必然の中で起きた東京福祉大学 消えた学生問題

岡本 裕明

東京福祉大学のずさんな経営が報じられていますが、不思議なことがあります。それはこの大学がウェブ上で謝罪はしたものの、メディアも理事長などへ積極的なアプローチをしているようには思えないのです。つまり、報じられている内容は極めて表層的で一応、学校側に問題があるという形にはしていますが、それを追及しようとする姿勢には見えないのです。

東京福祉大学 伊勢崎キャンパス(東京福祉大学HPから:編集部)

東京福祉大学 伊勢崎キャンパス(東京福祉大学HPから:編集部)

何故でしょうか?

私は東京福祉大学は結果としてそうなったという点で一義的に同大学を責められない状況があったのではないかと考えています。では、本丸は誰なのでしょうか?可能性としては政府の無理な方針がそこにあったかもしれません。

「留学生30万人計画」というのがあります。これは福田内閣時代の2008年に文科省で制定されたプログラムで開かれた日本とグローバリズム戦略の一環でありました。安倍首相もかつてその成長戦略の中でこのプログラムをサポートする発言をしています。その功も奏してか、2018年末における留学生の数は33万7千人になっており、目標を達成しています。

ただし、この30万人達成にはやや無理があったのは否めません。日本側のグローバリズムというまじめな取り組みに対して、実態としては一部で勉学するというより「ジャパンに出稼ぎに行こう」的な形で理解が進んでしまったとみています。日本に留学するには一年で150万円前後は必要とされます。また、一定の日本語を含めた能力も要求されます。多くが中国や東南アジア圏からの留学生ですが、そんなに貯金があるとは思えないのです。もちろん日本語能力もそうです。大学入学ならPLPT能力検定でN2レベルを要求されます。

それでも本当に30万人以上も来られたか、といえば一部で書類改ざんの可能性が指摘されています。

これは日本で最近話題になった改ざんとはやや違い、現地の留学斡旋エージェントの暗躍があるようであります。そこで日本留学に必要なハードルをクリアする魔法を介して留学ビザを取得するというものであります。もちろん、こんな魔法は文科省以下関連省庁は十分わかっているはずです。しかし、30万人留学生輸入計画は国家の成長戦略であるため、多少は目をつむったと思われます。

幸いにして日本は今、圧倒的人手不足。猫の手も借りたい事業者側からすれば留学生に許される週28時間労働を超えての雇用実態も大いにあるでしょう。とすればこの東京福祉大学の問題をとことん潰していくとみんな悪になってしまうのです。ビザの不正取得を見逃した役所も留学生を規制以上に長時間労働させている事業者もアウトになるかもしれません。もちろん、二つ以上のバイトの掛け持ちをしていたとすれば知らなかったと言い逃れるかもしれませんが。

では矢面に立つ東京福祉大学はどうなるのか、ですが、多分、消えた留学生を主題とせず、受け入れた学生に対する施設や教員の十分な体制が整っていなかったという形での罰則になるかもしれません。また消えた学生が多いのは東京福祉大学に限らず、日本全国にたくさんあるとされていますが、それが大きく取り上げられない可能性もあります。その理由はもちろん、困るからです。

東京福祉大学のホームページに理事長の言葉があります。「…詰め込み教育で得た知識だけでは対応が困難…」。詰め込んだのは教育ではなくて学生さん、そしてそれでは対応は困難だった、ということになります。

このような問題は受け入れ留学生が圧倒的に多いカナダでも当然起きています。しかし、10年ぐらい前に留学ビザで長時間就労していたケースが相次いで見つかり、厳しい対策が施されました。現在ではその就労可能な学生ビザはそれなりに機能しているようです。

個人的には30万人という数字を「神の声」のように扱い、独り歩きさせ、忖度しすぎた関係者の見逃しがあったのだったのだろうと思います。ルールの厳格化が求められるのは当然であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月12日の記事より転載させていただきました。