英国との離脱交渉は無駄でなかった:欧州議会選、極右勢力躍進?

2019年05月19日 11:30

欧州議会選挙(任期5年)が今月23日~26日の間、加盟国28カ国で実施される。ブレグジット(欧州連合離脱)で揺れてきた英国も議会選に参加が決定した。欧州議会選(定数751)の焦点は、2015年の難民殺到以来、反難民・移民政策を訴え躍進してきた欧州懐疑派の極右政党やポピュリズム(大衆迎合主義)政党がどれだけ議席を獲得するか、伝統的な「欧州人民党グループ」(EPP)と「社会民主進歩同盟グループ」(S&D)の2大会派の巻き返しはどうか、の2点だ。

フランスの「国民連合」党首マリーヌ・ルペン党首(2019年5月8日、戦勝記念日にて、国民連合の公式サイトから)

ウィーンの世論調査機関が実施した最新調査によると、EPPが171議席(前回216議席)で会派としてトップを維持、それを追って第2の会派S&D144議席(186議席)と、両会派とも議席を減らし、両会派で議会過半数を占めることは難しい情勢だ。一方、極右派「国家と自由の欧州」(ENL)は72議席と36議席増、そしてリベラル派政党「欧州自由民主同盟グループ」(ALDE)が103議席で35議席を上乗せることが予想されている。

参考までに、最後の欧州議会選に臨む英国では23日、選挙が実施される。英国の定数は73議席だ。

欧州議会選の台風の目は、欧州各国で台頭してきた極右政党だ。イタリアのサルヴィー二副首相が率いる「同盟」、フランスのマリーヌ・ルペン党首率いる「国民連合」(RN)、オーストリアの「自由党」、ハンガリーのオルバン首相の「フィデス」、4月下旬に実施されたスペイン総選挙で24議席を獲得して初めて国政に進出した「ボックス」、ドイツの反移民、外国人排斥を進める「ドイツのための選択肢」(AfD)などの政党だ。

そのほか、北欧でも極右政党は躍進してきた。スウェーデンで昨年9月の総選挙で第3党に躍進した「スウェーデン民主党」、今年4月のフィンランド総選挙で第2党になったフィン人党などが控えている。極右政党が欧州議会選後、統一会派で結集すれば、欧州議会での発言力は拡大する。複数の世論調査によると、ENLが議会の3分の1を占める可能性があるという。

例えば、ハンガリーの「フィデス」が躍進し、同党がEPPからENLに会派を変えれば、今年10月末に退くユンケル欧州委員会委員長の後継者選挙で最有力候補者、EPPに所属する「独キリスト教社会同盟」(CSU)のヴェーバー氏は苦戦を余儀なくされるだろう。

興味深い事実は、ブリュッセルはここ数年、欧州連合(EU)離脱を決定した英国との離脱交渉に多くの時間を投入してきたが、その苦労は無駄ではなかったのだ。EU離脱交渉が困難な道であり、国内の統合を揺るがす問題であることをEUの国民は英国の現状から学んできたのだ。英国のブレグジットは生きた教本となった。

英国とEU間の離脱交渉は難航した。加盟国の離脱が初体験だったからだけではない。英国は既成の利権確保のため最大限のエゴイストとなる一方、ブリュッセルは脱退する加盟国に最大限の痛みを与えるサディストとして戦ってきたからだ。

EU内には主権国家への回帰を主張し、「自国ファースト」を標榜するハンガリーやポーランドといった加盟国が少なくない。加盟国内の極右政党や民族主義政党が「EUに加盟するメリットはない」と主張し、“英国に続け”と国民を煽る事態になれば大変だ。ブリュッセルはその危機を回避するために、英国との離脱交渉では可能な限り離脱に伴う痛みを英国に与えようとしてきたのだ。その結果、2015年の難民殺到に直面し、反難民・移民の声は依然強いが、「EU離脱」の声は弱まってきたのだ。

例えば、RNのルペン党首は先月15日、欧州議会選挙用の公約プログラムを発表し、欧州委員会に権力が集中する「欧州連邦制」から脱皮して「国家の集合体としての欧州」をめざすことを強調したが、同党首がこれまで主張してきた「EU離脱・ユーロ脱退」路線は引っ込めている。

同じように、オーストリアの自由党ももはや「EU離脱」を口に出さない。「離脱」の代わりに「改革」という言葉が飛び出してきた。英国民の現状をテレビで見てきた国民に離脱を訴えたならば、有権者が懸念するからだ。だから、「EU離脱」から「国民に親しまれるEU」というモットーを掲げる極右政党も出てきたわけだ。

ブリュッセルが恐れてきた「EU離脱」のドミノ現象は避けられそうだが、移民問題は大きなテーマとして残されている。極右政党が「EU離脱」というカードを抑え、反移民に集中してきたのは当然の流れだ。

いずれにしても、極右政党が躍進し、議会の3分の1を越えた場合、欧州議会の運営は難しくなる。それを避けるために2大会派の「欧州人民党」と「社会民主進歩同盟」に所属する政党の奮闘が期待されているわけだが、現状は厳しい。例えば、ドイツの社会民主党(SPD)やオーストリアの社民党は総選挙を含む各種の選挙で得票率を減らしてきた。国民は“労働者の味方”を標榜してきた社民党に失望する一方、キリスト教精神を重視してきた欧州キリスト教民主系政党は教会の腐敗や社会の世俗化もあって、その精神的支柱を失いつつある。

欧州の極右政党の躍進は欧州の社民党とキリスト教民主党の2大の既成政党の不甲斐なさによる当然の結果だろう。ただし、極右政党の進出が欧州の統合を阻害するか、それとも新たな欧州再統合の動きが生まれてくるか、ここしばらく注視していかなければならない。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月18日の記事に一部加筆。

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