自殺動画をSNSにアップしないで欲しい理由

2019年05月05日 14:00

昨日(5月4日)、大阪の中心地大丸梅田店で飛びおり自殺があり、その様子の一部始終を動画で撮影し、SNSにアップする人達が多数いました。

もちろんそれらの動画配信に対して、「信じられない」「こんな動画をアップするな」という否定的な意見が圧倒的に多いのですが、中には「あんな人込みで自殺を図ったのだからSNSにアップされるのは本望では?」といった主旨の発言もみられます。

人の死に対してこれほど尊厳がなくなってしまった時代や、ネット社会に対しても驚きを禁じ得ませんが、そういった死生観だけでなく、別の意味でもこういった動画をアップしないで欲しい私の考えを書きたいと思います。

私は、依存症問題に関わっているので、多くの自殺に出会ってきました。一般の人の中には、身近な人の自殺に出会ったことがない人もいるかと思います。そしてそういう人達が、自殺の瞬間を動画に撮り、SNSにアップできてしまうのではないか?と思っています。

ここに2013年度に厚生労働省の科研費で行われた調査で「依存症と自殺との関連」について、当会の理事でもある精神科医の佐藤拓先生がまとめられた表があります。

自殺との関連

【出典】 (1)内閣府:自殺対策に関する意識調査(平成20年2月実施調査報告書) (2)厚生労働科学研究 いわゆるギャンブル依存症の実態と地域ケアの促進(平成20年度田中班報告書) (3)松本俊彦、小林櫻児、上條敦史、他物質使用障害 患者における自殺念慮と自殺企図の経験(精神医学51:109-117,2009) (4)川上憲人:わが国における自殺の現状と課題(保健医療科学52:254-260,2003) ※(1)~(3)は、自記式調査票による調査。  (4)は、構造化面接による調査。

ご覧になられて、どう思われるでしょうか。

そうです、依存症者と自殺率の高さに驚かれるのではないでしょうか。
依存症はうつ病よりも自殺率が高いと言われ、にもかかわらず今も依存症問題は自殺対策の傍流に追いやられています。

「死にたい」という思いにとらわれる自殺念慮は健常な人の4~5倍、実際に自殺未遂を企てた自殺企図になると、健常な人のなんと20~30倍にも及ぶのです。

そして実際に多くの仲間の自殺に出会ってきました。

依存症は別名「緩慢なる自殺」と呼ばれています。
このままいったら死ぬしかないと分かっている、けれども止め方がわからないので、死ぬしかないと自暴自棄になっていく状態です。

また日本の自殺者は、いまだ毎年2万5000人もおり、となるとそのご家族や友人といった近しい人達は、毎年10万人程度は大切な人を亡くした悲しみを味わっていることになります。自殺の問題で苦しんでいる人達は、この国では決してマイノリティではありません。死にたいと悩んでいる人達はもちろん、残された人達もまたいまだ苦しんでいます。

では何故こういった動画をアップしないで欲しいか。
まず第一に今、死にたいと思っている人達が、こういった動画を目にすることで、触発されてしまう危険性があります。
俗にいう「後追い自殺」です。私がそうでしたが、死にたい人間は死への誘惑と常に闘っています。それがこのような動画を見せられ「自分も一気に楽になりたい」と触発されてしまいます。

そして次に、自殺者の周りにいる残された人達のためです。
ここには二つのパターンがあって、一つには家族や恋人、親友といったごく身近にいた人達がいます。

自殺者の周囲にいた人達の悲しみや苦しみは、味わったことのない人に想像して貰うことは難しいかもしれませんが、家族らはみな「何故助けられなかったのか?」という罪悪感と、自責感情から逃れられなくなります。その怒りを自分にぶつけているうちに、今度は自分がうつ病や依存症を発症してしまったりします。

忘れることなど到底できませんが、罪悪感や自責感情からは、自殺遺族の自助グループやカウンセリング等の様々な支援に繋がり、ゆっくりゆっくりと少しずつ解放されていくことは可能です。

けれどもそういった「自分を赦す」作業は、実に辛い葛藤との闘いです。
「あの子は、あの人は亡くなったのに、助けられなかった自分が人生を楽しんではいけない」
「2度と人生で笑顔になってはいけない」
と、自分を罰することでなんとか受け入れがたい現実を受け入れているからです。
そういった努力の途上にある人達には、再び打ちのめすような動画を目にして欲しくありません。

そして第三には、助けようとした支援者達の悲しみです。
今回の自殺でも、警察官の説得が40分間も続き、あともう一歩で手が触れそうなところにまできていました。
けれどもそのわずかなところで、助けられず警察官はがっくりと肩を落としています。

この気持ち、目の前で仲間を失った私には痛いほどよくわかります。
はじめて仲間のご主人の死を経験してから、すでに10年がたとうとしていますが、あの時、本当にもう少しの所で助けられませんでした。

その後も、幾度か同じような衝撃を味わい、3年前にも打ちのめされる出来事がありました。

そしてその日から、私の中のどこかに「私のせいだ」「自分の力不足」と責める気持ちがあり、それはどうしてもいまだに消せることができません。

もちろんご遺族も仲間も「りこさんのせいじゃない」と皆言って下さるし、私自身もそう何度も言い聞かせようとしてきました。

でも、大げさでなくあの日から私の人生は一変し、大きな十字架を背負った気がしていて、その日から本当に1日も忘れたことなどないし、必ずすがるように祈りを捧げています。夜、眠れないと「自分責め」が止まらなくなるので、毎日寝落ちギリギリまで起きているのもそのためです。

よくこう言う事件があると「ご冥福をお祈りします」と皆さんおっしゃいますけど、私は、そんなことを言える気持ちになれたことがないです。もっと複雑な「私を許して」とか「ごめんなさい」とか、「どうか私を助けて」という気持ちになります。

そしてこういう助けられなかった経験をもち、それが私のように強烈に自分へのダメージとして残ってしまうタイプ、だからこそ私は依存症者なのだと思いますが、そういう支援者があの動画を見るとどうなるか?
自分が許せず、死にたくなります。

こんな自分の弱さを書くこと自体にすごく勇気がいりますが、人の死に対する尊厳はもちろん、自殺の連鎖や自殺防止の観点からも、安易に自殺の動画を録り、それをSNSで拡散することは止めて欲しいと願います。

最後に、こんな動画もご紹介します。
このMVの衝撃的なラスト。これが現実に起きている…それが今の日本です。
みなさんは何を感じられるでしょうか。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト

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田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表

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