最終受益者まで手が届かない厚労省のブラックバイト対策

今年も行政事業レビュー公開プロセスに参加している。厚生労働省では6月6日に前半戦があった。対象になった四件すべて最終受益者まで手が届いているか心配が募る事業であった。

ブラックバイトが問題になって以降、厚生労働省は対応を強化した。その一つが「確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト」の運営である。

厚労省サイト「確かめよう労働条件」より:編集部

サイトには『学生アルバイトの方へ』というバナーがあり、バナーには「ブラックアルバイト」や「ノルマ」といった言葉が浮かんだらチェックしようと書かれている。ところが、このバナーをクリックすると最初に出てくるのは雇用主への情報提供で、学生アルバイト向けは画面の下のほうに隠れている。

雇用主への情報として他にも「学生アルバイトの労働条件に関する自主点検表」などが掲載されている。しかし、そこにたどり着くには何クリックも必要になる。

スマートフォンでこのサイトを閲覧すると一番上に『最新・更新情報』とあり、「行政の取組を追加更新しました。」が最新情報として載っている(6月6日現在)。こんな不要不急の情報は掲載しないか、掲載したとしても一番下に回すべきだ。

このサイトは、閲覧者が欲しい情報にすぐにたどり着けるように設計するというサイト構築の基本から外れている。利用者の使い勝手を考えて、過去のアクセスログなども分析して、情報の掲載順や掲載位置などを全部見直さなければならない。たとえば、サイトの頭にグローバルナビゲーション(案内リンク)を設け、「雇用主向け」か「労働者向け」に誘導するように改善するのもよい。

電話相談も実施されている。夜間土日に労働条件を相談するホットライン(フリーダイヤル0120-811-610)がそれだ。一方、労働基準監督局にも電話相談窓口がある。都内であれば総合労働相談コーナー(フリーダイヤル0120-601-556)だが、平日昼間しか運用されていない。時間帯を分けた運用は労働基準監督局での超過勤務を避けるためだろうが、国民目線ではわかりにくい。

ホットラインに昨年54453件の相談が来て、このうち労働基準法違反が疑われる相談は2758件だったそうだ。これら深刻な相談について労働基準監督局を紹介したところ、実際に相談がいったのはわずか15件だったそうだ。そもそも匿名相談が多かったというし、働き先との関係を考えて躊躇する労働者もいるだろう。しかし、時間帯を変えて二度目の電話をしなければならないという仕組みも邪魔をしていた可能性がある。

不親切な対応というしかないが、フリーダイヤルは一つにして、平日昼間と夜間土日でつなぐ先を変えるようにすれば、あっという間に解決する。

しかし、なぜ電話相談なのだろう。他の多くの若者向け相談サービスのようにSNSを利用していない理由もわからない。厚生労働省は若者の自殺対策にSNSを活用し、2017年10月からの半年で相談延べ件数は13177件に達したという。

高校や大学での出張セミナーも小規模に実施している。その規模では全員には届かない。公開プロセスでは、ネット動画配信などを併用するようにと言う意見が出た。

総合情報サイトも電話相談窓口も出張セミナーも、労働者にも雇用主にもリーチできていない。最終受益者まで手が届いていないこの事業に対して、公開プロセスは「事業内容の一部改善」を結論とした。

山田 肇