岡田准一主演の『白い巨塔』は、昭和の時代劇にするべきだった

2019-05-26 14.02.01

テレビ朝日開局60周年記念ドラマ『白い巨塔』を見た。五夜連続の企画だった。結論から言うと、大変に面白かった。毎日、これが楽しみでしょうがなかった。最終回の日に多摩センターにあるサンリオピューロランドに行ったのだが、ベネッセコーポレーションの本社ビルを見て、これが白だったら、まさに白い巨塔だなと思った次第だ。

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率直に「よく頑張った」とスタッフ、キャストに拍手をおくりたい。なんせ、この作品自体が『白い巨塔』である。誰が何をやっても、山崎豊子による原作や、好評を博した田宮二郎版、唐沢寿明版と比べられる。関係者は相当なプレッシャーだったことだろう。

テレビ朝日番組公式サイトより:編集部

今回の人選は合格点以上だと思うし、それぞれが良い演技をした。岡田准一が演じる主人公財前五郎は、冷徹さ、欲望が出ており、裁判で負けたり、病に倒れるまでは強さ、凄みに満ちあふれていた。ただ、名誉欲を胸に突き進む財前五郎とは対照的に描かれる、患者のため、研究のために生きる同級生の里見を演じた松山ケンイチは他の出演者を圧倒していた。唐沢バージョンで演じた江口洋介は、やや感情的過ぎたが、松山ケンイチは冷静で、純朴で、不器用な里見を演じきっていた。

財前の愛人役を演じたのは沢尻エリカだった。率直に、同作品に出演した夏帆や、高島礼子の方が愛人役に向いていたように思うのだが、とはいえ、華があり。最近の彼女の演技は、以前と比べてひと皮もふた皮もむけている。

医学部の教授の一人、派閥を率いる女性を演じた市川実日子は存在感があり。『シン・ゴジラ』同様、癖のあるリケジョというのははまり役である。

『孤独のグルメ』の井之頭五郎(松重豊)が鵜飼学部長というのはやや意外性があったが、好演だった。原告側の弁護士役も柳原医局員役も、唐沢バージョンの上川隆也、伊藤英明を超える演技をしていた。

財前が里見にあげたドイツ土産のモンブランがお揃いのものになっていたり、財前が死に至る病だと知り半狂乱になるシーンなどはいちいち作り込みが細かく。実に面白い5日間だった。あっぱれ!

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ただ、令和フィーバーに対しては熱くない私なのだが…。本当にこれは昭和の作品なのだなと思った次第だ。価値観、言動が昭和だと。現代という設定になっており、過去作品に比べて、タブレットの活用、進化した手術用の医療機器など、いちいち技術萌えしたりもするのだが…。

昭和の時代劇として、描いた方が良かったのではないか。

エンタメ作品に「今はありえない」などとツッコミを入れるのは邪道だという声もあるのだが・・・。そもそも、今どき、やれ教授だ、国際学会理事だ、学部長だ、学長だと、そこまでの名誉欲というものを医者とはいえ、持っているものなのだろうか。

また、財前の医局員への「指導」は「アカハラ」「パワハラ」そのものである。「恫喝」と言ってもいい。もちろん、ドラマなのだけど。

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大変に楽しめる作品だったし、録画したものをまた見たいと思うくらいのものだったし、よいチャレンジだった。ただ、昭和、平成の「名作」をドラマ化したり、リメイクしたりする際はわざわざ現代に合わせる必要もないのではないかと思った次第だ。むしろ、時代劇として描いた方が納得がいく。

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それにしても…。私は、病院や医者が苦手である。生まれる前から父が重病で。幼い頃はよく病院にお見舞いに行き。とはいえ、父を治すために医者になりたいと思ったことはなく。むしろ、病院嫌い、医者嫌いの人生をおくってきた。ずっとクラスで一番かっこよかったので、ジャニーズ事務所への入所を考えたことも何度もある。

そういう人生を歩まなくてよかったなと再確認したという意味でもこのドラマは貴重だった。ありがとう。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。