いずも、F35の文句を言う前にメディアと野党がやるべきこと

清谷 信一

いずもの空母化とか、F35の墜落とかをうけて、にわかにメディアや野党が攻撃しています。

ですが、いずも(その前の16DDHも)、F-35の調達について、事前にまともな報道や国会で議論はなされたのでしょうか?
はっきり申し上げて、やっておりません。

F-35A(空自サイトより:編集部)

以下にぼくの過去書いた記事を幾つか紹介します。

文民統制の放棄!なぜ「空母」が生まれたか(東洋経済オンライン)

飛行甲板はオスプレイや米海兵隊などが採用した垂直離着陸が可能なF-35B戦闘機が離発着地に噴出する高温の排気ガスに耐えられる処理がされている。「いずも」が企画されたのはオスプレイの調達のはるか以前であることから、恐らくは米軍との共同作戦を想定して、このような処理をしたのだろう。

これは文民統制という意味でも大きな問題だ。問題なのは日本共産党や社会民主党のような左派政党まで含めて、政治家がこれにまったく無関心だとうことだ。「いずも」はもちろん、「ひゅうが」級導入に際して、国会では議論も起こらなかった。つまり「やった者勝ち」だった。

かつて16DDH「ひゅうが」の予算要求に際してはかなりの反発があると予想され、当時の石破茂防衛相は「あらゆる質問を想定し、回答を用意していたがまったく質問がなく拍子抜けした」と後に筆者に語っている。22DDHの予算要求に際して疑問を呈したメディアは筆者の知る限り「週刊金曜日」だけである。

技術的にみれば「いずも」級のソナーと給油機能を外して、飛行甲板にスキージャンプ台を装備すれば、F-35BのようなSTOL戦闘・攻撃機を12機+ヘリを数機ほど搭載する「軽空母」にすることは極めて容易だ。将来「いずも」級を改良するだけで、極めて容易に「空母」が手に入ることになる。海自には将来、空母を保有する野望があると勘ぐられても仕方ないだろう。

2008年に開催された横浜航空宇宙展で、海自の海上自衛隊幕僚監部防衛部の装備体系課長、内嶋修1等海佐(当時)は講演で、将来多目的空母でF-35のような固定翼機を運用するような構想を披露したこともある。

次期戦闘機(FX)に「ステルス」は不要だ(東洋経済オンライン)

F-35は開発途上の機体であり、多くのトラブルが発生している。仮に我が国が導入できるとしても早くても7~8年先のことになる。調達単価もまだわからないが、現状約130億円、調達機数削減も予定されており、さらに高くなる可能性が強い。

本来、FXの機種決定は今から5年程前に行い、09年度までの現中期防(中期防衛力整備計画)で7機を導入するはずだった。つまりF-35を採用するならば少なくとも12~15年以上の遅れとなる。となれば、そもそもFXが必要なかったという疑問さえ生じてくる。

FXはユーロファイターを採用すべきだ

我が国は戦後一貫して、防衛産業の振興と安全保障の観点から、戦闘機の生産、開発能力の保持に傾注してきた。まずFX定においてはこの政策を維持するのか、変更するのか、ということが大きな問題だった。

戦闘機の生産基盤の維持を是とするのであれば、F-22あるいは現在候補に挙がっている米英など9カ国が共同開発中のF-35の選択ははじめからあり得ない。今から6、7年前にはすんなりとFXの選定は済んで、今頃は既に最初の実戦部隊が編成されていたはずだ。

F-35は論外としても米国製の機体を採用する限り、これらの技術の移転はされない。また日本独自の改良を加えることは出来ないし、日本製のミサイルを使用するためにはそのミサイルの詳細な情報を米国側に開示する必要がある。我が国独自の改良も簡単には許可されない。

FX購入の代わりに、コンポーネントの輸出を(論座)

国内生産を前提とするのであれば、次期戦闘機(FX)で予定されている40~50機という調達機数は余りにも少ない。まともにコンポーネントの多くを国産化するライセンス生産を行うのであれば最低でも70~80機は必要だ。

コンポーネントを生産しない、単なるノックダウン(組み立て)であれば、主契約社はともかく、下請け企業にはろくに仕事が回ってこない。結局調達コストが上がる(恐らく約2倍程度)だけで、メリットはほとんどない。単にコストを押し上げるだけだ。

この程度の機数を国内で生産するのであればオフセットは必要条件である。そのためには武器禁輸を緩和する必要があった。昨年末に閣議決定された防衛大綱では武器禁輸は緩和される方向だった。ところが当時の菅直人総理大臣は土壇場でこれを覆した。

この程度の機数ならば、戦闘機の生産基盤をすっぱり諦めて輸入を選ぶべきだ。浮いた費用を既存のF-15やF-2などの戦闘機の近代化やAWACS(早期警戒管制機)や空中給油機の追加、あるいは人工衛星や偵察用UAV(無人航空機)などの導入に当てて、総合的に航空戦力の拡充を図るべきだ。

FXのユーロファイター採用は、米国に対する大きなカードになる(論座)

しかも国産案では双発(エンジンが2基)だった。単発機はエンジンが止まれば墜落か不時着する。ことに海上であれば当然、機体は全損となる。また搭乗員の生存率も低くなる。だが、双発ならば片方のエンジンが止まっても帰投ないし、最寄りの空港などに着陸できる。ゆえに艦載機は双発が多い。島国である我が国が戦争になった場合、空戦の多くは海上で行われることが想定される。その場合、双発戦闘機の方がより高い生存率が期待できる。

これは戦時だけの問題ではない。平時でも訓練における機体の損失率を下げることができる。近年の戦闘機は非常に高価であり、おいそれとは追加発注できない。この点からも損耗率を抑えることには大きな意味がある。

さらに我が国では人口が都市部に密集しており、空自基地近辺に住宅地が密集している。住宅地の上でエンジントラブルが起こった場合、双発機ならば不時着するにしても人家を避けたところまで機体を持っていく余裕があるが、単発機にはそれがない。

また双発機は機体に余裕があるため将来の近代化にも有利だ。F-2の調達数が大幅に削減されたの理由のひとつは将来の発展性の乏しさが挙げられている。双発機はエンジンが多くなる分、調達価格や維持費も高くなるが、このようなメリットがあるためにFSXは双発にすることが決定されたのた。F-4EJやF-15Jなどが採用されたときも同様の説明があった。

次期戦闘機(FX)の機種は公平な基準で選択しろ(論座)

実戦を経験したことがなく、また輸出の経験もない我が国にとっては、まさに必要不可欠な情報だ。
ところが先に述べたように米国からこのような情報の入手は不可能だ。
ユーロファイターを採用すれば、米国相手では金を積んでも出てこない、このような貴重な情報が手に入る。

これは戦闘機自主開発に極めて大きなアドバンテージとなる。対して米国製の機体を導入すれば、国内での仕事も技術移転も期待できず、我が国独自の開発能力も生産基盤も失われる。贔屓(ひいき)目にみても開発能力は大きく後退することになるだろう。

そのような状態で新戦闘機を開発しようとしても実戦的な戦闘機の開発は不可能だ。あとは米国から言い値で輸入するしかなくなる。また自国で整備も満足にできなくなり、稼働率も落ちるだろう。

F-35採用で防衛産業は崩壊する(論座)

F-35の採用が我が国の防衛産業崩壊の引き金になりかねない。防衛産業界には防衛省に対する不信感が広がっている。既に2003年から防衛省が把握しているだけで100社近くが防衛産業から消えているが、FX件が引き金になって防衛産業から撤退する企業が急増する可能性は低くない。

本来FX選定に先立って戦闘機生産基盤を維持するか否かを検討すべきだった。本命のF-22やF-35が採用されれば生産基盤が無くなることはわかっていた。早い段階で生産基盤の維持の断念を発表すれば、関連企業も諦めがつき、F-2の生産が続いているうちに事業転換を図ることができただろう。ところが防衛省の態度ははっきりせず。いままで決断を持ち越してきた。

「防衛省の考え方が見えないので会社の方針も立てられない。会社を生かすつもりなのか殺すつもりなのかこの際ハッキリして欲しい」(防衛省の「戦闘機の生産技術基盤の在り方に関する懇談会」の資料「戦闘機装備品メーカ(ママ)、ヒアリング結果」より)。この怨嗟の声が防衛関連企業、ことに中小下請け企業の本音だろう。

ざっと過去の記事を紹介ましたが、このような議論が記者クラブメディアや、国会で戦わされたでしょうか。

防衛は票にならないから勉強しない。外交安保委員会のポジションは持ち回りで専門家が育たない。
記者クラブも同様で軍事の専門記者は殆どおらず、まともな質問や取材を行わず、特に納税者のたちば
で防衛の問題を報道、解説してこなかった。

で、なにかスキャンダルや事件が起こると鐘や太鼓を叩いて大騒ぎをする。
とてもプロの所業とは思えません。

軍事に無関心な政治家は選ばない、まともな報道をしない新聞・テレビは読まない、見ないという選択も必要でしょう。

東洋経済オンラインで以下の記事を寄稿しました。
日本の防衛「戦車・火砲」の削減が不十分な理由 : 期限が示されていないものは計画ではない


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。