日産前会長の追放画策:日経と文春のストーリーで気になる「時期のズレ」

4月17日リリースされた日経ビジネスの有料版スクープ記事「ゴーン氏宛てメール入手 政府、日産・ルノー統合阻止へ暗躍か-仏政府向けの『覚書』の存在も明らかに」は興味深いものでした。

ゴーン被告と西川社長(日産サイト、YouTubeより;編集部)

ゴーン氏のルノーCEO続投(向こう4年間)が昨年2月に発表され、3月にはルノーと日産の研究開発、生産技術、物流・購買、人事での連携を発表。さらに4月からは三菱自動車もこれに加わる、といった状況のなかで、経産省と日産との(統合阻止に向けた)やりとりが関係者のメールから判明した、というもの。

もちろん取材源は秘匿されるべきですが、いったい誰が資料を(この時期に)日経さんに持ち込んだのでしょうね。

ただ、この日経ビジネスのスクープ記事を、昨年12月の週刊文春の記事(日産社員からの取材とされる)と比べてみると、登場人物はピッタリ一致するものの、前会長の不正調査や追放の画策を練っていたとされる時期が微妙にズレていることに気が付きます。

日経のスクープ記事では昨年3月〜5月の時期には、現CEO含め、関係者と前会長との信頼関係は厚く、不正調査や追放画策は昨年6月以降に行われたものとされています。しかし文春の記事では、すでに3月の時点で関係者が集まって前会長追放の画策は始まり、5月の時点では(司法取引を活用することも含めて)追放のストーリーは出来上がっています。この時期のズレは前会長逮捕劇のストーリーを考えるにあたっては大きな差です。

さて、日経と文春ではどちらが真実なのでしょうか。経産省がやけにヒートアップしているところを(日産の)キーマンの方が冷静に対処されようとしている雰囲気が読み取れますが、このあたり、未だ理解に苦しむところです。

このような記事が出ますと、またまた「国策捜査」といった憶測も出てきそうですが、メールでキーマンの方がおっしゃるように「あくまでも民間企業内で処理すべき問題」として(日産側は)対応されたのではないかと推測します。

ただ、そこに「日本版司法取引制度」という、これまで検察も使ったことがない武器が活用されたわけです(ここは前会長の弁護人の方々も狙いドコロだと思います)。

立件されている事実のどこまでを司法取引がカバーしているのかは不明ですが、(金商法違反で起訴されている)法人としての日産と司法取引当事者とが画策していた、といった事実が出てくることは(追放を画策する側からすると)かなりマズイわけでして、前会長逮捕に至るまでの半年間の真相というものは、なかなか表面化することはないだろうな・・・と予想しております。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。