スイスに飛び火したベネズエラ混乱

2019年06月21日 11:30

1人より、2人の方が賑やかで良い、とはいえない。当方が住むオーストリアには2人の日本大使が赴任されている。1人はオーストリアとの2カ国間を担当する小井沼紀芳特命全権大使だ。もう1人は国連を含む国際機関を担当する在ウィーン国際機関日本政府代表部の北野充特命全権大使だ。

船頭が多いとどうしても争いやいがみ合いが起きてくるものだ。外務省から派遣された2人の大使の間で権限争い、領域争いが起きたとは表立っては聞かないが、全く平和共存関係かというと、そうともいえない。オーストリア担当大使館所属の日本人外交官がウィーンの国連機関を訪ね、会議に参加していたというニュースが国際機関担当の日本大使館関係者の耳に入った時だ。

「なぜ、君は国連にきているのかね」といった不審な顔をされたという証言を関係者の口から聞いたことがあるから、やはり小国に2人の日本大使がいるのは財政的に贅沢すぎるだけではなく、人間関係で様々な不祥事が生じる原因ともなるわけだ。

ところで、欧州の中立国スイスに2館のベネズエラ大使館がある。もちろん、2人の大使、外交官がいることになる。首都ベルンと国連機関がある国際都市ジュネーブにだ。自国の大使館が2館ある場合、スイスに住むベネズエラ国民が旅券の延長や領事関係の要件で大使館に足を向けるとき、どちらの大使館に行けばいいのか、と戸惑ってしまうだろう。そんな話がスイスの公共ニュースサイト「スイス・インフォ」が6月14日報じていた。

問題は、2カ所の大使館が同じ主人を大統領としている館ならば、地理的に近い大使館を訪ねれば事は済む。ベルンとジュネーブでは地理的には少し離れているから、例えば、チューリッヒに住むベネズエラ国民はベルンに行けば時間を節約できる。

ベネズエラのマドゥロ大統領とグアイド暫定大統領(ウィキぺディアから)

問題は2館の主人が異なることだ。ベルンのベネズエラ大使館がニコラス・マドゥロ大統領のベネズエラを代表している一方、ジュネーブのベネズエラ大使館の場合は暫定大統領のファン・グアイド氏を国の代表としている大使館だという事実だ。すなわち、前者は政府代表の大使館、後者は反政府代表の大使館ということだ。

スイス・インフォによると、首都ベルンにあるベネズエラ大使館は昔からベネズエラ政府公式の外交使節を務め、ニコラス・マドゥロ大統領の管轄下にある。ジュネーブのベネズエラ大使館は大使館とは名ばかりで小さなベネズエラ・レストランでスイスに住む反マドゥロ勢力の集会場に過ぎず、外観から判断すれば、一国の大使館という風格はない。

ジュネーブ居住のベネズエラ国民は、「ベルンの大使館は我々を公平に取り扱ってくれない」という不満が強い。特に、その国民が野党側を支持している場合、仕事がスムーズには進まない。もちろん、ベルン側はそのような批判を一蹴し、「われわれはすべての国民を等しく公平に対応している」と弁明している。

要するに、欧州のアルプスの小国スイスでもマドゥロ大統領派とグアイド暫定大統領派のいがみ合いが展開されているわけだ。前者はロシアや中国が支援し、後者は米国、ブラジルなど約50カ国がグアイド氏を正式の大統領として公認している。ただし、スイスは公認していない。

世界最高の原油埋蔵量を誇るベネズエラで紛争が生じて以来、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計では約340万人が自国から避難し、コロンビア、エクアドル、ペルーなどに避難している。その難民の一部は親族関係者を頼って欧州に移住してきた。南米からの報道によると、ベネズエラでは深刻な食料不足や医療品不足、さらには全国規模の停電など人道危機に直面しているという。

スイスに住むベネズエラ国民は母国の現状にやりきれない思いがあるだろう。国家財政を潤すほどの原油生産ができる国がガソリン不足で車を利用できないとか、日常用品にも事欠くということは、同国の為政者の統治能力が疑われても仕方がない。

スイスに住むベネズエラ国民が迷うことなく、自国の大使館を訪ねることができる日はいつ到来するだろうか。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月21日の記事に一部加筆。

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