社内の人と酒は飲まないに越したことはない

書籍内の画像より引用

社内のイベントで上司が必ず口にする言葉に「無礼講」というものがあります。役職や年齢など、堅苦しい礼儀を抜きにして行う酒盛りのことを指しますが、部下は常識の範囲で気遣いをしなければなりません。

もしも、無礼講の本当の意味を知らなければ、それは大きなリスクになることを覚悟する必要があります。今回は、拙著波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)のなかから関連するエッセンスを紹介します。

たとえば「慰労会」の目的は何か。社員を本当に慰労する場と考えてはいけません。慰労会とは上司が自らの威厳や存在を示し、再確認する場です。上司は部下たちの様子を見ながら、「こいつは忠誠心がないから異動」「こいつは降格。給料も下げてやる」「こいつは見どころがあるから昇進させよう」など、さまざまな思惑を巡らせています。

私が、シンクタンクに勤務している頃、以下のような出来事がありました。S総研という国内大手のバンク系シンクタンクです。ある日、クライアントのN酒造から工場見学のオファーがありました。役職者を中心に派遣メンバーが決められ現地で合流しました。

担当役員である藤井常務(仮名)の年齢は50歳半ば。中堅大学を卒業し、新卒で入社、これまで営業畑を歩んできました。待ち合わせ場所に最後に登場したのが井上部長(仮名)でした。年齢は40歳、UCLAを卒業し、米国の政府系金融機関に就職、2年前に、ヘッドハンティングされて入社、社内でも次期取締役候補として将来を嘱望されていました。

藤井常務「何時だと思っているんだ!取締役になったつもりかね?」
井上部長「10時集合に間に合っています。何かご不満でしょうか?」
藤井常務「部長の分際で最後に合流するとは何事だ! けしからん奴だ!」
井上部長「そう言われても困ります」

井上部長の登場を境に藤井常務の表情が険しくなったのです。井上部長は、藤井常務がなぜ怒っているのかわかりません。じつは、藤井常務は井上部長の華々しいキャリアに嫉妬していたのです。上司の嫉妬ほどこわいものはありません。

工場見学が終わった後の宴会で、井上部長の運命を決定付ける修羅場が待っていました。藤井常務の「無礼講」のあいさつがあり、宴もたけなわで、カラオケ大会も終盤に差しかかっていました。藤井常務の十八番は石原裕次郎の「ブランデーグラス」でした。井上部長は、藤井常務に気を遣い「藤井常務!最後にビシッと決めてください」と一言。

藤井常務は「今日は飲みすぎて声が出ない。君が歌ったらどうかね。今日は無礼講だ!」と返しました。「それでは」と井上部長、おもむろにマイクをつかみ「ブランデーグラス」を歌い始めたのです。石原裕次郎ばりに低音ボイスでビブラートが効いた、まさに熱唱でした。周囲はマイナス10度に凍り付いていました。

翌月、井上部長はデータセンターに異動になりました。データセンターは資料室のようなもので端的に言えば左遷です。その後、井上部長にスポットライトが当たることはありませんでした。社内では「ブランデーグラス事件」として語り継がれることになります。

上司と飲みに行き、お酒が原因で評価を下げる人は少なくありません。社内でお酒を飲むことは基本的にお勧めしません。飲むのは会社以外にした方が無難だと申し上げておきます。

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※4月19日に『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)を上梓しました。