“闇営業”問題で再認識。他人ごとではない「暴排条項」

2019年06月26日 06:00

この騒動に対して最初の印象は、とにかく「しょうもない」の一言だった。

テレビを観ればどのチャンネルでも「お笑い芸人」なる人々が出ずっぱりだ。「不思議の国のアリス」の「いかれお茶会A Mad Tea-Party」よろしく、「なんでもない日おめでとう」と笑っていなければ、明るくなければ、その日は残念な一日とでも考えているような。

そんな強迫症的なバカ笑いに日頃から辟易としている。カラテカ入江氏なる人物も、まったく興味の対象外で、この騒動で詳しく知った程度だった。

解雇された入江氏(イリエコネクション社HPより:編集部)

(秋月個人サイト記事:カラテカ入江さんの闇営業問題。普通の経営者や自営業にも他人事ではない件

企業間のほとんどの基本契約書に盛り込まれる「暴排条項」

しかし、その後の明らかに嘘っぽかった宮迫氏らの「出演料はもらっていません」弁明以降の展開は(アゴラの影響力も少なからず見受けられたが)色々自分事として考えさせられることが多かった。

まず何より、「反社会的勢力」「暴力団」排除の徹底は小経営者にとってさえ、他山の石だとあらためて認識させられた。

企業同士の基本契約書に「反社会的勢力、暴力団排除条項(いわゆる暴排条項)」が盛り込まれるようになって久しい。経営者自らや、役員社員がその一員でないことを約束するのは当たり前として、業務委託先として利用しないことや、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しないこと」を相手方に保証する内容が一般的だ。もし、それに違反すれば「相手方は、何らの催告を要せずして、本契約を解除することができる。」と一般的には規定される。つまり一発アウトなのである。

今回取り沙汰されている、宮迫氏の闇営業が「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しない」という内容に法律的に該当するかどうかは議論の分かれる部分もあるのだろうが、経営者視点で見れば、議論になる時点で危機管理最高レベルの状態である。

今どき当然、吉本興業もテレビ各局と基本契約書を取り交わしているだろう。つまり吉本興業は各テレビ局との取引全てをこの不祥事で失うリスクさえあるのだ。吉本興業の後手後手に回っている今回の対応は、簡単にそんな事態は起こるまいという慢心がまだまだうかがえる。

スポンサー企業も「反社会的勢力、暴力団」がらみには神経質にならざるを得ない

今回早々に宮迫氏ら出演「アメトーーク!」のCM枠が、AC(公共広告機構)素材に差し変わったことも話題になった。つまり、スポンサー企業にとっても、「反社会的勢力、暴力団排除」は軽いイシューではないのだ。

アメトーーク!(テレビ朝日公式)ツイッターより:編集部

反社会的勢力の関与が疑われる詐欺集団の宴会に参加した芸人の番組を提供することが、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しないこと」に直ちに該当するとは思わないが、スポンサー企業も多くの企業間取引で成り立つ存在である。主要取引先との全取引一発アウトのリスクを考えれば、万一にも疑いをもたれるような活動を、まして多額の広告予算を使ってまでしたくないだろう。

現状は、番組内容についてテレビ局に一任している状態

私とて広告取引に関わってきたものとして、この点考えさせられる部分が多かった。テレビ番組というのは「提供」というぐらいで、本来の趣旨は、広告主がその番組の内容に協賛し費用を拠出し制作(テレビ局への委託を含めて)するものだ。実際に、番組提供費は電波料(いわゆる波料金)+制作料に分かれている。

実際にテレビ黎明期において1社提供枠などではスポンサー、広告代理店、テレビ局が一体となって番組の企画から取り組んでいたと聞く。しかしながら時代が進むにつれ分業が進んだことや、テレビ番組の広告料金も高騰してしまい、とても1社提供など難しくなってきたことを受け、番組の企画制作は一部の例外を除けばテレビ局が独自に行うようになって現在に至る。

スポンサー及び広告代理店としても、視聴率等の効率面は気にするが、番組の中身についてはテレビ局に任せている状況だ。実際、改編期などに番組内容が変わるときに番組のプロデューサーが主要スポンサーに新企画の内容を説明する場が設けられ我々も同席するが、企画内容に異を唱えるクライアントを見たことはない。

コンテンツのコンプライアンス管理を徹底できるメディアが勝利する

このお金の出どころと、番組の企画制作が分離することには、テレビ局が自由な番組作りをできるメリットもある。実際に、局の制作現場では「編成権」という概念で、自分たちの裁量を守りたいと意向が強い。一方のスポンサー企業も、餅は餅屋ということもあるし、漠然としたテレビ局への信頼感からあまり番組内容に口出しをしてこなかったことが実情だ。

しかし、ネットメディアも台頭しメディア環境がさらに様変わりしていく今後はどうだろうか。とにかく、テレビ局に広告予算を預けておけば良いとも言っていれられなくなることは間違いないだろう。実際、今回も先にネット世論がざわざわしたことから、吉本興業やスポンサー企業は対応を迫られた部分がある。

テレビ局としては、真価が問われるだろう。政策的に放送免許を預けられ、その巨大事業体としてのパワーで、適法性や社会的適合性を担保する機能を今後も維持できるのか。むしろ、最近はYouTubeなどでもガイドラインの運用が厳しくなりつつあるようであるが、力のあるネット企業がコンプライアンス的な信頼感をも実装し、テレビを凌ぐ広告媒体として屹立するのか。

当アゴラで山口弁護士の記事「吉本興業『闇営業』事件 〜 コンプライアンスを前向きに考えよう」にも指摘があったが、コンプライアンスをないがしろにして、生き残れる時代でないことだけは確かだと再認識させられた事件でもあった。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。秋月涼佑のオリジナルサイトで、衝撃の書「ホモデウスを読む」企画、集中連載中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki

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秋月 涼佑
ブランドプロデューサー

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