投票の秘密は守られているという迷信

2019年05月08日 06:00

「だれがだれに投票したかを秘密にする」というのが公職選挙の原則である。憲法第15条に「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。」とあり、投票の秘密を犯せば憲法違反になる。

視覚障害者が投票する際に投票所ではどのように対応しているのだろうか。方法は二つある。係員に点字で投票したいと申し出ると点字投票用の投票用紙が交付され、その用紙に点字器で記入するのが点字投票である。第二は代理投票。二人の補助者が指定され、視覚障害者がだれに投票したいか告げると、一人の補助者が候補者の氏名等を記入し、他の補助者がこれに立ち会う。通常、補助者はその投票所にいた公務員の中から選ばれる。

高知市選挙管理委員会サイトより

2017年の衆議院議員選挙では小選挙区総計で7261票が点字投票された。秋田県ではわずか40票、東京都でも923票に過ぎない。市町村単位ではほんの数票ずつという計算になるから、どの視覚障害者がだれに投票したか投開票事務担当者は知っている。

点字投票のうち291票が無効になった。無効率は4.0%。投票総数のうち無効票の割合は3.0%だから、点字投票は無効になる比率が高い。

代理投票の合計は103,726票。最低の香川県は644票で、最大の北海道は8,388票。投票を助けた補助者は、その視覚障害者がだれに投票したか知っている。それだけではない。間違いを避けるために補助者が大きな声で復唱するので投票所にいた人全員に聞かれてしまうと、友人は嘆いていた。

このように視覚障害者の投票では投票の秘密は守られていない。

障害者権利条約第29条「政治的及び公的活動への参加」は「他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障する」とあり、他の者の投票の秘密が守られているのであれば、視覚障害者の投票の秘密も守るのが原則である。この条項には「必要な場合には、障害者の要請に応じて、当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること。」という例外規定があるが、補助者が公務員から選択されるのでは例外規定にも反する。

視覚障害者の投票の秘密が守れない現行システムの改善を求める判決を英国の裁判所が出したと、The Guardianが伝えている。投票用紙の上にTactile Voting Deviceという器械を載せ、投票したい候補者の欄でTVDを押して×印を付けるというのが英国での投票方法である。隣に立つ補助者が投票用紙上の候補者欄を順番に読み上げるという援助方法は投票の秘密を確保していないと、裁判長は判断した。

この裁判官にはわが国の代理投票は論外だろう。わが国では、憲法が求める通り、投票の秘密が守られているというのが迷信である。それもあって、点字投票か代理投票で投票した人の全投票者数に対する割合は0.2%と、人口に占める視覚障害者の割合よりも小さい。視覚障害者は投票に出向いていない。

カナダ・トロントに本拠を置くWorld Blind Unionは、障害者権利条約第29条を参照したうえで、2014年に次のような勧告を発表している

  • 選挙委員会は投票システムの設計と実装について視覚障害者団体に相談すること
  • それによって、すべての選挙について、全ての投票所で投票できるシステムを実現すること
  • 投票システムが実現できない間は、視覚障害者が代理投票の補助者を指定できるようにすること
  • 視覚障害者の投票について理解するように投開票事務担当者を教育すること
  • 選挙運動のすべてと投票方法に関する情報に視覚障害者がアクセスできるようにすること

わが国も視覚障害者団体に相談して投票システムを再設計しなければならない。

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