株価と企業経営:日本の新興市場マーケットに見る弱点

岡本 裕明

株価がどうして動くのか、といえば大まかに二つあります。一つは外部要因、一つは内部要因であります。外部要因とは世界経済、国内経済、産業や業界といった外部環境に影響を受けます。もう一つは企業の個別の理由で、売り上げや利益、時としてコンプライアンス上の問題などが生じたときに大きく株価は動きます。そのほかテクニカル要因がありますが、ここでは省略します。

私は投資をする際にまず外部要因を中心に読み込みますが、個別企業についてはその独自性と将来性とともに株価が将来の成長に対してどれぐらい織り込んでいるのかを想定し、高すぎる期待度(つまり理論的株価をはるかに超越しているとき)の際にはゲーム感覚の短期で臨むか、端から近寄らないことにしています。

そんな感性でみていると日本の新興市場マーケットに弱点を見出すことができます。それは企業ガバナンスと経営者の才能の水平展開の仕方であります。

日本を代表する新興企業の経営者、前澤友作氏と瀬戸健氏(ZOZOとRIZAPの公式サイトより:編集部)

前沢友作氏のZOZOに厳しい視線が向けられています。一時期は華やかなイメージで成功者としての名声を独り占めし、そのプライベートにも注目が集まっていたのですが、その時にはすでに同社のビジネスモデルにクラックが生じ始めていました。が、見えないふりで「たいしたことない」と対策が後回しになったことが影響を大きくしています。日経によると同社の時価総額は18年7月の1兆5000億円から現在は6400億円程度に落ち込んでいると記されています。

私はこれぞガバナンスの限界と水平展開の難しさなのだろうと思います。前沢氏は10年以内に時価総額5兆円を目指していたわけで今は真逆の方向に向かい、同社に参加するアパレルはEC型ブティックからEC型アウトレットに変わってしまったわけです。

端的に言えば過信で、そのような新興企業の経営者は昔からかなり多いものです。最近ではRIZAPの瀬戸健氏も似たタイプですし、Tateruの古木大咲氏、あるいは非上場ですがコインチェックの創業者だった和田晃一良氏も似ています。その多くは一つのビジネスモデルの無限の成功を前提としているのですが、時代の移り変わりや企業を取り囲む環境変化についていけなくなるケースが多いようです。

アメリカの成功した起業者と比べ何が違うのか、といえば日本の方の才能の開き方は狭い領域を深堀するタイプが多いことでしょうか?また、あるヒントをもとに改良型ビジネスを立ち上げるのですが、企業理念よりも企業規模を大きくすることに捉われてしまっているように感じます。

勝手な想像ですが、経営者も株主もマザーズから東証一部への早道昇格や売り上げ増の倍々ゲームといった数字ありきのビジネスになっていないでしょうか?そうではなく、理念の水平展開、つまりなぜ、このビジネスなのか、を経営者、従業員、顧客、社会で共鳴できていない気がします。

例えばスターバックスは単一型ビジネスモデルの典型ですが、世界市場で広く愛されているのは一杯のコーヒーを通じたコミュニティの具現化だったと思います。従業員がプライドを持ち、幸せになり、それを顧客に伝播させる点は非常に上手です。あるいは日本マクドナルドのサラ カサノバさんがあれだけ苦境に陥りながらも立派な業績回復を遂げたのはハンバーガーを超えたビジョンがあったからではないでしょうか?日本人経営者ではユニクロの柳井正氏は衣服をファッションというより機能という面でとらえ、現場重視の経営を行った点が水平展開の一つの理由だと思います。

日本の場合、あるヒット商品があると経営者はそのビジネスモデルを徹底的に攻め、数年で巨大な組織にします。それは競合相手を抑えるという戦略があるのも確かです。しかし、拡大ピッチが企業能力を凌駕しすぎて従業員の不満、サービスクオリティの低下が生じやすくなり、経営者はそれに鞭を打ち、さらに上昇させようとするためにあちらこちらでマインドギャップが生じるのだろうと考えています。

日本の株式市場は海外のマネーが7割を占めますが、新興市場になかなか資金が回りにくいのはこのあたりの安定感が欠如しており、長期的な成長戦略を描きにくいところにあるように見えます。

企業経営とは何か、上場会社も非上場会社も中小企業ももう一度、原点に立ち返ってもいいのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月16日の記事より転載させていただきました。