海外駐在員の仕事

海外駐在が今の時代、エリートだとは思いませんが、誰でも赴任できるものでもありません。またアジア方面と欧米ではある程度の違いはあるのかもしれません。アジアならば現地スタッフが日本の企業に学びたいという気持ちをまだ強く持っているでしょうから多少、言語が下手でも、教え方がまずくてもついてきてくれたりするのでしょうが、欧米はそうはいかないでしょう。(アジア方面の駐在の認識が違っていたらぜひ、ご教示ください。)

写真AC:編集部

さて、駐在員は現地レップ(代表)としてビジネスシーンにおいて様々なところを把握しなくてはいけません。いわゆる会社の顔ですから取引業者、顧客、同業者を含めた情報網の確立は駐在になったら第一歩的な仕事ですが、自分からそれに突き進む駐在員は少ないと思います。

一般的には駐在員は会社のラインの仕事はしないようです。ラインの仕事とは日々の業務にかかわる生産工程、経理、顧客対応、業者とのやり取りなど企業が生み出す価値の基礎部分です。なぜ、やらないかといえば駐在員が数年でくるくる変わり、そのたびにやり方や指導内容が変わると現地スタッフが混乱するから、と以前聞いたことがあります。

複数の駐在員がいる会社の場合はよりラインの仕事に入り込むこともあると思いますが、それでも部門の長(経理や生産部門、マーケティングのトップ)ですから上がってくる数字や情報に対して現地スタッフに指示を出す、という仕事になるかと思います。

こう考えると会社によってだいぶ事情は違いますが、駐在員の仕事は管理業務が主体であとは本社とのコミュニケーションが主たる業務です。これが楽か大変かはあえてコメントしませんが、一つ言えることは駐在員が主導してビジネスの成長や改革を行うという点ではあまり期待できるようには思えないのです。

日本企業において海外事業展開の決定は本社で行うことがほとんどではないでしょうか。では本社は誰が動かすのかといえばやはり本社が主導するのであり、海外事務所はその決定に従い、受動的業務になりやすくなります。

もちろん、海外事業所から本社に能動的に働きかけをする場合もあるはずですが、どこかで潰されることが往々にして起きているはずです。私もいやというほど経験しました。

何故、私が今日、こんなテーマを書いているかと言えば日本企業の海外進出戦略が消極的すぎやしないか、そして現地事業所とレップの存在を十分に生かしていないのではないか、という気がするのです。

私も海外にこれだけ長いと様々な情報が入ってきます。自分の会社の事業範疇とはかけ離れているものは時折、興味ありそうな会社に話を振るのですが、まず、モノになったことはありません。本社の設定する資金枠、営業方針に合わないというのが主ですが、本社のトップまで上がるようなことはないでしょう。

何も新しいことができないというジレンマを繰り返していると駐在員は何のためにいるのか、という自問をするようになります。「3年の辛抱」とは時折聞く言葉なのですが、駐在は「いやいや」ということなのでしょうか?こんなことでは日本企業はいつまでたっても国際化できないでしょう。

私は駐在員の滞在期間をもっと長め(最低5年)、権限をもっと与え、タスクを与えることが重要だと思います。同時にキャッチャーである日本側の窓口、国際事業部とか海外営業部といった部門が海外業務に対する考え方を変えるべきと思います。管理するのではなく、経営する、という発想です。

私は長年ここにいながら、自社で開設する日系銀行のレップにもよく利用する航空会社のレップにもめったにお会いしません。会わないから日系に出す仕事のウエイトは減らす、という悪循環です。日本では取引先銀行の店長にはいくたびに必ず会うのに、です。

駐在員の敷居ということが言われた時代もあります。我々現地で起業した会社とはなかなか接点すら生まれないのです。しかし、名刺だけで商売できる時代ははるか昔に終わっています。せっかくのビジネスチャンスをもっと利用されるようになればよいと切に願っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月26日の記事より転載させていただきました。