従業員の依存症問題に対する企業のあり方

2019年05月22日 06:00

ここの所、ずっと丸山穂高議員への対応に対して、維新の先生方にお願いを書いておりましたが、そもそもこういった従業員に依存症問題が出た場合の、企業の対応のあり方ってどうあるべきなのか?
ということについて今日は書いてみたいと思います。

写真AC:編集部

現在、企業内で依存症者による問題が出てきた場合大きく分けて
1)解雇し、フォローなし
2)抱え込む
この二つのパターンに分かれています。

1)は比較的大企業や公務員に対してが行われている処分で、
2)は中小企業、それも慢性的に人手不足に悩んでいるような企業がこういった対応をしています。

で、今回の丸山穂高議員に対して、維新の先生方の対応はこの1)のパターンだったわけですが、
一般的に、依存症等の問題で更なる二次的な被害が出た場合、解雇は仕方がないと思うんですね。
つまり、アルコールによる飲酒運転で逮捕とか、この度の経産省職員による違法薬物使用での逮捕、もしくはギャンブル依存症者による横領や経費の水増し請求、クライアントへの受注不正などですね。

で、今後日本の企業でこの1)解雇になるパターンで改善して頂きたいのは、二次的な問題が起こる前のフォローと、起きた後のフォローなのです。まずは、
①すでに予兆があった場合の前フォローですね
これは、今回の丸山穂高議員のパターンにもあてはまるのですが、企業の中で違法薬物使用はなかなかわからないと思いますが、
「この人は、お酒もしくはギャンブルに問題があるな」と周囲の人間が気がついている場合があります。

例をあげると、

【アルコールの場合】
・飲み会になると人が変わったようにクダをまき、周囲の人間に喧嘩を吹っ掛ける
・飲み会になると一人で消えてしまい、どこかで深酒している
・飲み会の次の日は必ず休む

【ギャンブルの場合】
・いつもお金に困っている
・同僚らに給料日前はしょっちゅう借金を依頼している
・話題がギャンブルのことしかない
・仮払金などによる預かり経費の精算が遅い
・「財布を落とした」などの嘘が多い

などです。

こういったことがあって、職場の上司や人事が気がついた場合に、依存症先進国では、企業内で介入が行われています。
私がレクチャーを受けたアメリカでの介入研修でも、企業向け研修が行われていました。
また日本でも最近導入されるようになったEAPといった、従業員を支援するカウンセリング・コンサルティングシステムの会社でも依存症問題には力を入れていて、EAPが介入を行う場合もあります。
そして、地域のAAやNA、GAといった自助グループや、カウンセリングに繋ぐのです。

但し、そこで重要なのは、必ず本人の身が立つようにすることが肝心で、依存症問題がばれたからといって、解雇や査定に響くようなことがあってはなりません。
欧米では、きちんと治療に向き合い回復すれば、そっちの方がむしろ査定に良い影響がある社会となっています。

維新の例ばかりを取り上げて恐縮ですが、丸山穂高議員パターンのように「断酒誓約書」のような自分の宣言なんて何の役にも立たないのです。

さらにもう一つ企業のあり方としてお願いしたいのは、
②依存症等による二次的な問題が起き解雇になった後のフォローです
これは何度もブログ等でも書いておりますが、例えば飲酒運転やギャンブルによる金銭問題が起きた後には、必ず、依存症支援の専門家に繋げて欲しいんですね。

現在でも時々、ものすごい先駆的な方が上司だと相談があるのですが、
「うちの従業員が、ギャンブル依存症らしく横領した。」などと相談が来ることがあります。
そうなった場合には、会社の処分が下るまでに、この上司の方と、当事者、そして可能な限りご家族も呼んで頂いて、今後について話し合いを行います。

そしてご家族の今後の生活が成り立つのかどうか?示談になるのか刑事事件にするのか?離婚するのか?などなど、様々な方向から検討し、当事者の方に回復施設に入寮して貰ったり、自助グループに行って貰ったり、医療に繋いだりと、今後、依存症から回復するために何をやったらよいのか?決めていきます。

実は、このように全てが暴露され、本人が「参った」となっている時が一番のチャンスで、こういう一瞬のタイミングを逃さず掴めるかが、予後に大きな影響を与えます。

例えば、横領した金額が少額の場合は、家族が立て替えをするから、なんとか懲戒解雇ではなく諭旨解雇にしてもらって退職金は貰えないか?
その退職金で回復施設に入り、その間家族も自助グループに繋がり共に再生への道を歩きたいなどと、交渉させて貰うことなどもあります。

企業は、ただ解雇してあとは知らないよ!というのでは、社会の治安が悪化しますし、家族を含め生活の目処が立たなくなってしまえば、社会保障費の負担が増大してしまいます。
企業は従業員に対し責任がある訳ですから、せめてこの位までは道をつけて欲しいと願っています。

そして2)のパターン。「抱え込み」です。
意外に思われるかもしれませんが、日本の中小企業はこっちのパターンの方が圧倒的に多いのです。
特に飲食系や介護など、ある程度のスキルを必要とする職業でありながら常に人手不足に悩み、ギリギリの人員配置でまわしているなどという職種の場合は大抵こうなってしまいます。

しかもギャンブルの場合は、仕事ぶりには問題なく、むしろ働きものが多い。
これで会社は「この人がいなくなったら回らなくなる!」という思いから、
横領や経費の水増し請求などの被害金を、給与天引きという形で弁済させるという方法で決着をつけ、そのまま仕事に従事させてしまいます。

家族が依存症の問題に気がついていて、
「これを機会に回復施設に入寮させたいので、スパっと解雇して欲しい。」
と頼みこんでも、こういう会社の特にワンマン社長は聞き入れません。
しかもその自分の行為に「寛容で面倒見の良い俺」と、自分に酔っている人が多いのでますますタチが悪いのです。

けれども、依存症問題で「大目に見る」というのは最悪の対処法で、これをやっちゃうと第二第三の同じような事件が起こります。
賠償額はどんどん増え、その頃には本人も到底給与で返しきれるはずもなく、罪悪感と息苦しさで、会社を辞めたいのに辞められないという状況になっていきます。
そしてその多くは失踪に繋がり、最悪の場合自殺に至ります。

この「一度は大目に見てやる」というのは他の病気、例えばガンで考えて頂ければ、
「まだステージ1なんだから働けるだろ?医者なんか行かなくていい!」
と恫喝していることと同じです。
これは、決して有難いことでも、良い事でもないということを、経営者の皆様には知って頂きたいのです。

本人が否認を続け、治療に向き合わない場合には、スパッと解雇する。
非情なようだけれども、実はこれこそが真の愛情という場合もあります。

このように企業の皆様には、知っておいて頂きたい依存症者への介入方法が、その段階によって様々にあります。
本年度我々も企業向け発信を強化して参りますが、是非こういった我々との連携が、企業の皆様方の間でも共有されるようになって欲しいと願っております。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト

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田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表

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