強気の出店計画が成長を生む時代ではない

かつてコンビニ業界は激しい出店競争を繰り広げました。多ければ多いほど企業としての売り上げは上がるからです。売り上げの増大は企業がいかにも成長しているように見えます。経営者は経営指標のうち、売り上げ増は最も重視するところでしょう。よって年間2割、3割と伸びていれば「おっ、この会社、やるねぇ」ということになります。

ところがあの問題になったシェアハウス「かぼちゃの馬車」は年率倍々ゲームで増えていきます。まだあの問題が全く表に出ていないとき、日本で取引先のある銀行の支店長と「おかしいよね、同じビジネスモデルで倍々ゲームできる能力を持つところは何か裏があるよね」とお互い頷きあっていました。その後の話はご存知の通りです。

(写真AC:編集部)

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個人的にはコンビニの出店競争が一部の経営者で「成功の流儀」のようなイメージを植え付けたような気がします。ではコンビニがあれだけ無理な出店競争をしながらもここまで成長した理由は何でしょうか?私はコンビニそのものが形を変え続けたことで消費者から見た「賞味期限」を長くすることに成功したことかと思っています。

営業時間が24時間営業になり、公共料金を払えるようになり、コピーやらコンサートのチケットが取れるようになり、宅急便も扱い、弁当のクオリティが上がり、カウンターで暖かい調理品を購入でき、PBができ、お金も下ろせ、価格も以前より優しくなった…となればいつの間にかコンビニの魔法にかかってしまったといってもよいでしょう。しかし、コンビニの成長はその間に経営側に無理な負担がかかり、壁にぶち当たった気がしています。それでもよく頑張ったといってよいでしょう。

では飲食店。最近一番よく引き合いに出されるのが「いきなりステーキ」のペッパーフードサービス。ステーキをほぼ立ち食いのようなスタイルで売り出したのは斬新でした。イメージ破壊を行ったからです。高級と思うステーキと立ち食いが全くマッチングしなかったところに面白さがありました。更に小池都知事が何年か前に「いきなり…」でステーキ食べて「元気つけなくちゃ」と言っていたのが妙に印象的でその頃から一気に成長拍車がかかります。

急激な出店計画はNY進出まで行きましたが、そこで失敗します。11店舗出してあっという間に7店舗閉鎖し、昨年ナスダックに上場したものの上場の意義が薄れ、アメリカでの上場廃止が発表されています。国内も既存店売り上げの伸びも大きくダウンし、苦戦が伝えられています。理由はステーキがやや日常的ではないことと競合店がたくさん生まれ、差別化を図りにくくなったことが主因でしょう。

マクドナルドはなぜ長期間、飲食の王者として君臨できるのか、といえば食のインフラとなれたからでしょう。賞味期限切れ問題で大変苦労した同社ですが、大型投資で店舗を変え、経営を変え、インフラとしての価格主導権も取り戻しました。特に問題発生後の回復はカサノバさんの手腕と努力だったと思います。

スタバ。私はコーヒーの味というより、コミュニティのインフラだと考えています。ネット環境があり、心地よさがあるスタバに行こう、あるいは「待ち合わせは〇〇のところのスタバね」というわかりやすさがセールスポイントとなりました。ちなみに私も当地でスタバを当社の店舗スペースに誘致する計画があったのですが、その際の彼らの「角地」へのこだわりは凄まじいものがありました。待ち合わせは角地の店ですよね。

強気の出店計画は強大な資本の背景があり、インフラとなれるほどの必勝方程式を解く必要があると思います。現代社会は次々と新しいものが生まれるため、メディアにあまりにもフォーカスされると逆効果になることもあるでしょう。そういう意味では着実に一歩一歩踏み出すような出店計画で、世の中のトレンド変化が起きた時、それに合わせて変身できるのか、というリスク換算をすべきだろうと思います。

チェーンのラーメン店を新規開業するので5000万円から1億円出資しないか、という話が舞い込んだことがあります。たった1店舗でそんな大金を突っ込む理由も私には理解できないのですが、事業計画では5年ぐらいで全額回収できるようになっていました。もちろん、私の趣味ではないのでお断りしましたが、まるでイチかバチかの大勝負のような気がしてなりません。

経営とはもう少し地に足をつけたものでもいいような気がします。アメリカ流の急成長の夢にあまりにも感化されると見間違えるような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月17日の記事より転載させていただきました。