「不動産投資にフラット35不正利用」融資不正がもたらすものとは?

2019年05月09日 06:00

また投資用不動産関連の融資について不正行為があったようだ。

複数のメディアが伝えるところによると、都内でマンション販売を手掛ける会社の従業員が顧客と申し合わせ、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定金利型住宅ローン「フラット35」を不正に利用し、その融資金を自宅ではなく投資用不動産の購入資金に充てていたという。

写真AC:編集部

一般的に、金融機関では住宅ローンを他の目的、つまり自宅購入以外で利用することを禁止している。また、住宅ローンの完済前に、その自宅を賃貸用に貸し出すことも原則禁止しており、金融機関の承諾なしにそのようなことをすれば住宅ローン残額の一括返済を求められることもあるのだ。

今のところまだ「疑い」の段階だが、国土交通省の早急な対応を見ると実際に不正行為があった可能性が非常に高い。石井啓一国土交通相は7日の大臣会見で記者の質問に答え、「フラット35」が不動産投資目的に不正に使われた疑いがあるとして、機構に実態解明を指示したことを明らかにした。(石井大臣会見要旨

シェアハウスやアパート等の取引に不適切な融資があったとして、関係不動産業者の営業手法や一部の金融機関の融資姿勢などについて批判が集まったことは記憶に新しいが、今回の「手口」は一連の事案とは根本的にその本質が違っている。

これまでの投資用不動産関連の不適切融資では、主に事業者である不動産業者が、書類の改ざんや無理な賃貸経営計画(サブリース契約など)の提案等によって金融機関の審査を不正に通し、融資が引き出された。

投資の当事者責任や銀行の融資姿勢についてなど様々な意見があることは承知しているが、実害を受けたのは間違いなく投資家と銀行である。

今回のフラット35に対する不正行為について、実際に不正な融資利用を主導した不動産業者の責任が大きいのは間違いないが、今回は融資利用者の責任も大きく問われることになるだろう。

いくら不動産業者の甘言があったとしても、融資利用者の明確な意思がなければその融資対象の住宅を「自宅にしないで貸し出す」という結果は生まれない。

つまり今回の不正は、不動産業者(事業者)と融資利用者(消費者)が共同して、「明確な意思」をもって成された行為なのだ。

今回の不正を生んだ背景には、フラット35に対する誤解や認識の甘さがあることも否定はできない。

以下は、フラット35の取り扱い累積№1を公言している住宅ローン専門金融機関のアルヒ株式会社(本社:東京都港区)の子会社であるアルヒマーケティング株式会社(本社:東京都港区)が運営する「ARUHIマガジン」に掲載されている記事中から一部抜粋したものだが、この文面を一般的な感覚として見た場合、どう感じるだろうか。

(前略)【フラット35】では、住所変更届を出すだけで転居して賃貸に出すことができるので、家を買った後、収入が減ってローンの返済が難しくなった場合には、収入が回復するまでの間、自宅を賃貸し実家などに身を寄せて、その賃料収入により返済を継続することも可能となっています。あわせて覚えておきたいですね。ただし、何度も申し上げますが、初めから「賃貸することを目的」にローンを組むことはできませんのでご注意ください。
(2017年2月15日 ARUHIマガジン「住宅ローンを組んで家を買った場合に、賃貸に出すことはできるの?」より)

これを見ると確かに、「初めから『賃貸することを目的』にローンを組むことはできません」と明言している。だが、見方によれば、フラット35が他の住宅ローンより「賃貸に出す」ことへのハードルが低いと感じる人もいるのではないだろうか。

上記の記事が一連の不正を誘発したとは言わないが、不正を主導した不動産業者がこの仕組みを都合よく解釈し、それを利用して投資客を勧誘した可能性は否定できない。

自分が寝ている間も常に稼ぎ続けてくれる「不動産投資」は確かに魅力的だ。ただし、正しい知識と最低限のモラルがないと大きなリスクが伴うことも忘れてはならない。

今回の不正行為がもたらすものは、大きく三つある。一つめは不正利用者に対して、金融機関が貸付金の一括返済を求めたり訴訟を提起されたりすること。二つめは主導した不動産業者へ刑事・民事での責任追及。そしてもっとも影響が心配される三つめは、「フラット35の融資審査の厳格化」だ。

不正行為を質すための厳格化ならもちろん必要だが、これまで多くの金融機関がアパートローンから一斉に手を引いたような「自主規制的貸し渋り」の状況にフラット35が陥ってしまうなら、今回の不正行為が招く結果はあまりに大きい。

平成の終りにアパートローンが使いづらくなったが、令和の初めには長期固定金利型住宅ローンの代表であるフラット35も使いづらくなるのだろうか。


高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。

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