最新世論調査に見る台湾総統選挙の動向

高橋 克己

日本ではこの日曜に統一地方選と沖縄・大阪の衆院補選の結果が出たが、台湾の総統選挙も4月17日に世界的に著名な鴻海精密のオーナー郭台銘の出馬表明などあっていよいよ本格化してきた。本稿ではその後4月23日までに起きたことを書く。一つ目は民進党の候補者選びのその後、二つ目は国民党の候補者選びの動向、三つめは直近の世論調査だ。

蔡英文総統(台湾政府HP)と注目の郭台銘氏(公式FB)

民進党の候補者選びは4月2日の投稿の通り、当初は3月22日に予備選立候補を締め切り、4月4〜9日に政権発表会、4月10〜12日に世論調査、そして4月17日が候補者発表だった。が、蔡英文と頼清徳の両候補の合意により、世論調査に依ることなく話し合いで5月22日までに調整することに変更された。

筆者は先の投稿で、総統選挙が来年1月11日であることを考えれば候補確定後7カ月は余りに長く、仮に蔡英文が候補に選ばれない場合、長期の政権のレームダック化が避けられないように思われると書いた。国民党の様子を見ながら一本化の時期をもう一度考え直したらどうだろうか。

他方、国民党の候補者選びは4月18日の投稿の通り、知名度の高い郭台銘の出馬表明で様相が激変した。50年来の国民党員を公表した郭氏だが党籍回復には4カ月が必要と報じられた。長期の党費未納があったらしい。あくまで筆者の想像だが、まだ20代で起業したてだった郭氏、当時は国民党員であることが起業成功の必須要素だったため一旦は党員になったものの、多忙か金欠か判らぬがその後党費を滞納し、そのままになったのではあるまいか。

結局、有力候補を渇望する国民党が郭氏の党籍復帰を認めて正式な出馬表明となった。が、今度はこれも有力な総統候補の韓国瑜高雄市長が、23日に総統選への不出馬を記者会見した。国民党の候補者選びはその時期もまたその方法もまだ決まっていない。が、候補者選びが来年1月の総統選挙に近いほど、強い印象を持ったまま本戦を迎えられ有利なようにも思われる。

そこで最後は直近の世論調査の話になる。郭氏の出馬表明以降、18日の「世新大学」、20日の雑誌「遠見」、そして22日の「聯合報」と三機関の世論調査が公表されたので、以下にその結果を報告する。

18日公表の世新大学の世論調査は、4月17日に同大学の世論調査研究センターが全国の20歳以上の1,068人に対して電話で調査を行ったとされる。その結果は次のようだ。

「ETtoday新聞雲」より

グラフを見れば郭台銘の高支持率が一目瞭然。この調査は、韓国瑜や朱立倫には触れられていないこと、および郭台銘の出馬表明のまさに直後の調査であるところに特徴がある。

次は22日に公表された聯合報(国民党色のやや強い報道機関)の世論調査だ。この調査は4月20日から21日まで20歳以上の1,559人に対して電話(固定+携帯)で行われ、1,178人から回答を得たとされる。民進党、国民党、そして全体と三種類の調査結果のグラフが掲載されている。

先ず民進党の世論調査、結果は以下のようだ。

「聯合報」より

昨年の統一地方選で民進党が大敗した直後の2018年12月(107・108年は辛亥革命の1911年を元年とする民国暦)の調査では頼氏の後塵を拝していた蔡現総統が優位に立った。特に民進党(緑営)支持者では支持率を倍増させた。想像するに、これは年明けからの中国の強硬姿勢、すなわち習近平の一国二制度演説や台湾海峡の中間線を越えた戦闘機侵入など、に対して蔡総統が間髪を容れずに強く反発したことが好感されたのだろう。

次は国民党。これは全体のみならず性別、年齢別、支持政党別にも、韓国瑜、郭台銘、朱立倫そして王金平の4名の支持率を比較するという、極めて微に入り細を穿ったデータだ。

「聯合報」より

20歳~39歳で郭氏が僅差で上回っているものの、やはり韓国瑜人気が旺盛のようだ。「泛緑」すなわち「どちらかといえば民進党支持」の者の多くが王氏を支持して韓国瑜を支持しないのは、王氏相手なら確実に勝てる、と考えての願望だろう。韓氏は不出馬を表明したが、そのことは後の「遠見」の世論調査で触れる。

三つめが全体の結果だ。

「聯合報」より

ここには無所属の現台北市長、柯文哲が登場する。人気のある柯氏だが、さらに話題性に富む韓氏と郭氏には今のところは及ばない。民進党は頼氏でも蔡氏でも、また国民党の候補が朱氏か王氏の場合でも柯氏が出馬して来れば、勝てない。先の民進党支持者の調査では蔡氏に分があるが、この組み合わせでは頼氏の支持率が若干蔡氏を上回っている。

最後は4月20日に公表された雑誌「遠見」の世論調査だ。この調査は18歳以上を対象に電話で行い、高雄では707人(固定556、携帯151)、台北では701人から(固定550、携帯151)回答を得ているのだが、惜しいことに期間が3月4日~4月8日とやや古い上、調査対象が高雄と台北に限られる。とはいえ韓国瑜と柯文哲の支持内容を分析するには詳細かつ有益な調査だ。

「遠見」より

筆者は4月2日の投稿で韓氏について

最新の世論調査では柯文哲人気をも凌駕しているらしい。とはいえ一期目を無難に務めて二期目も競り勝った柯台北市長と違い、韓国瑜は昨年11月に高雄市長になったばかり、市長としての手腕も未知数だ。中途半端で中央に出て高雄人の期待を裏切れば、大票田のしっぺ返しだって食いかねない。

と書いた。果たして想像通り高雄市民の53.7%が韓氏の総統選出馬を支持していない。

23日の韓氏の不出馬表明がこの「遠見」の世論調査結果を意識せずに行なわれたとは思われない。そも民進党の固い地盤の高雄市民がその心情を措いて投票した韓氏、もし裏切れば南部の大票田の票のほとんどが民進党に戻ると読むのは当然だ。

他方、柯氏の方でも台北市民の気持ちは高雄市民と同じようで、こちらの出馬不支持率は58.4%に上る。が、筆者は、いざ出馬となれば台北はドライな都会、ウエットな田舎の高雄とは違ってその多くが柯氏に票を投じる気がする。

今後、民進・国民両党の候補者選びが進み(国民党内で予備選挙でも行われれば韓氏も辞退しきれないかも知れぬし、郭氏も韓氏の出馬を歓迎するとしている)、それぞれの正副総統候補者が選出されて本格的な選挙戦が来年1月11日の投票前日まで繰り広げられる。

当然、中国も92年コンセンサス(一つの中国の考え方。中国:台湾は中国の一部、国民党:中国は台湾の一部、民進党:それ自体を認めず)を認めない民進党への圧力を強めよう。また、郭氏出馬に沈黙しているトランプ大統領の動向も気になる。郭抜きなら無論民進党支持だ。が、郭氏が米国に100億ドルを投じて生産拠点を設けると表明し、トランプはこれを歓迎した。中国も、それでも鴻海の多くの拠点は中国に残るのだから、米中貿易摩擦軽減の観点からも内心はニンマリしていよう。

米中の動向を含めて、今後の台湾総統選からは目が離せない。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。