それでも終身雇用は続く、少なくとも私の場合は… --- 井上 孝之

2019年05月20日 06:00

城繁幸さんが元気である。それは経団連会長で日立会長の中西氏に続いてトヨタの豊田社長も城氏の持論である終身雇用の終わりを示唆して、さらにそれに続く会社も出てきているからです。

13日の日本自動車工業会の記者会見で、「終身雇用守っていくのは難しい」と発言したトヨタ自動車の豊田章男社長(NHKニュースより:編集部)

しかし、日本の大手企業に勤める私は終身雇用&年功序列賃金の中にどっぷりと浸っていて、現状の最も確率の高い予測では定年まで終身雇用のまま逃げ切れそうです(現時点の需要予測では、あと10年ぐらいは食いつなげる仕事はありそうです)。この違いは何から生じるのでしょうか?

私はバブル絶頂期にその業界ではトップクラスにカウントされる技術系企業に就職しました。その当時、繁忙を極めた私の業界では、「人間ならだれでもいい」という感じで人をかき集めていて、私もそのようにしてかき集められたうちの一人です。

私の会社はバブルが崩壊した後は人を取らなくなったので、バブル期に大量採用された人たちで構成される会社内における団塊の世代の一員となりました。

意識高い系の私は以前から城繁幸さんのブログはよく読んでいましたし、どうみても社内のいびつな年齢構成を見れば、「自分は50代になれば、肩たたきに遭うし、もしかしたら追い出し部屋に配属させられるかもしれない」と思って生きてきましたが、実際に50代になってみるとそのようにはなりませんでした。なぜでしょうか?

それは人手不足の波の方が先に来てしまったからです。

私の会社では、下手に人材を切ってしまうと、必要な時に人を採用することができなくなってしまったので、今いる人材を活用して生き延びるという方針しかなくなってしまいました。

私が思うに、終身雇用を終わらせたい会社は、収益力が低くて雇用を維持できない「底辺系」と、不要な人材を切っても必要な時に必要な人材をヘッドハンティングできる「トップ系」、人手が必要なときとそうでないときの差が激しい「荒波系」だけで、私の会社のような「細く長く仕事がある系&若者に人気がない系」では、今いる社員に「ずっといてください」というよりほかないように思います。私の会社に「ずっといていい」ということ以外に魅力があるとは思えません。

漏れ聞こえてくるところによれば、私の会社では「10年後にバブル入社組が大量定年するときに備えて、人材が足りなくなることに対してどのように対応するのか」を検討する極秘プロジェクトが発足して、月に一回、本社に関係者が集まってヒソヒソやっているようです。肩たたきを恐れていたのに、気が付けば「いなくなったときに備えて対策を講じる必要のある」貴重な人材になっていました。

出身大学のリクルーターをやっている同僚によると、「10年後に備えて、採用枠を広げようとしても、拡大枠で採用する人のSPIテストの点数はガクンと落ちるので採用基準に達しない。優秀な人だけを採用して、あとは今いる社員を有効活用するという方針にならざるを得ない」と言っておりました。少子化で「若者が減る」ということは、「優秀な若者が減る」ということなので、「地頭的にはイマイチでも経験を積んだ高齢者をどのように有効活用していくのか」が企業戦略上、重要な課題になっています。

ちなみに、「お荷物」と思われているバブル入社組ではありますが、以下のような長所はあると思っています。

①フィルターは通っている

本当に無能な奴は僻地か閑職に飛ばされています。また、普通の社員も仕事を割り当たられるときは、得意不得意を完全に把握されたうえで割り当てられるので、仕事をやらせてみて「ハズレ」になることはほとんどありません。

②効率的である

ずっと前から同じメンバーで仕事をしているので、誰に何を頼めば、いつ頃、どのくらいのクオリティのリターンがあるかを把握しながら仕事をしています。それに、「何年か前にやったあんな感じ」みたいな説明で話が通じます。その代わり、新しいメンバーによってもたらされる新たな発想というものはありません。

③手が動く

昔、私が入社した頃にはまだいた「部下に仕事を命じることはできるけど、自分で手を動かすことはできない人」というのはいません。なぜなら、みんな、今でも「若手(雑用をやらせる人という意味)」扱いだからです。

④問題解決能力が高い

どこの部署にも同年代の社員がいて、困ったときに相談できる人が多くいるので、問題が起こったときの解決能力は意外と高いです。地頭のいい若い社員が「誰に聞いていいか分かりません」と言ってくると、「仕方がねーなー、俺が代わりに聞いてやるよ」と言って優位性を示すことができます。

あと、本稿では論じることができませんでしたが、ニッチな分野を専門とする技術者の処遇については、よく考える必要があると思っています。彼らには「その仕事でずっと雇用を続けること」を保証しなければ、怖くてニッチな分野の専門家になろうとは思いません。「一つの技術分野を極めれば、(その技術分野を極めるために習得した知見が他の分野でも役立つので)他の分野でも活躍できるようになる」ということをいう人もいますが、そうならなかった人を私は大勢見てきています。日本が技術大国の一角として居続けることができているのは、「終身雇用を保証しているから」だと思っています。

トヨタ自動車でギアの摩擦を減らすような地味な研究をしている人は、将来、「電気自動車の時代にギアは必要ない」と言われて会社を放り出されることを分かっていても、ギアの摩擦を減らす研究に専念し続けることができるのでしょうか? 社長は「あなたの雇用を保証したくない」と言っていますよ。(自動車は専門ではないので、いい例えになっているかどうかは分かりません・・・)

最後に・・・

先日、職場で新入社員にどのような経験をさせていくかということで議論しました。50代の人たちが「俺の場合はああだった、こうだった」と言いながら、「20代には***を経験させて、30代には※※※させて、・・・」みたいな話で盛り上がったわけですが、誰も「終身雇用の時代じゃないんだから、彼らがずっと会社にいる保証はない」という趣旨の発言をした人は誰もいませんでした。みんな彼らがずっと会社に居続けると信じています・・・。

井上 孝之
私の会社の社風は「ぬるい」で、このまま熱水も冷水も浴びることなくサラリーマン人生をフィニッシュできるかどうかが最大関心事の技術系サラリーマン

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑