エルサルバドル新政権で親米路線に回帰?台湾と国交回復は?

白石 和幸

中米のコスタリカ、パナマ、エルサルバドルでは、台湾から中国への結びつけを強め、中国の影響力が次第に増大。対照的に米国のそれは低下している。

ところが、昨年8月、台湾を蹴って中国と国交を結んだはずのエルサルバドルで今年2月に第3政党「国民のための大連合(GANA)」からナジブ・ブケレ(37)が大統領に選出。同国の外交に変化する可能性が生じている。

その証拠に、ブケレの大統領就任は6月1日に予定されているが、3月にブケレは米国を訪問して国務省の高官を始め、ジョン・ボルトン大統領補佐官とも会談した。

ブケレ氏とボルトン補佐官(ボルトン氏ツイッターより:編集部)

また、4月1日に行われた記者会見の席でも「中国から訪問の招待を受けているが、訪問する予定はない」と素気なく回答しているのである。また中国との国交を樹立させたサルバドル・サンチェス・セレン現大統領との職務引き渡しの為の会合も中断したことも明らかにした。理由は、「セレンは昨日と今日とで言うことが違うからだ」と述べた。そして、彼は政権に就いた暁には政権運営に透明性を持たせたいと表明している。(参照:elsalvador.com

ブケレの外交は米国を外交の軸に置く展開をしたいと望んでいるようだ。ワシントン訪問中にヘリテージ財団での演説では6月1日に大統領に就任してから米国との外交関係を変えることを表明し、エルサルバドルの経済の成長を図るために両国の商取引の活性化に努めることを表明した。

例えば2017年だと、両国の貿易取引は僅か55億ドル(6000億円)で、しかもそのバランスは8億3000万ドル(910億円)の米国の黒字となっている。特に、この10余年、左派の「ファラブンド・マルティ民族戦解放戦線(FWIN)」が政権を担ってからは米国との関係は悪化してきた。

演説の中でブケレが指摘したのは、エルサルバドルの輸出入の80%を米国に依存していることや、エルサルバドルの人口の3分の1は2007年以降、米国に移住してきたということだった。(参照:eldiario.es)つまり、ブケレとしては、これまでの政権が、エルサルバドルが米国に深く依存している事情を無視し、中国との関係強化に動いたことの軌道修正をしたいというわけだ。

ブケレが米国に強く要請しているのは米企業のエルサルバドルへの積極的な投資。それによってエルサルバドルの市民の生活事情を改善しようとしている。ただ、同国は政治家の汚職、若者が構成する暴力組織による過激な犯罪、経済低迷で職場の不足などの問題を抱えており、米国への移民者が年々増加してきた。(参照:ultimahora.svlaprensagrafica.com

ブケレがボルトン大統領補佐官と会談したあとに、ボルトンは「外国からの投資、安全面での改善、ベネズエラの暫定大統領グアイドーへの支援といったことへの両国の強力な友情を確認した」と述べたのである。

同じくワシントン訪問中に国務省デイビット・ヘイル補佐官とラテンアメリカとカリブ海担当のキンバリー・ブレイアー補佐官とも会見した際に、ブケレは台湾との外交関係を復活させるかということについてまだ決定していないことを伝え、また中国が世界で2番目の経済大国であることもブケレは認識していることにも言及したという。(eldiariodehoy.com

そうかといって、台湾との外交関係を復活させるのかという疑問にはブケレはまだ回答を避けている。しかし、現政権が台湾と国交を断絶させたことによって、エルサルバドルの主要輸出品目のひとつ砂糖の台湾への輸出ができなくなり、砂糖生産業者はそれを法的に訴えている。

両国の貿易協定によって、台湾から毎年8万トンのエルサルバドルの砂糖の買い付け枠をもらっていたが、それが現在無効にされているからである。これも現政府が急激に外交関係を変えたことに起因しているという。(参照:elsalvador.com