北米で感じる金利と景気

アメリカのFRBが6月のFOMCで年内利下げのシグナルを発しました。専門家の事前予想では年内の利下げに対する期待度はほぼ100%であり、むしろ何回下げるか、という読みに変わってきています。個人的には9月と12月の可能性を予想していますが、一部には7月の利下げ予想も根強くあります。

19日の 米連邦公開市場委員会(FOMC)会合後に記者会見するパウエル議長(FRB公式ツイッターより:編集部)

今回の利下げの基本的なスタンスはインフレが落ち着いているということですが、もう少し実態面を詰めていけば北米の景気のピーク感があるということかと思います。「高揚感なき好景気」は日本だけではなく、北米でも同じなのだろうと思います。

先日、トロントで取引先の金融機関の証券部門の本部に行った際、担当のバイスプレジデント(部長)が冴えない面持ちで「金利の(先行き)下落はうちの部門(債券売買などを主力とした法人営業部)にはよくないんだよねぇ」と。この部門だけを見ればリスクオンによって預託資金が集まりにくくなり、自分の成績が下がることを気にしているのでしょう。

この銀行はカナダでもトップクラス、世界でも有数ですが「うちの最新のトレーディングルームを見せてあげよう」とセキュリティが何重にもなっている部屋に通されました。体育館のような巨大なトレーディングルームにはマルチコンピュータースクリーンと電話を片手に忙しそうにするトレーダーたちがざっと100人はいるのでしょうか?ここで株、為替、債券すべて取引していると。彼らは北米市場が終わると次の中継地、シンガポールにバトンを渡し、その次はロンドンと世界3か所で24時間体制を敷いているそうです。

横道にそれましたが、マネーでうごめく世界の人の顔色は景気の顔色だとすればこのトロントのウォール街である「フィナンシャルディストリクト」も夏の天気とは裏腹にビル風が吹いているのでしょうか?

先週、バンクーバーのそばで私どもが手掛ける新しい不動産プロジェクトに関して市役所のプランナー(都市計画担当責任者)と会合した際、思わぬ提案を受けます。「土地の用途変更をしてもっと大きなものを作りませんか?」と。「当方のメリットは?」と聞けば「延べ床面積、ユニット数とも2倍ぐらいでどうでしょうか」提案されます。私もかつて当地で土地の用途変更はやりましたが大変な作業である一方、メリットも大きいものです。それをわざわざ当局から提案された事情とは市役所への新規開発申請が急減していることがあるようです。

バンクーバーのど真ん中。高級集合住宅地のある一角では数百メートルの間に新規開発申請の看板が7か所あります。が、まことしやかにささやかれているのは「果たして本当に開発されるのは半分ぐらいか」という噂です。

アメリカ同様金利が上がったカナダも今年に入ってすっかり景気のトーンが変わり、特に不動産部門のスローダウンは深刻な影響が出ています。完成間近の集合住宅は高い土地代と建築費で潜在的値引き余地がないにもかかわらず売れ残りが出ている模様です。超高級物件も数年前に購入契約した顧客が果たして完成した際に本当に引き渡しに応じるのか疑心暗鬼となっています。(当時は中国系の買い手が先を争うようにしていました。)

北米では人件費の高騰でただでさえ利益が確保しにくくなっている中、景気はややスローダウン、消費者の懐はやや絞り気味、お祭り騒ぎの不動産狂騒曲も鳴りを潜め、浮かれるような気分じゃないことは確かでしょう。それでもバケーションシーズンを前にせめて夏の太陽ぐらいは好きに浴びせてほしいというネアカの人々の顔を見ると「日本の2000万円問題騒動ってなんだろうねぇ」と思わず、つぶやいてしまいます。(まぁ、多分あれもマスコミが煽っているだけでほとんどの国民は忘れちゃったトピックスかもしれませんが。)

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月20日の記事より転載させていただきました。