ネット時代、新聞記者→地方議員の「転職」がアリだと思うワケ

2019年04月01日 06:00

統一地方選の前半戦(4月7日投票)はラストサンデーを終えて、中盤戦から終盤戦に入ろうとしている。大阪ダブル選や北海道知事選など首長選が注目を集めがちだが、41の道府県議選と17の政令市議選も行われており、各地域の有権者の皆さんは、ぜひ投票に行っていただきたいと思う。

さて以下は個人的見解。

その17の政令市議選のうち、広島市議選に、筆者の野球記者時代の同僚だった、むくぎ太一(椋木太一)君が初めての選挙戦に挑んでいる。去年の夏、福岡にある読売新聞西部本社を辞めて、地元の広島市安佐南区に帰郷。この間、プロ野球担当記者の経験を生かして、アゴラにもプロ野球の記事などを何度か寄稿してもらったのでご記憶のかたもおられよう。そして29日から選挙戦に突入し、定数10のところに彼を含む16人が立候補という大激戦に挑んでいる。

椋木氏Facebookより

自民党広島県連の新人研修を修了したが、地元の「特殊」な政治事情により、無所属での立候補に。しかし縁があって自民市議で9期務めた大ベテラン、土井哲男さん(83歳)の後継者として、この半年あまり地道に活動してきた。自民系というと右派な志向の人も少なくないが、そこはリベラル派閥、宏池会王国の広島育ち。本人も被爆3世として広島市の平和都市ブランドへの思い入れは強い。

2014年8月の豪雨による土砂崩れで住宅街が飲み込まれたシーンは、全国でも注目されたが、その頃から故郷の将来を案じ、政治家、それも市議か県議として地域の力になろうと思い立ったようだ。防災、そして2歳児を子育て中の現役パパとして、記者時代の取材経験も生かし、よその都市が先行する産後ケア制度の充実や、働きたくても働く機会が得られないママさんたちの就労支援などを訴えている。

新聞記者が地方議員に向いていると思う理由

さて、応援テイストな説明書きはこれくらいにして、ここからはフラットに書く。彼に色々アドバイスするうちに気づいたのだが、新聞記者の転職先として地方議員(特に市区町村)は本人のキャリアだけでなく、地元に住む有権者にとっても、なかなか良い選択肢ではないかと思った。

一般的に、新聞記者は公務員と同じく社会的影響力のある仕事をしているわりに「潰しが効かない」職業として知られる。経済記者なら多少は財務分析をかじる程度はできるが、30代を過ぎれば同世代の民間企業で働くプロフェッショナルたちと同等のレベルで、資料作成やプレゼンテーション、アカウンティングや企業ファイナンス、法務など実務で使える専門スキルは持ち合わせている人はごく希少だろう。

しかし、地方議員に関しては、新聞記者は若手の頃から警察と並んで地方政治・行政・選挙の取材は一通りこなし、地方議員や首長への取材を通じて「生きた」現場を外から学べる。議会質問で行政側に追及・提案していくことは、問題の所在に気づいて役所や市民に話を聞いて取りまとめていくあたりは、取材〜執筆のワークフローと似ている。記者として広域的・時代的な課題に対するマクロ視点もあるから、国内の先進自治体や海外の事例などを発見・研究する見識もある。

そういうわけで親和性はあるので、昔から記者を登竜門にして政治家に転身するコースはある。

ネット時代になって記者的な発信力が活かしやすく

ただ、ここからが私見なのだが、インターネット時代になって、実は新聞記者出身の地方議員が強みを生かすべき環境がさらに整ってきていると思う。とても皮肉なことだが、40代以下は新聞を読まなくなって、折り込みで配られる自治体の広報物や議会だよりへの接触機会は減少している。テレビでも地方政治は絶頂期の小池都政のような話題性でもなければ取り上げられない。

しかし、いまはブログやSNSを通じて、地方政治・行政の解説や問題提起を直接有権者に行うことが可能になった。反面、議会の中の複雑怪奇な審議プロセス、懸案事項の経緯などは、新聞の地方面でも十分に載らないことの方が多い。広域性のある都道府県議会は、まだしも市区町村議会レベルなら、なおさら。しかも複雑な中身や、そもそものところから咀嚼して説明する編集力・筆力が要求されるが、新聞記者を5年以上は勤めた人なら、議会で「際立った」執筆力を発揮し、地方政治行政になじみの薄い一般市民にもわかりやすい発信ができる。

そのことを痛感したのは私の地元、東京・港区だ。ここで前回の区議選でトップ当選した元産経新聞記者の清家あい区議のブログは明らかに際立っている。誤解がないように言っておくと、共通の知人はたくさんいるが、彼女と直接の面識はない。それどころか区長選での政治的立ち回りにかつて苦言を呈したこともある。

清家あい氏ブログより

しかし、それでも、なぜここで紹介するかといえば、私の妻やママ友たちがある問題の情報を収集する中で、清家さんのブログを頼りにしていたのを知ったことだった。

港区は待機児童問題も非常に特殊な経緯を辿っており、保育園への投資は進んで待機児童ゼロをほぼ達成したのだが、ところがそこは全国で最も富裕層の集まる地域。セレブ専業主婦も多く、幼稚園に子どもを通わせたい家庭も増加していて、区立幼稚園の整備、特に年少クラスの受け皿が十分でない。区立幼稚園の抽選に漏れると否応無しに地元の私立幼稚園は受験対策が必要な名門だらけという極端な状況になっているのだ。

我が家の2歳も塾通い開始で、私も予想外の教育費出費を強いられているが(号泣)、政治家の広報コンサルとして、印象的だったのは、それまで区政に全く関心のなかった妻やママ友たちも子どもの将来と家計がかかるとなれば、目の色を変えて情報を収集しだしたことだ。ググりまくるうちに、区のサイトは、建前論しか書いてなく、やがて清家さんの幼稚園問題の解説ブログを発見。そこで細かい経緯や背景、制度的な解説が充実していて、ママ友たちのLINEグループの口コミで清家ブログの存在はどんどん広がっていったようだ。

そんな様を見ると、地方議員ブログが住民に役立っていることを痛感させられた。もちろん、それが可能なのも記者時代の文章取材スキルに加えて、書き続けてアーカイブ化している強みがあるからだ。清家さんはこの4月の区議選で3期目を目指すが、地盤とする地域以外からも薄く広くママ票を集めて、おそらくまたトップ当選するのではないだろうか。そろそろ区長候補として名前が挙がってもいい頃合いだ。

新聞社冬の時代、「ニュースの砂漠」対策としても有効?

そういえば、清家さんの古巣、産経新聞は2020年にも全国の地方支局縮小に舵を切るようで、オリンピック後には新聞業界にもいよいよ本格的なリストラの嵐が吹き荒れるかもしれない。過去15年、地方の新聞社が1800超もつぶれたアメリカでは、地元行政の監視役が不在となる「ニュースの砂漠」地域が増えるとともに汚職や腐敗が増えたという研究もある。

世界最強の宅配制度に支えられてきた日本の新聞社も同じく過去15年で広告費は半減。倒産とまで行かずとも取材拠点の撤退が進めば、同じくニュースの砂漠化は進む恐れはある。

そういう意味では、新聞記者がその経験を生かして地方議員として活躍することができれば、「ニュースの砂漠化」対策としても今後重みを増すだろう。ただし一方で、記者出身者には、公平に見て実業経験が乏しいところから生じる課題もある。

これは以前、小林史明さんと話して意見が一致したことだが、これからの地方議員は従来の行政チェック型から、住民たちと一緒に社会プロジェクトや地場産業などに主体的に取り組んで課題解決をしていくプレイヤー型が求められようとしている。

参考:小林史明さんアゴラ記事『政治・行政・住民の新しいパートナーシップ

お掃除NPOのグリーンバードを創設、全国に広めた渋谷区議時代の長谷部健・現区長はその先駆的存在だ。小林さんの地元、福山もプレイヤー型の市議さんがいるそうだが、新聞記者経験者は大人数のチームで動いた経験やマネジメント経験が乏しいのは弱点だ(私もそうだった)。だから、こうしたプレイヤー型になるためのポテンシャルがあるかどうか有権者は見極めていただければと思う。

もし、先述のむくぎ君が当選したら、ぜひ記者仕込みの発信力に加えて、広島市を盛り上げる活性化プロジェクトを自ら主導し、行政を現場でもリードするような存在になってほしいと思う。そういうわけで広島市安佐南区のかた、よろしくお願いします。

なお、私も元新聞記者で、しばしば政治家転身説を仄聞しますが、選挙に投資するお金も勇気もないわ、それでいて3日で舌禍問題を起こして炎上→3週間で週刊誌報道→3か月で辞職というコースをたどる自信だけはあるので悪しからず。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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