金正恩氏の妹・金与正さんのロ朝首脳会談「欠席」

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は25日、ロシア極東ウラジオストックのルースキー島にある極東連邦大でロシアのプーチン大統領と首脳会談を開き、伝統的な親善関係の強化を確認した。共同コミュニケや声明文は公表されていないが、朝鮮半島の非核化と対北制裁の解除問題などを話し合った模様だ。

金正恩委員長とプーチン大統領(2019年4月25日、ウラジオストックで、クレムリンの公式サイトから)

ロシアのメディアによれば、ロシア側は北の非核化問題では停滞している6カ国協議の早期再開を主張。北朝鮮中央通信(KCNA)が26日報じたところによると、金正恩氏は非核化問題では「朝鮮半島の平和は米国の出方次第だ」と強調、2月末にハノイで開催された米朝首脳会談のように米国側が強硬姿勢を続ける限り、進展はあり得ないと警告したという。

金正恩氏にとってロシアのプーチン大統領との首脳会談は初めて。父親の故金正日総書記は2011年8月、メドベージェフ大統領(当時)と会談しているから、ロ朝首脳会談は8年ぶりの開催となった。

金正恩氏とプーチン大統領が首脳会談後に開かれた夕食会で笑顔を見せながら乾杯している写真が配信されてきた。首脳会談は予定の1時間の倍の2時間に及ぶなど、両者は突っ込んだ話し合いをしたようだ。金正恩氏は中国との関係だけではなく、ロシアとの関係をアピールすることで多角外交を示したわけだ。

北朝鮮専門家によると、金正恩氏は訪ロでは2つの目標があったという。一つは、中国に対して「わが国は中国だけではなく、ロシアとも関係が深い」ことを示すことで、中国側を牽制する一方、ロシア側には8000人と推定される北朝鮮労働者の滞留延長を要請することだった。

ちなみに、海外に働く北労働者総数は約6万人から6万5000人、ロシアや中国など約40カ国に派遣されている。労働者海外派遣ビジネスからの総収入は年間1億5000万ドルから2億3000万ドルと推定されている。労働職種は建設業、レストラン、鉱山、森林業、道路建設などが主だ(「金正恩氏は“現代の奴隷市場”支配人」2014年12月9日参考)。対北制裁では、北朝鮮の労働者の労働ビザ発給は禁止されている。貴重な外貨獲得源の海外労働者のビザ再発給をプーチン氏に要請することが金正恩氏の今回の訪ロの目標だったわけだ。

一方、外国首脳との会議では遅刻常習犯のプーチン氏は今回、ルースキー島の極東連邦大の会議場に先に到着し、金正恩氏を迎えた。プーチン氏にとっても朝鮮半島の非核化問題に関与することで、ロシアのプレゼンスを国際社会に示す機会となったわけだ。

ところで、金正恩氏の妹・金与正(党第1副部長)は今回の首脳会談には欠席した。金与正さんは3回開かれた南北首脳会談や2回の米朝首脳会談で常に金正恩氏の傍にいて会議の進行を見守る一方、休憩時に兄の金正恩氏のタバコに火をつけるなどてきぱきとした動きで兄を助けていた。その姿がウラジオストックでは見られなかった。首脳会談後に開かれた拡大会合では、北朝鮮からは李容浩外相、崔善姫第1外務次官が、ロシアからはラブロフ外相らが出席した。

金与正さんの欠席について、日韓メディアによると、第2回米朝首脳会談が不調に終わった責任が問われ、兄から処罰を受けたのではないかと推測されている。米朝首脳会談ではトランプ大統領が一方的に北側に最後通牒を突きつけ、席をたつなど、米国側のペースで進行し、制裁解除を期待していた金正恩氏を失望させた。そのため、帰国後、米朝首脳会談の準備をしてきた党幹部が追放され、米朝間の調停役を果たしてきた金英哲副委員長は「北朝鮮統一戦線部長」のポストを失った。

金与正さんの場合も「妹だといって特別扱いはできない。しばらくは自制しておけ」と金正恩氏に言われたというのだ。十分考えられるストーリーだ。

参考までに、北朝鮮事情通によると、金与正さん(30)はヒロポン中毒だという。メタンフェタミン類の覚せい剤で中毒性は強い。北朝鮮は国内には麻薬問題はないと豪語してきたが、実際は社会の隅々まで麻薬中毒が広がり、大きな社会問題となっている。特に、労働党幹部の家庭で麻薬中毒が広がり、党幹部の2世、3世が中毒になっているという。金与正さんもヒロポン中毒者だというのだ。

実兄・金正哲氏(37)は音楽好きでエリック・クランプトンの大ファン、政治には無関心。妹はヒロポン中毒、自分を裏切ろうとした叔父(張成沢)は処刑し、異母兄・正男氏を猛毒の神性剤で殺害した。金正恩氏を取り巻く親族関係者の事情はいずれも深刻だ。

金正恩氏は自身に不信を持つ側近たちを次々と処刑し、金王朝の堅持のために腐心してきたが、3代続いてきた世襲国家の終わりは独裁者の家庭周辺から既に始まっている。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月27日の記事に一部加筆。