込まれる数社に納税義務があることを文書で通知したものの、非協力的な業者が少なくなく、中には相手国と締結する租税条約上、国税当局が直接文書を送れない業者もあったようです(国税当局には海外での調査権限はなく、相手国の協力がなければ、取引実態を把握することも難しいとの事です)。

国際通商ルールとの整合性

日本が参加している国際通商ルールにはさまざまなものがありますが、ここでは世界貿易機関(以下、WTO)協定、とりわけサービス貿易に関する一般協定(以下、GATS)と、環太平洋経済連携(以下、TPP)協定についてご紹介します。

なお、国際法の基本原理として、ウィーン条約法条約第34条にも規定されているとおり、「合意は第三者を害しも益しもせず(pacta tertiis nec nocent nec procunt)」とされています。そのため、WTO協定についてはWTO加盟国と、TPP協定についてはTPP締約国との関係であることを付言します。

(1)サービス貿易に関する一般協定(GATS)

GATSは、WTO加盟国によるサービス貿易の自由化に関する協定です。GATSは、サービス貿易を、①越境サービス提供(第1モード)、②域外消費(第2モード)、③業務上の拠点(第3モード)、④自然人の移動(第4モード)の4つの類型(それぞれの典型的なイメージ図はこちらをご覧ください)に分け、それぞれについて加盟国に自由化を約束させる形(市場アクセスを制限しないとか(第16条)、内外差別を撤廃する内国民待遇を行う(第17条)といった形)をとっています。

この点、注意しなければならないのは、自由化の義務は一般的にかかるのではなく、加盟国が「約束表」で示した範囲でのみ義務がかかるということです(「ポジティブ・リスト方式」)。逆に言えば、「約束表」で示していないものについては、WTO加盟国との関係で自由化を約束していないと言えます(この点、GATSの約束表は関税及び貿易に関する一般協定(GATT)の譲許表とは異なり、サービス貿易の各類型、すなわち、上記①から④の各モードに分けて約束するものであり、約束の仕方も「None(制限なし)」として完全に内外無差別等を約束する形から、制限付きで約束する形もあります)。

この「約束表」の書き方を定めたものとして、2001年にWTOサービス貿易理事会で採択された「スケジューリング・ガイドライン(S/L/92)」というものがあります。この中で、市場アクセス制限(GATS第16条)と認められる具体例が示されていますが、③業務上の拠点(第3モード)については、「商業的拠点」から代表事務所を除くとするものや、外国のサービス提供者は子会社を設置しなければならないとするもの、外国のサービス提供者は引き受け国の企業と合弁等を設置しなければならないとするものが挙げられています。

よって、日本政府がWTO加盟国のIT事業者に対し、日本国内に拠点や代理人といった物理的な適用・執行対象を設置することを法令で求める場合、GATSとの整合性も確認・検討しておく必要がありそうです。日本の約束表については、こちらをご覧ください。

(2)環太平洋経済連携(TPP)協定

TPP協定は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、そして日本の合計11カ国が署名、2018年12月30日に発効した包括的な経済連携協定です。

TPP協定は全部で30章からなりますが、とりわけ本件との関係では、第10章(国境を越えるサービスの貿易)と第14章(電子商取引)が重要です。

①第10章(国境を越えるサービスの貿易)

第10・6条「現地における拠点」は、「いずれの締約国も、他の締約国のサービス提供者に対し、国境を越えるサービスの提供を行うための条件として、自国の領域において、代表事務所若しくは何らかの携帯の企業を設立し、若しくは維持し、又は居住することを要求してはならない」と規定しています。よって、TPP締約国企業との関係では、こうした拠点設置要求を原則して行うことができません。

もっとも、第10・7条「適合しない措置」には、協定発効時に存在する特定の措置については第10・6条の義務の適用対象外とする「現在留保」、そして限定された分野や留保すべき内容を、将来にわたって第10・6条の義務の適用対象外に置く「将来留保」があり、TPP締約国がこうした留保を行っている限りにおいては、TPP締約国企業に対し拠点設置要求を例外的に行える形になっています。日本の留保については、附属書I及び附属書IIをご覧ください。

②第14章(電子商取引)

第14・13条「コンピュータ関連設備の設置」の第2項は、「いずれの締約国も、自国の領域において事業を遂行するための条件として、対象者に対し、当該領域においてコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求してはならない」と規定しています。よって、TPP締約国企業との関係では、こうしたローカライゼーション要求を原則として行うことができません。

もっとも、同条第3項は、「この条のいかなる規定も、締約国が公共政策の正当な目的を達成するために2の規定に適合しない措置を採用し、又は維持することを妨げるものではない。ただし、当該措置が、次の要件を満たすことを条件とする」とし、以下の2つの要件を規定しています。

  1. 恣意的若しくは不当な差別の手段となるような態様で又は貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用されないこと
  2. 目的の達成のために必要である以上にコンピュータ関連設備の利用又は設置に制限を課するものではないこと

この2つの要件については、先程のGATS、そして同じくWTO協定の一部を構成する貿易の技術的障害に関する協定(TBT)の中に同じような文言規定があり、そうした規定に関し積み上げられたWTO紛争処理制度の判例が、解釈の参考になりそうです。

なお、第14・1条の「対象者」の定義によれば、金融機関又は国境を越えて金融サービスを提供する締約国のサービス提供者は、第14章(電子商取引)の「対象者」に含まれないため、こうしたサービス提供者に対しては、上記例外規定を満たすまでもなくローカライゼーション要求を行うことが許容されることになります。

以上のように、日本政府がTPP加盟国のIT事業者に対し、日本国内に拠点や代理人といった物理的な適用・執行対象を設置することを法令で求める場合、こうしたTPP協定の諸規定との整合性も確認・検討しておく必要がありそうです。

むすびにかえて

筆者は国際渉外を主に担当していますが、国内におけるデジタル分野に関するルールやポリシーメイキングの動向ももちろんフォローしています。その中で感じることは、今後国際法との関係についての本格的な議論や検討が必要になってくるのではないかということです。

上記で述べたこと以外にも、域外適用は国家間の軋轢を生みやすいこと、執行管轄権の域外行使は主権侵害となること、そして相互主義との関係から、他国と執行協力を結ぶ場合には自国政府が負いうる義務にも留意する必要があることといった考慮要素がいくつもありますし、とりわけグローバルでオープンなインターネットをベースとしたサービスを規制する場合には、外国法を参考にすることのみならず、国際法の規律を無視することはできません。

国内で議論を重ねたにもかかわらず、結局国際約束との関係で水の泡になってしまう、あるいは、国内企業に対する法適用・法執行のみが厳しくなってしまうという事態が生じないよう、メルカリは今後も日本のデジタル分野のルールやポリシーメイキングに積極的に参画していきます。

(望月 健太)

【※参考資料】

  • 宇山智哉「サービス貿易の自由化と国内規制」貿易と関税 2017年12月号、2〜14頁。
  • 石山知子「10 国境を越えるサービスの貿易(本則)」Web解説TPP協定 ver.1 (2016/3/8)、1〜7頁。

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編集部より:このエントリーは、メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」の2019年3月27日の記事より転載させていただきました。掲載を快諾いただいたメルカリグループに感謝いたします。オリジナル記事をご覧になりたい方は「merpoli」をご覧ください。

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