ルノーとの確執で日産社長の退任もある

3社統合でも力不足の時代

日産会長だったゴーン被告が保釈され、ルノーが要求する日産との経営統合(事実上の吸収)に焦点が移りました。きのう朝の新聞は「日産が統合に応じなければ、西川社長の続投を拒否」とのルノーの意向を伝えておりました。事件の処理より、自動車産業としての生き方が重要な課題になってきます。

写真左から。ルノーのボロレCEOとスナール会長、日産の西川社長、 三菱自動車の益子修会長(日産サイトより:編集部)

日産より小粒で、経営力も劣るルノーに飲み込まれることを嫌う社内の空気をバックに、西川社長は6月の株主総会で社長続投を勝ち取ろうと望んできました。ルノーが保有する日産の株は43%という圧倒的な比率です。経営統合にいくら反対したところで、6月の株主総会でルノーに勝てません。

西川氏は経営統合に応じないことで、社内の支持を集め、社長の座を守ってきました。「経営統合には応じる。社長は続投させてもらう」では、裏切り行為になります。西川氏はかつてゴーンの側近であり、「なぜもっとゴーンの暴走にブレーキをかけなかったのか」と批判されています。経営統合に追い込まれれば、その形態によっては、社長を辞任する道を選ぶでしょう。

社長の意思より株主総会

一つ気になるのは、両社間には提携合意書という取り決めがあるそうです。「日産が決める取締役人事にルノーは反対できない」が骨子されています。そのようなことができるのか。取締役の選任は会社ではなく、株主総会で決まるのが筋です。合意書の法的な位置づけで見解が分かれるかもしれません。

日産もルノーも業績が悪化しています。マクロン仏大統領としても、ここで日産の独自路線を認めたら、ルノーの業績にも、フランス政府(ルノー株を15%保有)の収入にも響いてきます。仏側から送りこまれたスナール氏(ルノー会長)が当初、日産との融和路線を唱えていたのに、ここへきて経営統合を強く主張しだしたのは、仏政府の意向なのでしょう。

世界の自動車産業は「100年に1度の大変革期にある」とされます。自動運転車、電気自動車の普及、自動運転システムの開発・導入、ネットと車のつながりが始まり、IT(情報技術)産業など異業種からの参入で、自動車産業は激烈な競争の世紀に入りつつあります。

両社とも独自路線は無理

日産は独自路線では生きられない。ルノーも独自路線では生きられない。ルノーが要求する3社の経営統合(ルノーによる経営支配)でも生きられない。「異業種とどのように融合、提携していくか」が最大の経営課題になっていきます。乗り遅れたら敗者になりかねません。

「ゴーン事件から見えたもの」と題した新聞の編集特集をみると、「司法取引の正当性」(元特捜部検事)、「保釈の運用見直し必要」(大学教授)、「経営の監視体制、整わず」(同)など、捜査方法、コーポレートガバナンス(企業統治)などに重点を置いています。

事件の基本的な位置づけがはっきりしてきましたから、これからは激動期を迎えた自動車産業のあり方を考えることが重要です。ゴーンの再保釈に際して、夫人との接触を禁止したのは、「国際的に問題になる」とかいう論評をみました。もっと大きな問題に焦点を合わせたい。

事件についていえば、
「ゴーン経営モラルの欠如は目に余る」
「経営不正の数々はまるで不正の博物館」
「仏政府もさすがに擁護できなくなった」
「最後まで争うだろうから、決着までに10年程度」「違法性の立証では激しくもめる」
「結局、ゴーンは社会的地位もカネも全てを失う」
「名経営者が異常な長期政権を敷くうちに、晩節を汚すというあまりにもよくある話」
となります。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。