川崎市無差別殺人事件の衝撃:防衛策は全くないのか? --- 和田 慎市

2019年06月03日 06:00

川崎市で無差別殺人事件が勃発し、何の罪もない成人男性と女子小学生が犠牲になってしまいました。

マスコミはなぜこのような事件が起こってしまったのか原因を探るため、犯人の生い立ちや最近の生活ぶりを必死に調べていますが、今現在はっきりとした動機はつかめていません。

ずっと仕事もせず、同居していた叔父夫婦から小遣いをもらうニートの生活だったといわれていますが、たとえ過去どんなに不幸な境遇に置かれていたとしても、犯人の残虐行為は許されるはずがありません。

ac work/写真AC(編集部)

しかし、犯人情報が少ない中、引きこもりであった事実をことさら取り上げれば、「ニートは凶悪犯罪を起こす!」などという、誤解を招く言説を世の中に植え付けかねません。

その昔、犯罪心理学者の福島章先生が書いた『殺人と犯罪の深層心理』(講談社文庫)を読んだ時、

ごく一部ではあるが、世の中には明確な理由もなく殺人事件を起こすタイプの人間がおり、先天的な大脳皮質異常が影響している。

という旨の分析を拝見したくらいなので、この先犯人の青年時代の異常行動・問題行動が明らかになったとしても、闇雲に理由探しをする評論家やマスコミが無差別殺人と直結させるのはあまりにも短絡的といえます。

そして私たちが認識しておかなければならないことは、前科がなく要注意人物としてマークもされていない人間が、突発的に起こす無差別殺人を未然に防ぐことはかなり難しく、被害を0にできる確率は極めて低いという現実です。

いくら登下校の見守り人員を増やし、大半の保護者が送迎を行ったとしても、全くノーマークの人物が笑顔であいさつしながら近寄ってきたとしたら、果たして直後の殺傷行為を予測できるでしょうか?しかも自爆テロと同様今回のように「自分は死んでも構わない!」と覚悟し、無事逃げ延びようなどとは考えずに殺戮行為に及んだとしたら、どんな大人でも防ぎきれるものではありません。

では全く防衛策はないのかといえば、完璧には難しいと思いますが無差別殺人被害のリスクを小さくする方法はあります。それは、

①ハード面(防犯設備・システム)の充実
②不審者・危険人物の把握・監視
③自己防衛策の積極的実践

の3つの方法です。

まず①ですが、具体的には次の2つが考えられると思います。

ア.犯罪発生率の高い箇所・地区(特に通学エリア)から順番に防犯カメラを増設していく。そして通学路や学校周辺を主に、通学・在校時間帯には警察官又は専門警備員をモニターの前に張り付け、危険人物がいないか映像を常時注視させる。

将来的には犯罪の未然防止に向け、人の異常な言動や凶器を感知し、即座に危険信号を警察関係機関に送れるようなAIを搭載した高性能監視機の開発・設置に取組む。
(課題:設置費用と人員確保、プライバシー権)

イ.公共機関(鉄道、バス、タクシーなど)に、空港のような凶器(刃物、銃等)を感知できる探知機・センサーを設置する。できれば改札口やバスターミナルなどにゲートを設置、警備員も配置し、感知した場合は空港同様強制的に荷物検査や身体拘束を行う。
(課題:設備費用、特にバス・タクシーの設置方法、通勤通学時の渋滞)

次に②ですが、できるだけ人権やプライバシーの侵害を考慮しながら実施します。

ア.凶悪犯罪者・性犯罪者の出所時、住所(住居)や生活圏、立ち寄り場所等を地元警察がしっかり把握した上で、関係機関(教育委員会、学校管理職、自治体等)と情報を共有し、こまめに巡回や監視を行う。
(課題:情報共有の範囲、対象人物の人権)

イ.過去に異常な言動や他者への激しい攻撃性など、警察や病院で指導・治療記録のある人物の犯罪リスクが高まった場合は、保護を名目に強制的な措置入院により身柄を確保する。
(課題:入院判断基準、対象者の人権)

しかし①では財政的・物理的に網羅できない壁がありますし、②では人権・自由権の壁があり、完全実施できなければ無差別殺人を防げる確率も下がってしまいます。そこで最後に行きつくのが③の自己防衛策なのです。

完璧な防衛策がない中では、各家庭(保護者)も特に子供の安全確保のために積極的に行動を起こす必要があり、学校選択(安全面のチェック)、より安全な帰宅路の選択、集団下校の徹底、防犯ブザー所持、保護者による送迎などが考えられます。

ただ中には共働き等でどうしても送迎が難しいとか、いくら防衛策を施しても不安がぬぐえない家庭もありますから、その場合は以下のような踏み込んだ自己防衛策も考えられます。

ア.NPOやボランティア団体に、マンツーマンに近い登下校の引率・付添いを依頼する。

イ.アでも不安な場合、たとえば数名の家庭が共同で費用を拠出し、身体能力の高い警護員(ガードマン)を雇って登下校時に同行(警護)してもらう。

私がこれほどまで踏み込んだ防衛策を提示するのは、従来通りの通学路の安全点検や、警察から流れされる不審者情報の共有程度の対策では、先ほど述べたような逮捕も死も恐れない殺人者から子供達を到底守ることはできないからです。

政府が本気で無差別殺人に対する防衛策に取組もうとするなら、市民にも生活上の不便を強いたり、人権やプライバシーの侵害ギリギリの強硬策も施したりしなければ効果は薄いと思います。

政府・文科省は、子供が被害者となる不測の事態が起こるたびに会議を開き、上意下達による関係機関への一律の指導・施策を繰り返していますが、抽象的、非現実的な対策ではなく、もっと真剣に子供の身になり、実効性のある安全確保対策を施していくべきではないでしょうか。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言

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