老後の不安を解決する「社会保障国債」

2019年06月09日 06:30

金融庁の報告書が、ちょっと話題になっている。これは夫65歳以上、妻60歳以上の世帯の月収が約20万9000円に対して支出が約26万4000円で「毎月の赤字額は約5万円」なので、95歳まで生きるとすると、貯蓄は2000万円以上必要という計算である。

これを野党が「年金は100年安心じゃなかったのか」と騒ぎ、麻生金融担当相が「あたかも赤字になるような表現は不適切だった」と国会で釈明したが、あやまる必要はない。「100年安心」というのは厚労省の公式見解ではなく、「100歳まで年金だけで生活できる」という意味でもない。それは「100年後も年金財政は破綻しない」という意味である。

これはテクニカルには正しい。賦課方式の公的年金は、支給総額がどんなに増えても、年金保険料を上げれば維持できるからだ。しかし金融庁の報告書もいうように、今後の超高齢化で、現在の給付水準は維持できない。社会保険料もさらに上がることは確実だ。

老後に不安があると、減税しても貯蓄に回るので消費が増えない。減税して国債を発行しても、それが将来、増税でファイナンスされると国民が予想すると、減税の効果は打ち消されてしまうからだ。

このように将来の増税を予想するリカード的な不安が大きいと、財政支出を増やしても成長できない。特に「人生100年時代」になると医療・介護のコストが激増するので、政府が「老後の備えが必要だ」と強調すればするほど、人々は貯蓄して成長率が下がる。

このパラドックスを解決する方法が(理論的には)ある。社会保険料を現在の水準で凍結し、今後の支給増をすべて使途を社会保障に限定した永久国債でまかなうのだ。これを「社会保障国債」と呼ぼう(会計をわける必要はなく、総額が対応していればいい)。

財務省サイトより:編集部

今の社会保障支出のうち約70兆円が社会保障特別会計、約34兆円が一般会計予算の「社会保障関係費」に計上されているが、社会保障が保険だというのは擬制である。賦課方式の社会保障はマクロ経済的には国債と同じなので、一般会計に統合したほうがわかりやすい。

今後の社会保障支出の増加をすべて一般会計に計上すると、当初予算の半分以上が社会保障関係費になるだろう。それによって社会保障の負担と給付の関係が可視化され、財務省のコントロールもききやすくなる。社会保険料は厚労省令だけで増やせるが、一般会計支出には国会の承認が必要だ。

社会保障国債は、特別会計の(オフバランスの)政府債務を一般会計に置き換えるだけだが、一般会計の赤字は増え、税収より借金のほうが多くなる。投資家が合理的だったら何も起こらないが、彼らが「社会保障支出が無限に膨張する」と予想して国債を大量に売るかもしれない。

それを日銀がすべて買うと、マネタリーベースが大量に供給され、高インフレが起こるリスクがある。これは財政への信頼が失われることによる財政インフレなので、日銀がコントロールできない。政策金利を上げると(元利合計の)名目政府債務はさらに増えてしまう。

そのリスクは政府債務の残高とはあまり関係なく、政府が信頼されているかどうかに依存する。日本政府は過剰に信頼されているハイパーリカーディアンな状態なので、少しぐらい財政赤字が増えても何も起こらないだろう、とシムズは予想している。

財政インフレのリスクはゼロではないが、問題は財政赤字の費用対効果である。マイナス金利の日本では、金利上昇やインフレのリスクはそれほど深刻ではないが、老後の不安は深刻だ。安倍首相が「社会保険料は今後は上げない」と約束したら消費は増え、成長率は上がるだろう。

ただし社会保障国債は長期金利が名目成長率より低い(r<g)場合には効率的だが、景気がよくなってr>gになったら、財政赤字の増加を止めなければならない。このとき増税(あるいは歳出削減)できるかどうかがむずかしい問題だが、資金需給の変化がゆるやかに起これば対応は可能だろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 学術博士(慶應義塾大学)

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