これではまるで全世代型殺人時代

2019年06月19日 06:00

全世代社会保障はどこに

連日のように、むごたらしい殺人事件、暴走車による交通事故死が相次いでいます。鬼でも涙を流すだろう悲惨な児童虐待死も次々に起き、一方、介護施設・病院では老人の不審死が続発し、冷酷な犯罪が社会全体に広がっているようです。全世代型殺人の時代です。

写真AC:編集部

安倍政権は、高齢者が優遇されていた社会保障制度を、子育てや教育支援にも目を向け、「19年は全世代型社会保障の元年にする」と、約束しています。実態は全世代型社会保障どころか、全世代型殺人の時代です。その社会的な背景、原因を探り、事件を未然に防ぐ必要があります。

前置きして触れておきたいのは、殺人事件も交通事故死も以前に比べると、ずっと減っていることです。メディアの報道に接していると、悲惨な事件、事故が増えている印象を受けます。なぜでしょう。これまであまりなかったタイプの事件、事故が目につき、全世代型殺人の時代になったからです。

殺人事件の被害者は、1956年の2500人をピークに減り続け、2015年は310人で、1日当たり1人を割りました。経済成長による経済的な安定、防犯・治安体制の強化、犯罪を憎む国民意識の高まりのためでしょう。国民10万人当たりの殺人数をみると、日本は0・28人で世界的にみると194位です。米国79位、独153位で、上位には中南米などの国が並んでいます。

交通事故死もこの10年で半減しました。車の制御機能の向上、シートベルトやエアバッグの普及などのためでしょう。問題は40歳代と80歳代の事故が減っていないことです。運動神経が鈍る高齢者が増え、事故数そのものが増えているのに、自動ブレーキ装着など安全対策の遅れがあるからでしょう。

負け連鎖が不幸を再生産

殺人、事故件数がすう勢的に減っているのにもかかわらず、なぜ悲惨な出来事が相次いで起きるのでしょうか。「若い親による児童虐待死」「高齢者による息子殺し」が象徴的な事件です。「自分の幼児期に虐待を受けると、自分が親になって子を虐待する」という負の連鎖、「子供の時にはまった引きこもりが大人になっても続く」という負の連鎖なども背景あるでしょう。

全世代型殺人時代といいたいのは、全くの他人を殺害するというより、「若い親⇒自分の児童殺害」「高齢の親⇒引きこもりの中年息子殺害」「高齢運転者⇒児童を含む歩行者の事故死」「介護施設・病院⇒高齢患者殺害」という形の悲惨な事件が多発しているからです。

衝撃的だったのは農水省次官だった親(76)が、引きこもりの息子を殺した事件です。次官経験者が殺人、それも息子を殺した事件は恐らく前例がない。この話が会合で話題になり、ある次官経験者が「そこまでやるなら、自決すべきだった」と。別の会合では、これも次官経験者が「聞くところによると、息子と刺し違える決意だった。殺した瞬間、茫然とし、その決意が吹っ飛んだらしい」と。

吹田市の交番巡査を襲い、けん銃を奪った事件の犯人は33歳の男で、親はテレビ局の役員、本来なら恵まれた家庭の育ちです。それが定職らしい定職に就かず、家族ともしっくりいかず、精神的に不安定だったとかの情報もあります。社会を歩むコースをどこで踏みはずしたのか。

池袋で運転する車が暴走し、母子死亡、10人が負傷した故では、運転者は87歳の高齢者でした。旧通産省工業技術院の院長というエリートでした。始めは運転ミスを否定しておきながら、一転「ブレーキとアクセルを踏み間違えたらしい」と、言い換えた。運転する運動神経は衰えていても、言い逃れする口先の神経は働いていたか。これにもショックを受けました。

高齢者を抹殺したいか

高齢者が逆に殺されるという事件も目立ちます。「東京・福生市の病院で終末期の患者が透析の中止で死亡。他にも透析中止による死者が多数いるらしい。終末期の高齢患者に対する病院の冷酷な態度は、ある種の割り切り」「東京・品川の老人ホームで82歳の入居者が28歳の職員に殺害。面倒を見切れない高齢入居者を虐待、抹殺したい衝動に駆られる職員は多い」などでしょうか。

社会の軸があちこちで狂ってしまっているのです。「児童虐待には児童相談所の体制強化」「中高年の引きもりには地域支援センターの活用」「高齢運転者には安全運転装置の義務付け」「介護施設職員の待遇改善」など、対策をあげればきりがありません。

「全世代型社会保障の元年」という政治的なスローガンを掲げても、様々な問題は解決するような態度はとらないでほしい。むなしく響きます。高齢者が増えれば増えるほど、経済が低迷すればするほど、過去の矛盾が連鎖するほど、事件は拡大再生産されていく。政治が全てを仕切れるわけはないのに、仕切れるふりをするのはいけない。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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