日本の労働生産性ってどうして低いの?と思った時に読む話

城 繁幸

今週のメルマガ前半部の紹介です。
働き方改革では、日本の低すぎる労働生産性の向上も目標の一つとして掲げられています。まあ昔から有名な話ですが、おかげでようやくこの問題もクローズアップされることが増えたように思いますね。

写真AC:編集部

【参考リンク】本気で考える、日本の労働生産性はなぜ万年ビリなのか?

果たして政府の進める働き方改革で労働生産性は上がるんでしょうか。そもそも、なぜ日本人の労働生産性は主要先進国中ずっと最下位だったんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。

「効率的に働いたら負け」という賃金制度

たびたび報じられているように、日本の労働生産性はお世辞にも高いとは言えません。

2017年の日本の時間当たり労働生産性は、47.5ドル(4,733円/購買力平価
(PPP)換算)。順位はOECD加盟36カ国中20位だった。前年(20位)と比較する
と、順位に変動はなかった。(「労働生産性の国際比較 2018」より)

そうなってしまう事情は「年功序列で出世した経営者が優秀じゃないから」「終身雇用ゆえに仕事してるフリしている中高年がいっぱいいるから」等色々考えられますが、日本の特殊な人事・賃金制度も大きな原因だと筆者は考えています。

たとえば、1時間に5000円分の付加価値を生み出しているホワイトカラー職がいたとします。彼の生産性を上げるには、創意工夫したりスキルアップすることで付加価値を高める努力が必要です。分子を増やすわけですね。

でも、求められる役割の明確な職務給ならともかく、業務範囲の曖昧な職能給でそこまで前向きになれる人はあまりいないんじゃないでしょうか。人というものは明確なミッションがあってこそ、それに向けて努力できる生き物だからです。

実際「部長、僕は頑張って〇〇の業務ができるようになったんで来季は2割賃上げしてください」みたいに会社と年俸交渉する人なんて日本企業にはまずいないですね(そもそも年功給メインなので上司も困るはず)。これは日本人のやる気云々ではなく、賃金システムがそういう状況をまったく想定していないということによります。

では、分母の方の労働時間を減らすアプローチはどうでしょう。同じ1時間5000円の付加価値をキープしつつ、効率的に働くことで労働時間を減らせれば1時間あたりの労働生産性は上げられるはず。

でも日本の労働組合は頑なにホワイトカラー職であっても時給で支払うことを要求してきました。高度プロフェッショナル制度にしても条件つけすぎてほぼ骨抜き状態です。効率化して生産性を上げてしまえば、それは本人の賃金カットに直結するわけです。

「今期は頑張って効率的に働いてくれたから、君にはボーナスも昇給も弾もう」とマネジメントでカバーする管理職もいないではないですが、全体としては「残業代減らされるのは勘弁して」というサラリーマンが少なくないはず。

【参考リンク】残業削減の取り組みで「収入が減った」が3割

これもフォローしておくと、別に日本人がセコイとかいうつもりはなくて、もともと労働時間に成果が比例しないホワイトカラーは最初から一定の残業を見越して基本給が低く抑えられているので、残業して取り戻さないと生活できない状態になっているからですね。

まとめると、高い付加価値に対して報いる仕組みがなく、効率的に働いたらむしろ損をしてしまうルールになっているため、なかなかホワイトカラーの生産性は上がらないということです。

よく生産性の話になると“国民性”を持ち出す人がいますが、筆者は国民性はあまり関係ないように思います。というのも、日本企業で働く外国人から、よくこんな話を聞くからです。

「日本の大手企業に転職してからは出来るだけ仕事をゆっくりやって締め切り間近に終えるようにしています。早く終わらせると仕事の遅い同僚の仕事を手伝わされるからです。手伝っても彼の給料をこっちに回してもらえるわけではないので」

「職場の同僚がみんな残業しているので、自分も月50時間は残業をつけるようにしています。そうしないと自分だけ低賃金になるためです」

筆者は日本人が非効率だったりセコいとは思いません。でも日本人がそういう風に行動してしまうのなら、そういう風にふるまわせている構造的な要因にこそ目を向けるべきでしょう。

以降、
なぜ昔はこれで世界と闘えたのか
働き方改革は成功するか

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2019年5月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。