香港で再び民主化運動:防戦が強まる中国の対外戦略

岡本 裕明

香港の民主化運動を耳にしたことがある人も多いでしょう。2014年、「雨傘運動」とも称される反政府デモは香港の行政長官を選ぶプロセスにおいて実質的に中国の言いなりになる仕組みに反対し、学生らを中心に激しい抗議運動がおこりました。

今般、その香港で再び激しい民主化運動が起きました。いわゆる「逃亡犯条例」に反対するものであります。現在、中国本土と香港の間で犯罪人引渡協定がありません。今回、香港の議会でそれを可能にするよう立法化する案に関して香港の市民が立ち上がったものでデモの規模は主催者側発表で103万人とも言われ、香港の人口の7人に1人、幼少者や高齢者を除けばいかに多くの市民が激しい抗議運動を展開しているか、お分かりいただけると思います。

何故、この「逃亡犯条例」に香港市民が反対するかといえば中国政府に不都合な運動家やジャーナリスト、更にはビジネスにおいて中国側と紛争を巻き起こす可能性のある人などが様々な理由づけの下、中国側に引き渡される道筋を作るためであります。

香港は1997年に中国に移管されたのち、一国二制度を約束し、香港の高い独立性を認めたはずでした。しかし、時間とともに実質的に「中国の一部」という形が進んでいくことに香港市民が強い懸念を示していると言えるのでしょう。

なぜ、中国がそこまで香港を締め付けるのか、といえば一国二制度が中国からすれば制度上のバグとなり、中国が目指す完全支配下に置ける統制が出来なくなるからでありましょう。それだけ中国は「中華帝国」の安泰化に躍起になっているとも言えそうです。

注目される米中通商戦争。アメリカ側の締め付けの手が緩まない中、中国も閉鎖的動きが見えてきました。日経が「中国、重要技術の輸出制限検討 人民日報など報道」 と報じたその中身は「国家技術安全管理リスト」を作り、そのリストの業種、技術などは中国が死守するものとし、ブラックボックス化や輸出や技術移転の禁止などを内包するものと想定されます。現時点ではその詳細は分かっていません。

かつて私は地球上でブロック経済化がまた進むリスクがある、と指摘したことがあります。今から5~6年前でしょうか?その頃は誰もそのようなことが現実に起きるとは考えていなかったと思います。今、アメリカが力づくで行う中国の抑え込みは中国が中国経済圏の創生に全力を挙げると見ることも可能です。これは大きな意味での地球ブロック化であります。その場合にはロシアがブロック入りする公算があり、多くのアフリカ諸国も中国色に染まるかもしれません。

進行中の通商戦争が現代版の冷戦になりつつあるのかもしれません。いみじくもプーチン大統領が先日、日本との平和条約締結は日米の強固な関係がある以上難しいということを述べました。つまり、日本と言えどもいつの間にか派閥化の争いに巻き込まれているということかもしれません。

では中国の防戦は十分な機能をするのか、であります。中国がアライアンスを組む相手が誰か、ということになりますが、ロシアを除くと先進国や影響力ある国家がどれだけ中国側につくのか、正直読みにくいところがあります。アフリカ諸国やベネズエラといった支援を要する国家への影響力はありますが、その道のりはたやすくないでしょう。

香港の議会は過半数が親中国派で占められており、このままでは立法案は通過する公算は高いとみられます。しかし、香港市民置き去りの立法案制定は中国が国家権力と威信をもってほぼ力づくで抑え込んでいるようなものであり、それは決して安定化にはつながりません。ネット社会は香港でも二分化を増長しているわけですが、収まりどころは果たしてあるのでしょうか?

内憂外患という言葉が最もふさわしいのが今の中国、そして習近平国家主席を取り巻く状況ではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月10日の記事より転載させていただきました。