シンガポール視察報告② 開かれた障害者就労トレーニング

奥澤 高広

こんにちは、東京都議会議員(町田市選出) おくざわ高広です。

先日の『視察報告①~発展し続けるための教育』に続いて、本日お伝えしたいのは、障害者就労に関する意識の違いです。日本では、高校(特別支援学校が多い)を卒業すると、すぐに企業の一般就労、特例子会社、福祉的就労である就労継続支援事業所へ進むケースが多く、特に福祉的就労においては自立して生活できるような収入を得ることができないのが実情です。詳しくは、以前取り上げたソーシャルファームに関する記事をご覧ください。

各所でお話を伺うのが、日本の制度では高校を卒業した時点で就労するだけの知識や技能を得ることができないという点です。障害のある方は、スペシャルニーズ(特別な支援が必要な方)とも呼ばれます。特別な支援があれば、その能力や個性を生かして立派に自立していける、自分らしく幸せな人生を歩んでいける、というメッセージが込められた表現です。

私は、日本では障害のある方は福祉の対象、つまり一生助けられながら暮らしていく存在として制度ができていると感じることが多く、この価値観を転換したいと考えています。障害があっても、スペシャルニーズを受けることができれば、社会の中で互いに支えあう存在になれるはずです。

さて、話をシンガポール視察に戻します。視察させていただいたのは、ENABLING VILLEGE!日本語に訳すと、特別な能力を養うための施設といったところでしょうか。たくさん写真がありますので、一緒に施設内を視察している気分でお読みください。

驚いたのが施設がオープンであること。中にはスーパーやカフェ、銀行やセミナールームまであり、誰でも入ることができます(トレーニングルームは窓越しに見ることができますが、中には入れません)

MINISTRY OF SOCIAL AND FAMILY DEVELOPMENT (社会と家族のより良い関係を構築する省)を中心に、日本でもお馴染みのスターバックスコーヒーやシンガポール国内大手スーパー、銀行が出資して運営されているそうです。この辺りの官民連携手法も是非見習うべきところ。

まず目に飛び込んできたのは、The Art Faculty 障害のあるアーティストのアトリエと売店、カフェが併設されています。

日程の都合がつかなかった同僚の斉藤都議にお土産を購入。

接客のトレーニング施設としての意味合いも。

ゆったり過ごせるカフェラウンジもあり、すっかり話し込んでしましました。

ややテンション高めの店員さんは、とっても商売上手。日本語で声をかけてくれました。

外に出ると、アートと緑がたくさんあってリフレッシュ効果も。

写真左手に保育園が併設されていて、園内にはインクルーシブデザインの遊具が置かれていました。

付近の住民も活用できる屋外イベント会場には、聴覚障害者用の磁気ループが張り巡らされています。

特にご高齢の方向けに健康増進公園があり、お散歩を楽しんでいる方々の姿も。

園内を更に進むと、

五感に働きかける遊具が置いてある公園が登場。

「今日一番楽しそうですね」という突っ込みを受ける37歳のオッサン。

こちらは実際の水道管サイズのオブジェ。中で遊んでいるお子さんもいました。

街のこと、国ことを知ってもらおうとする仕掛けがいくつもあります。

いよいよトレーニングルームに来ると、部屋ごとにPC、裁縫、接客などに分かれています。

この施設に来ると、まず本人や家族と面談し、いくつかの職場で実習を行い、適性と本人の意欲をみるそうです。その上で、本人に必要なトレーニングを受講し、就職できる知識や技能が身についた時点で、就職先を探すそうです。

当然人によってトレーニングにかかる時間はバラバラで、3か月程度で習得できる方もいれば、1年以上通う方もいるそうです。企業からすると、仕事に必要な能力を身に着けていることやジョブコーチのサポート体制があることで安心して採用できると考えているそうです。

また、施設内の壁には様々なメッセージがあることも印象的でした。

できないなんて言わないで。必ずできる!!(奥澤的意訳)

毎日を最高の日に!!(奥澤的意訳)

現地での通訳&案内を買って出てくれたタマちゃんに心から感謝。

自閉症の方向けの相談施設でお話を伺いました。社会で自立して幸せに暮らしていくためには、働くということがとても重要であり、そのためのトレーニング施設を国や民間企業が協力して運営するのは当たり前とのこと。日本の福祉的就労の話(月15,000円の収入など)をしたら、あぜんとしていました。

いかがでしたでしょうか。障害者施策というと、日本では一部の人だけが考えるもの、暗いクローズドな環境で行われるもの、といったイメージがつきまといます。国の成り立ちは違えど、日本でも、社会に開かれたオープンなスペシャルサポートがなされることを願いつつ、それでは、また。


編集部より:この記事は、東京都議会議員、奥澤高広氏(町田市選出、無所属・東京みらい)のブログ2019年5月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおくざわ高広 公式ブログ『「聴く」から始まる「東京大改革」』をご覧ください。