土下座に何故効果がないか?誰でもわかる依存症講座

田中 紀子

先日AbemaTVで、宇佐美典也さんと、乙武洋匡さんが、田口淳之介さんの土下座について、依存症の観点でみるとするなら…という論議をされ、それが実に的を得ていたので、すごく有難く思っています。
田口淳之介被告の土下座、「依存症対策としては誤った対応だと報じるべき」

NHKニュースより:編集部

そこでこのわかりにくい病気について、できるだけわかりやすくお伝えするってことが、いかに大事かということを、再認識しましたので、今日は依存症の仕組みと回復方法を、それこそ誰でもわかるように、超単純化して書いてみます。

とにかくめちゃくちゃ単純に書きますので、実際にはもう少し複雑な要因が絡み合っています。
徹底的にわかりやすさを優先してあることをご承知おきください。

1)依存症ってどんな病気か?

この図をご覧ください。

依存症とドーパミン

依存症には、神経伝達物質の一つである、ドーパミンが深く影響しています。
ドーパミンは人間に「気持ちよさ」「快感」を与えてくれます。
例えば好奇心でワクワクしていたり、何か頑張った暁に結果が残せたりすると「やった~!」って思いますよね。
そういう快感をドーパミンはもたらしてくれます。

ところがアルコールや薬物、ギャンブルといった刺激物は、インスタントにこの快楽を与えてくれます。
面倒くさい前段階なんかいらないわけですね。
でも、普通の人は、飲んだり、使ったり、打ったりするのをやめれば元に戻ることができます。

ところが、依存症になるとこの元に戻る機能が壊れます。
どう壊れるか?

アルコール、薬物、ギャンブルの刺激以外では、このドーパミンが出にくくなっちゃうんです。
快感物質ドーパミンが出なくなるとどうなるか?
それは人生すべてが「不快」で「苦痛」で「しんどく」なります。

アルコール、薬物、ギャンブルの刺激を受けると、その瞬間だけほんの一瞬楽になります。
だからやらずにはいられない、いてもたってもいられない強迫観念に見舞われるのです。

こうなると快楽からは程遠いところにいます。
つまり毎日がマイナス状態から始まっているわけで、やったらそれが少しプラスになるだけ。
最後の方は、プラスマイナスゼロの状態にも戻れません。
マイナス10がマイナス8になるくらい。

人生が辛くて、苦しくて、悲しくて、嘘つくしかなくなって、人と会うのが怖くなって、早く人生を終わらせたいとそればかり考えるようになり、実際依存症者はよく死にます。
自殺率は、一般の人の20~30倍と言われています。

そして依存症はどんな病気もそうであるように、誰にでも罹患するリスクがあります。

2)どうすればいいの?

依存症になったら、とにかくハマっていた、アルコール、薬物、ギャンブルを、きっぱりとやめるしかありません。

でも、それらを使っていたから、少しはマシになれていたのに、やめたら上がれないじゃん!と脳は思いこまされてしまっています。
だから依存症者は、ハマっていたものをやめることが恐怖です。
何を支えにして生きていったらいいのかわからなくなります。

ここで自助グループの出番です。
先にやめた人が、やめていくとどうなるか?といった姿を見せてくれ、辛い時期を一緒に抜けられるよう手助けしてくれます。

つまり一般の病気、胃がんなどでいったら、
①手術を決意した。
→当然今後どうなるか?説明があります。

②流動食になった。
→それはどんなものか?その期間がどのくらいか?説明があり、介助が必要であれば介助をしてくれます。

③痛み等の不定愁訴が楽になり、8分粥になった。
→元気になってきたことを喜び、励ましたり、不安事項の説明したりします。

④退院
→普通の生活に戻るけれども、食事や運動などの諸注意があります。

⑤メンテナンス
→食事や体調管理に気をつけ定期的に通院します。

とこんな経過をたどるわけですよね。
依存症も全く同じで、最初の症状が激しく、生きていくのがやっとという時は毎日誰かが話を聞き、自分の経験を話し「大丈夫!それもまた過ぎる!」とサポートしてくれます。

なんせドーパミンがでてこない生活というのは、不安、恨み、恐れ、悲しみ、怒り、憎しみ、苦痛・・・こういった感情しか頭の中になくなるのです。
いつもいつもろくなことが考えられず、頭の中をこれらが暴風雨のように吹き荒れていますから、ここを乗り越えるのが一苦労です。しかもそれは結構長く1年くらい続き、回復したなぁと思えるようになるまでには2年くらいかかります。

3)効果のあるものとないもの

依存症はこのような回復の経過をたどるので、当然ながら以下のようなものは効果がありません。

  • 「もうやめます!」という誓い、念書、誓約書、土下座、丸刈り
  • 叱責、恫喝、懲らしめ、見せしめ
  • 監視

ですから、依存症の回復に効果があるものはこうなります。

  • 病気に理解のある人、経験者の支え
  • 周囲の人たちの正しい知識と対応
  • やめたほうがいいよな!回復者って素敵!かっこいいな!と思えるロールモデル
  • 依存症者を叩くより、回復させたほうがメリットがある!という社会の理解
  • 共に苦しんできた家族へのケアとサポート

ということになります。
お分かりいただけましたでしょうか?


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト