新入社員は「任せて、応援し、振り返らせる」支援で、自己成長力を育てよう --- 前川 孝雄

新入社員が躓きやすい背景・状況を概観した前編を受けて、後編では、新入社員に対するリテンションマネジメント(離職防止と定着化施策)の手法を考えていきます。新入社員にとって「自ら成長できる職場・仕事」とはどのようなものか、そのポイントから押さえていくことにしましょう。

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異質なものとの出会いを通じて人は育つ:「絆と希望」論

前編では、新入社員には自分が成長することへの欲求・関心が高いことに触れました。では、人が職場・仕事を通して成長するのは、どのような時や場面からなのでしょうか。私は、職場・仕事で出会う「多様な人と出来事」のなかで異質なものとぶつかり、格闘し学ぶプロセスそのものからだと考えています。私はこれを「絆と希望」論と名付け、成長を目指す人自身による実践を奨励しています。

即ち、人は新しい職場や仕事のもとで新たな人・仕事と出会いますが、それは自分のこれまでの価値観や体験とは異質なものです。これらに関心を持ち積極的に受け入れ、そこから学ぼうとすることで、相手との「絆」が生まれます。

その踏み出す行動によって、未知の情報や価値観や体験に触れることができ、自分の経験と視野が広がり、新たな「希望」を見出すことができます。そしてその「希望」に向かって次なるチャレンジや学びへとさらに一歩を踏み出すと、また新たな人や仕事との出会い、「絆」が生まれていきます。

このように、「絆と希望」を次々と紡いでいくことによって、人は何時いくつになっても限りなく学び成長していくことができるのです。

仕事の喜びや醍醐味を感じられる支援を目指す

そこで、新入社員自らが「職場・仕事での異質との出会いと、そこでの格闘と学びが、自分の成長の糧になる」とマインドセットできることが望ましい状態です。異質との出会いをネガティブに捉えてしまうと、「違和感」「無駄」「ストレス」でしかありませんが、ポジティブに捉えられれば「自分が考え、挑戦し、成長できる題材・機会が得られた」と感じられるはずです。

けれども、このマインドセットは「外から押し付ける」ことではできません。新入社員自身が自らそう感じ、考えられるような経験を経ることによって身に着くものです。新入社員は、就職活動などで得られた一面的な情報から会社や仕事を想像し、期待し、これに対してリアリティショックを受けますが、実際の働く喜びや醍醐味を体感しているわけではありません。

そこで新入社員に「働きがい」と「成長感」をいかに実感させられるかが、組織側・上司側の腕の見せ所です。以下、新入社員のやる気と成長意欲を引き出す支援方法を見ていきましょう。

まずは「傾聴」から:「信じて期待する」支援

上司・先輩は、まず相手にアドバイスをするのではなく、「傾聴」の姿勢で本人の不安やギャップをよく聴きとることが大切です。前編で見たとおり、新入社員はコミュニケーションギャップやリアリティショックからくる疑問や不安を抱きがちです。けれどもそれらを自分から上司・先輩に話すことはなかなかできないものです。

したがって、定期的なミーティングなどの機会に、または改めて傾聴面談の場を設けて、できるだけ丁寧に新入社員の率直な疑問や悩みを聴く機会を設けることが大事です。傾聴の目的は、相手の素直な気持ちや考えを「そうだったのか」と共感的に受け止め、理解に努めることです。それによって相手には「話を聞いてもらえた安心感」が得られ、また疑問や悩みを相談できるという信頼感を生むことができます。

但し、傾聴による「共感」「理解」は「同調」「合意」とは違いますから、上司・先輩が自分の信念や考えを曲げる必要はありません。違いを認めるということです。

ただ、新入社員の疑問や違和感の中には、時に組織・上司側が反省し改めるべき課題もありますから、謙虚に聴く姿勢が大事です。傾聴によって相手をありのままに受け入れることは、相手に関心を示し近づく姿勢を表すもので、相手の成長の可能性を「信じて期待する支援」の第一歩です。

また、新入社員と世代の離れた上司ではやや距離感があり、直接、頻繁なコミュニケーションが取りにくい体制ならば、世代・立場が近いメンターやOJTリーダーを配置するなど、組織・人事側の配慮も大切です。

仕事の目的を共有し、やり方は工夫させる:「任せて、応援する」支援

「傾聴」によって、新入社員の気持ちや状況が把握できたところで、新入社員が仕事を通して自ら学び成長できるように、仕事を「任せ、応援し、振り返らせる」支援が大切です。新入社員の仕事は最初は「与えられたもの」ですが、徐々に本人の主体性・自律性を引き出し「仕事の主人公」になれるように支援するのです。

仕事を任せるためには、仕事の目的・意味をよく説明し、質問を受け、しっかりと話し合い、共有します。仕事の目的とは組織内での前年比や前例を意識する「内向き後ろ向き」な業績目標ではありません。「顧客のため、社会のため」など「外向き前向き」に何を目指しているのかが目的であり、新入社員に腹落ちしてもらうまで仕事の意義・ビジョンについて対話することが大事です。

また、仕事の基本部分は実際にやって見せたり、やらせてみてアドバイスをすることもよいでしょう。その上で仕事を任せますが、その具体的な進め方・やり方は本人に創意工夫をさせます。仕事の目的に照らして、どう行うことがより効果的か自ら考えさせるのです。その際に、本人の能力に合わせた「小さな成功体験」の階段を一段ずつ登れるように、仕事の設計をアドバイスすることも大切です。

そして、一度任せた仕事は、できるだけ本人が自力でやり切れるように応援役に回ります。最初は頻繁にフォローしないと覚束ないかもしれませんが、徐々に自走できるよう、「補助輪」を外していく感覚で練習を見守ります。こうして、自分で仕事を創意工夫し達成できた体験が、本人が自ら「異質」から学ぼうとし、「絆と希望」を紡いでいく意欲と力になっていくのです。

失敗と成功から学ぶ大切さ:「振り返らせ、成長させる」支援

仕事の結果・成果が出たならば、本人にそのプロセスと評価について振り返らせ、十分に内省させます。特に仕事に課題が残った場合や失敗した場合には、原因を考えさせ、整理して次回への教訓へと活かすよう促します。

ここで気をつけたいことは「失敗は最大の学習材料」だと位置づけて、失敗自体を恐れてチャレンジする意欲を失わせないことです。大事なことは失敗をしないことではなく、失敗からしっかり学び二度と繰り返さず、次の成功に繋げられるよう工夫し実行することです。

一方、成功体験についてもその要因を十分に内省させます。上司・先輩のアドバイスや支援があった場合や、ビギナーズラックがあったとしても、そのプロセスを自覚し学習し、次回の確実な成功とさらに向上を目指すチャレンジの準備に活かすことが大切です。

以上のプロセスは、新入社員の側からは仕事を「任され」「やり遂げ」「振り返り」「さらに向上をめざす」サイクルを回すものです。これを次第に自分自身の手で高速回転させられるようになることで、「自ら仕事・役割を創り出し、周囲(上下左右)を巻き込み、成果・結果を出し、自ら振り返り、学び成長する力」を発揮できる「自律型人材」への成長へとつながるのです。

「善き仕事」を早めに体験・体感させる

上記の一連の支援は、OJTの基本として日常的に継続して進めていくことが大切です。しかし、その一方で、新入社員には「善き仕事」「この会社で得られる仕事の醍醐味」を早期に、直接体験・体感させることも大事です。

前編で見たとおり、今の若手世代は、「昭和~平成中盤入社」の上司世代のような「今の辛抱と努力がやがて成功につながり、それが将来の幸せを保証する」という人生観・キャリア観は持ち合わせていません。むしろ、「今の努力が、即ち幸せと成功に直結していると実感できること」を求めています。

「それは性急で短絡的」と思われるかもしれませんが、前述のように「将来への保障がない社会・会社で働き、自分の力で自分のキャリアを開拓する必要がある」若手世代にとっては切実な感覚であり、むしろ「健全な欲求」とも言えるのです。

したがって、早いうちから、最も仕事の手応えが実感できる現場へと同行させ体験させたり、日々何気にやりすごしてしまう仕事についても先輩たちが感じている醍醐味を言葉にして伝えたり、究極は花形サービスやヒット商品が生まれた瞬間に立ち会わせてその高揚感に触れさせるなど、「働きがい」を体感させることが大切なのです。

「百聞は一見に如かず」で、新入社員がその体験から、会社の目的やチームが生み出す仕事の価値に改めて共感し、「自分もそうした仕事を成し遂げたい」「そんな先輩の後を追いたい」「この職場で働く誇りややりがいを創り出し、成長していきたい」と思えるように支援していくのです。

新入社員のリテンションマネジメントを、小手先の施策・対応だけで成功させるのは難しいことです。また、賃金や労働条件・福利厚生といった「衛生要因」だけでモチベーションを維持・向上し続けることも困難です。

新入社員がその職場で「働きがい」を持ちながら成長できると確信・実感できる「動機づけ要因」(仕事の内容、やりがい、上司・先輩からの承認や支援)に踏み込んだ条件整備を行うことが、リテンションマネジメントの王道であると理解することです。それは、経営者、人事部署、管理職・上司層など企業・組織が一体となって「人が育つ現場」を創りあげていくことに他ならないのです。

(人事・教育研修担当者のためのオンラインマガジン「人材育成ジャーナル」より)

前川 孝雄  FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師、働きがい創造研究所代表取締役会長
リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志にFeelWorks設立し、「人が育つ現場」づくりを支援。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』他多数。