バロンズ:米中貿易摩擦激化、米国の狙いと中国の思惑

2019年05月20日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーには貿易戦争を取り上げる。5月10日の米国東部時間0時、米国による2,000億ドル相当の追加関税が10%から25%へ引き上げられ、同日に開催された米中通商協議は物別れに終わった。

中国は600億ドル相当の米国製品への追加関税を5%から25%(リスト1:LNGなどは10%→25%、リスト2:機械類は10%→20%、リスト3:レーザー機器などは5%→10%、リスト4:木材パルプなどは5%で維持)ヘ引き上げると表明。米国は、中国製品の残り約3,000億ドル相当にも25%の追加関税を賦課する方針で検討に入った

バロンズ誌は、専門家に今後の影響に関するヒアリング調査を実施、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、米国が残りの中国製品全てにも追加関税措置に踏み切った場合、S&P500種株価指数が20〜30%下落すると見込むが、その他のストラテジストを含め、経済的影響を見越し、2020年の大統領選に備え全面対決を回避すると予想していた。

さらに、多くのストラテジストによれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)が急落する米株相場にセーフティネットを与える見通しである。その他、気になる米中貿易摩擦が与えるインパクトについて、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが注目する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は米中通商摩擦にスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。

中国、米国との通商協議で日本の二の舞回避を狙う—What China Wants to Avoid in Trade Talks: Becoming the Next Japan.

歴史は繰り返さない、韻を踏む。しかし、歴史の韻というものは、ひどいラップのようにギクシャクしてしまうこともある。

中国のメディアによれば、米中通商協議で米国は人民元安を防ぐ狙いで新たなプラザ合意のような物を提案したという。中国にとって、日本の失われた30年を意味するだけに、警戒すべき事態だったに違いない。当時と現在は非常に似通っており、米国の対日赤字は膨れ上がり、米国は日本が米国を追い抜く超大国となることを危惧していた。米国は日本の台頭を抑えるべく、円高を進行させ、競争力を低下させたと解釈されている。

日本から得た教訓を、中国は忘れてはならない——中国メディアはそう警告する。また、中国は米国の圧力に屈してはならず、中国の台頭を押さえ込む通商合意を米国と結ぶべきではないと強調する。

1985年にプラザ合意が成立した当時を振り返ってみよう。2期目を迎えたレーガン政権はベーカー財務長官を率い、ドル高是正に動いた。ボルカーFRB議長率いるFedはインフレ抑制を狙い利上げを行っていたほか、レーガン政権の減税により資金が米国に流入していたためだ。米10年債利回りはピーク時、すなわち1984年に大統領選でキャンペーンCM「米国の朝(Morning In America)」を放映し、地滑り的勝利を果たした当時、物価上昇率を10%pt上回る程だ。

1985年9月22日の日曜日、「ドル以外の主要通貨が秩序だって上昇することが望ましい」とされたプラザ合意が発表されてから、日欧は短期的に金利を引き上げざるを得なかった。さもなければ、自国通貨の下落と物価上昇を招きかねなかった。逆にドル安が進めば、米国と先進国は金利を引き下げ、緩和策を講じられる。

しかし日本では、1988年後半までに円が対ドルで約2倍も急伸したため、大幅な金融緩和策を導入した。国際通貨基金(IMF)の試算によれば、当時の日本の政策金利は物価と成長に適切な水準を400bp下回っていたという。それが不動産や株式市場のバブルを引き起こしたことは、言うまでもない。

では、「日本の失われた30年」は米国がもたらしたのだろうか?2008年9月に発生した金融危機とは違い、日本では銀行の不良債権処理に時間が掛かり、救済も政治的な圧力を受けた。その他、1997年の財政引き締め策、1998年のアジア通貨危機なども重なった。

中国メディアが警鐘を鳴らすように、中国が米国に同様な合意を押し付けられれば、同じリスクに直面するのだろうか?

日本と中国の違いとして、当時の日本の円が人民元と違って変動相場制へ移行済みだったことにあり、中国では管理変動相場制を採用したままだ。中国はまた、巨額の外貨準備高を有し、米国債保有高は1.1兆ドルに及ぶ。ただ中国は、米中通商協議の切り札として、米国債を売却するといった手段に訴えることはないだろう。

もうひとつの大きな違いは、中国が人民元を現水準より対ドルで2倍近くも引き上げる可能性、即ち1ドル=6.92元から1ドル=3.5元への変動を許容する余地は極めて狭いということだ。同時に、人民元を国際通貨として普及を進めたい中国としては、1ドル=7元という水準を超えた元安も望まないだろう。人民元安をある程度許容することと、不安定化させることは別物であるに違いない。中国は米国債保有高を徐々に縮小しているが、中国は人民元安のペースを鈍らせるべく介入しているためだろう。

ts

(作成:My Big Apple NY)

中国メディアの報道は、国内の保守的感情に寄り添ったものと考えられる。米国はと言えば、安全保障やスパイ問題など米中通商協議より大きな枠で捉え、通信大手華為技術への禁輸措置などを決定した。反対に、トランプ政権は自動車に対する追加関税の決定を6ヵ月見送った。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)をめぐっては各国での批准の円滑化を狙い、両国に対する鉄鋼・アルミ追加関税措置の撤廃に踏み切った。一連の追加関税措置をめぐり、中国が標的であるのは火を見るより明らかだ。

米中貿易摩擦が苛烈さを増すなか、経済指標や米株市場に影響が及ぶと考えられるものの、機関投資家はトランプ政権の通商政策を支持しているようだ。ストラテガス・リサーチ・パートナーズのジェイソン・ディセナ最高経営責任者(CEO)によれば、ボストンなど反トランプ派が多い土地柄の顧客ですら、安全保障上や経済的利益のため、超党派で中国に対峙すべきと主張していたという。仮に中国が党派対立を予想するなら、貿易戦争について言うなら判断ミスになりかねないと指摘する。

投資家は、米中貿易摩擦の激化を受け半導体関連株への売り圧力を強めた。その他、農業機器メーカーのディーアも、農産品の中国向け輸出減少を懸念され下落した。今後、投資家は追加関税措置の影響が少ない通信大手シスコ・システムズなどの銘柄選定にいそしむ必要があるだろう。

——アメリカ人がトランプ政権の対中強硬策を支持しているという話は、こちらでご説明差し上げた通りです。中国はトランプ大統領が再選されなければ、対中姿勢が緩和するとの思惑を有しているのであれば、それは誤算に終わる可能性が高い。ただ、中国陣営もその事実には気づきつつあるのでしょう。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年5月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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