令和の目標に「がん患者に希望と笑顔を!」

平成から令和と移り変わる瞬間を私は静かに迎えた。

New England Journal of Medicine誌に「Anti-BCMA CAR T-Cell Therapy bb2121 in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma」というタイトルの論文が掲載された。新しい種類のCAR-T細胞療法の多発性骨髄腫に対する第1相試験の結果報告であった。標的となっている分子は、成熟したB細胞に選択的に作られている、B-cell maturation antigen (BCMA)という名の細胞表面タンパク質である。

少なくとも3種類の治療法を受けて、無効であったか、耐性となった33人の多発骨髄腫患者に対して、0.5億個、1.5億個、4.5億個、あるいは、8億個のBCMA-CATを発現しているT細胞を1回だけ注射したものだ。数億個のリンパ球というとかなり大きな数字に聞こえるが、Tリンパ球は血液1立方ミリメートルあたりおおよそ1000個程度なので、1ミリリットルで百万個、100ccで1億個となる。輸血で採血される量に含まれている数が、この治療で使われるリンパ球数に相当する。リンパ球は体外で増やすことができるので、この数のTリンパ球を患者さんから得るのは難しくはない。

0.5億個のCAR-T細胞の注射を受けたのは3人だけで、このうち1人だけが臨床的に効果を示した。1.5億細胞群8人では6人が効果を示した。4.5億個以上の22名では、21名で効果が認められ、全33名中、15名が完全寛解と判定された。4.5億細胞群では効果持続期間の中央値は7.7か月、8億細胞群では12.9か月と報告されていた。効果が継続している群では、注射されたCAR-T細胞が生き残っている(細胞が増えている)ことが確認されていた。

血液系のグレード3以上の副作用としては、好中球減少症(85%)、白血球減少症(58%)、貧血(45%)、血小板減少症(45%)がかなりの高頻度で認められた。急激ながん細胞死によって引き起こされる反応だと思われるが、標的となっているBCMAがわずかながら多くの種類の血液系の細胞で作られている影響で多くの血液細胞減少症が出現したのかもしれない。

オバマ政権が打ち出した「ムーンショット計画」は「がんで死なさない米国」を掲げ、「がんの治癒」をゴールとしたものだ。がんは、その気になれば、そして、しっかりとした戦略も持てば克服できるはずだ。日本でもムーンショット計画が立案されている。38万人もの日本人ががんで亡くなっており、私の身の回りで亡くなっていく方の死因の多くもがんだ。この状況を考えれば、がん克服は国として最も重要な課題のはずだ。

時代は令和となった。この新時代の目標として「がんで死なさない日本」があってもいいと強く願うばかりだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。