車両暴走事故はなぜ起きる?段差乗り越え時の挙動とトルクセッティング --- 水野 信夫

寄稿

最近、車両がどこかに飛び出したり、コンビニやスーパーの車止めを乗り越えて店舗に飛び込む事故についての報道が多くなっており特定の車種を冠して「○○○○ミサイル」「○○○○アタック」という言葉がネット上を賑わせています。

写真AC:編集部

報道から見る限り、これらの事故の原因は、ほとんどは運転者がアクセルとブレーキを踏み間違えたというステレオタイプのパターンにねじ込んで運転者自身の過失として片づけられかけています。

しかしそれだけではない、重要なモードが見落とされていると私は思います。

  • タイヤ半径と段差の高さが接近している場合の段差乗り越え時の急激な挙動変化
  • アクセル踏み込み時の駆動トルク変化のセッティング
  • 運転者に駆動トルク量のフィードバックがかからない静かな車

の3点が複合的に関与していると思われます。

1.  段差乗り越え時の挙動

スロープのない歩道や車止めのような段差をタイヤが乗り越える時の挙動について考えてみます。タイヤ半径が段差の高さよりも小さいときは、通常の方法では乗り越えられません。

一方、タイヤ半径が段差の高さよりもわずかでも大きければ乗り越えられる可能性があります。しかしタイヤ半径と段差の高さが近いと相当大きな駆動トルクが必要であり、車軸重量をリフトアップする程の駆動トルクが必要です。

駆動トルクを徐々に上げていき、大きな駆動トルクを与えて車体が浮き上がり、段差の乗り越えが始まると、リフトアップに必要な駆動トルクは急激に減少し過剰な駆動トルクはそのまま進行方向への推進力に転じていき、突如つっかえを外されたような状態となります。

2.  アクセル踏み込み量と駆動トルクのセッティング

ハイブリット車の中には急加速等をスムースに行うために、アクセルの踏み込みが深くなるとエンジン駆動に切り替えて大きな駆動トルクを得るようなセッティングがされているものもあります。

このようなトルクの変曲点のポイントと車軸がリフトアップするポイントが接近していると、突然駆動トルクが大きくなり、突然車軸のリフトアップが始まり、はじき出されたように車が飛び出すという急激な挙動変化となります。

3.  運転者へのフィードバック

アクセルを踏み込んで駆動輪のトルクを上げた場合、ガソリンエンジン車の場合はエンジン回転数が上がりそのエンジン音を聞くことやタコメータの指示、クラッチコンタクトの具合等により運転者にフィードバックがあるので相当フカしているという認識がうまれます。

一方、EVの場合は、アクセルを踏み込んでも音もなく駆動トルクがあがるので、運転者に自分がどれ程フカしているのかという認識が生まれにくいです。万一、運転者が段差に突き当たって乗り上げかけているという認識が無いままで、車体が動かないので更にアクセルを踏み込むと、どんどん車輪の駆動トルクは上がっていきます。

駆動トルクが一定値を超えると、タイヤが車止めに乗り上げ始めます。この時急激に車止めからの反力が減少しますので、支えを突如外されたように弾きだされます。

運転者の認識と対策

段差の乗り上げは、駐車の際の車止めへの乗り上げだけでなく、左折の際の左後輪の歩道段差の乗り上げでも同じことが考えられます。

運転者が段差に突き当たっていることに気づいていない場合、運転者側の目線で見ると、車が進まなくなったので少し強くアクセルを踏み込んでいると、突然車体の後部が持ち上がり、車体が弾かれたように飛び出したと感じることでしょう。

こうした急激な挙動を抑えて飛び出しを防ぐには

  • タイヤの駆動トルクが上がっていることを運転者が認識できるフィードバックをかける
  • 車止めや歩道段差とタイヤの関係を考慮したマイルドなトルク変化セッティングにする
  • 後輪の突き当りを感知する警告音

等の対策に自動車産業界側が真剣に取り組むべきだと思います。

自動車産業界側から何らかの対策が進むまでは、自己防衛として運転者自身がそうした意識を持ってアクセルの踏み込みを加減するしかありません。しかし、段差に突き当り乗り上げかけていることに気づかない場合は、我々運転者はどのように注意をしたら良いのでしょうか?

水野 信夫 機械工学関連技術者
エネルギー関連企業に30年以上勤務。