「老後2000万円問題」からひも解く年金の現在地と未来 --- 大曲 義典

2019年06月23日 06:00

公的年金だけでは老後資金に2,000万円不足するという金融審議会の市場ワーキンググループの報告書が物議を醸している。この報告書の内容自体は何ら間違ってはいない。筆者などは、2,000万円で大丈夫なのかと思ったくらいだ。

報告書を受けて公的年金の「100年安心」が壊れたと指摘する向きもあるが、とんだ勘違いか確信犯に過ぎない。「100年安心」とは「今後100年にわたって年金制度は維持できます」という意味であり、「国民の老後生活を年金だけで100年保障します」ということではない。

自公政権が2004年に行った年金制度改革後のセンセーショナルなスローガンに過ぎない。

大多数の国民は老後の生活資金が公的年金だけで賄えるとは思ってもいないし、かといって公的年金制度が100年安心だとも考えていない。その国民の漠然とした状況認識を解き明かしてみよう。

studiographic/写真AC(編集部)

公的年金の仕組と支給額

公的年金には「国民年金」と「厚生年金」がある。65歳からの平均支給額はざっくり言えば、「厚生年金」が月額7~8万円、「国民年金」が月額5~6万円である。

「厚生年金」は加入した期間とその間の報酬額によって年金額が算定される制度である。40年加入を前提とすれば、最も多い人でも月額23万円ほどである。たとえ、孫正義さんや柳井正さんのような高額所得者であったとしてもだ。それは、年金保険料の算定に使用される標準報酬月額や標準賞与額には上限が設定されており、支給額の算定にもその数値をもとに現在価値に再計算して使用されるためだ。

ちなみに、「厚生年金月額7~8万円」というのは、20~60歳までの40年間の賞与を含めた平均標準報酬額(現役時代の収入)が月額30~35万円の人たちである。

一方、「国民年金」は現役時代の報酬の多寡に関係のない定額制であるため、20~60歳までの40年間の加入した期間に応じた支給額となる。40年間加入した場合は、満額の年780,100円(2019年度価格)が支給される。従って「国民年金」の平均支給額が5~6万円というのは、その加入期間が30~37年ということを意味する。

公的年金の実質的所得代替率

夫婦2人での受給額を、前述の平均支給額で算定すれば、夫が「厚生年金8万円+国民年金6万円」、妻が「国民年金6万円」の合計で月額20万円である。何とか生活は成り立つかもしれない。

しかし、運悪く妻が亡くなったら、夫の年金は月額14万円だけになってしまう。このように、公的年金の支給額は国民の思いとは裏腹に非常に低額である。厚生労働省が公表する標準モデルを夫婦二人世帯としているのは、穿った見方をすれば、個人単位での低額な年金を隠蔽するため、とも言えよう。

また、厚生労働省は「所得代替率」という表現をよく使うが、これは、年金支給額が現役時代の収入に占める割合のことを意味する。前述のとおり現役時代の収入に連動するのは「厚生年金」だけであるから、「厚生年金」支給額に限定した所得代替率であるべきところ、これにとどまらず、定額制の「国民年金」、さらに妻とはいえ他人の「国民年金」までをも算入して所得代替率を算定・公表している。

それによると、「現役時代の収入35万円」に対して「夫婦の年金20万円」とした場合、所得代替率は57%となる。個人単位で算定される年金に夫婦という概念を持ち込むことで、所得代替率を嵩上げして見せたいわけだ。

個人単位で算定すると、「現役時代の収入35万円」に対して「厚生年金8万円」であるから、所得代替率は23%に過ぎない。定額制の「国民年金6万円」を加味しても40%だ。

このように、厚生労働省が標準モデルとしているケースでは、現在の所得代替率は60%と高く算定されるのだが、これが単身世帯では国民年金を加算しても40%に過ぎないことを理解しておかなければならない。

マクロ経済スライドで支給額は先細り

2004年の年金制度改革では、標準モデル世帯の所得代替率が60%前後と高止まりしていたことから、「マクロ経済スライド」という自動年金給付カット装置を編み出し、所得代替率を50%まで低下させて年金財政を安定させることとされた。この仕組が政権与党をして100年安心な制度だと宣わせている根拠である。

しかし、これもデフレ下では発動される仕組ではなかったため、これまで2015年度と2019年度の2回しか発動されていない。つまり、所得代替率はほとんど低下せず、年金財政は全くもって改善されていないのが実情なのである。

2004年当時は約26年間の調整期間(マクロ経済スライドが実施される期間)が想定されていたが、今後は30年を優に超える調整期間がないと年金財政は維持できない状況にある。そうなれば、調整期間の終期には、世代でも異なるが、受給開始後の年金額が2~3割は目減りしていくことになろう。

現状においても、年金給付額の実質的な所得代替率は低い状況に置かれているのに、さらに低下していけば国民の老後生活の主要な財源たり得ない。2,000万円どころか、3,000万円、5,000万円の問題と化していく。

100年安心の制度は瓦解している

「2,000万円問題」とは関係なく、現在の公的年金の置かれた状況は、「100年安心が瓦解しそうな年金制度」「給付額の先行きが見通せない低額な老後資金」とでも表現するしかない。

制度を盤石にしようとすれば、意味のある給付とはならないし、給付を維持しようとすれば制度がもたない。どうしてこうなってしまったのか?

それは、制度がわかりづらい、開示情報が少ない、まやかしの情報で誤魔化す、など情報開示の不徹底、時代にミスマッチな制度への愚かな弥縫策、シルバー民主主義下でドラスティックな改革の回避、などが原因として考えられよう。

政官の腰が引けすぎていたのである。

社会保障制度の再構築で安心できる将来を

こういう論じ方をすれば、年金の専門家と言われる方々を含め「年金不安を煽っている」と揶揄されることも多い。

不都合な真実があるのか、5年に1度の本年の財政検証は未だ公表されないが、2004年の財政再計算、2009年の財政検証、2014年の財政検証とすべてを自らの手で検証してきた知見に基づけば、どう数字をいじくり回しても現在の年金制度を対症療法的に維持していく意味が見出せない。

仮に、制度が維持できたとしても、それは国民の精神を萎えさせるだけになってしまう。

すでに、公的年金だけを論じても未来の安寧へのソリューションとはならない。医療・介護を含めた社会保険制度、社会福祉制度、生活保護制度などなど、雇用社会の将来を踏まえた「維持可能」で「未来の安心」を担保した社会保障制度の再構築を喫緊に進めなければならない。

政治家が国民のために大改革をやる気があるなら、不勉強を表象するような稚拙な年金議論や年金を政争の具にする愚かな行為を直ちに止めて、党派を超えた建設的な議論を進めていただきたい。

それができないのであれば、政治家が口出しできない超国家的な第三者機関による実効性のある社会政策体系づくりに直ちに取り組むべきである。これ以上政治家の醜態を目にしたくないというのが一般庶民の素直な感情であろうことを付言して筆をおく。

大曲 義典 株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ/大曲社労士事務所 代表取締役兼所長
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナーとして、企業の人事労務管理をサポートする経営コンサルタント。企業経営を健康デザイン経営®という斬新な手法でアシストしている。九州を拠点に活動している。

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